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番外編① 橘ひかりと白石美咲の秘密の会話

昼休み、校舎の裏庭。

そこはクラスの誰もあまり来ない、静かな場所だった。


「で、結局どうなの?」

ベンチに座りながら、白石美咲が問いかける。

目の前にいるのは、クラスのムードメーカー・橘ひかり。

いつもは陽気な彼女も、今は珍しく少し真剣な表情を浮かべている。


「どうって?」

橘はパンを一口かじりながら、わざととぼけたように聞き返した。


「佐倉くんのことよ。」


その名前を出された瞬間、橘の手がピタリと止まる。

白石はそれを見逃さなかった。


「ほら、やっぱり気にしてるんじゃない。」

「……別に?」

「嘘。」


橘はため息をついた。


「だってさー、あいつ、こっちがからかうと面白いくらい反応するんだもん。」

「それはそうね。」

白石もクスッと笑う。確かに佐倉迅は、目を合わせるたびに狼狽えていて、それを見るのは少し楽しかった。


「それに、気づいてる? 佐倉くん、前よりずっとクラスで馴染んでるよ。」


橘の言葉に、白石はゆっくりと頷く。


「確かに。前はいつも一人だったのに、最近は話しかけられてもそこまで拒絶してない。」


「そうそう! つまり、私の作戦大成功ってわけ!」

橘は得意げに胸を張る。


「ふふっ。ほんと、ひかりは世話焼きね。」

「んー、まぁね?」


橘は笑ってみせるが、その瞳にはほんの少しだけ、違う感情が滲んでいた。


白石はそれを見て、少し意地悪な質問をしてみることにした。


「じゃあ……もし、佐倉くんが誰かに取られちゃったら、どうする?」


「……は?」


「例えば、佐倉くんが他の子と仲良くしてたら?」


橘の表情が一瞬固まる。


「いや、それは別に……ほら、あいつは私がからかわないと何もしないでしょ? だから、ちょっと構ってるだけで……」


「ふーん?」


白石はニヤリと笑いながら、橘の目をじっと見つめた。


「……ちょっと、何?」

「別に?」


白石は微笑みながら、お茶を濁した。

橘は不満げに頬を膨らませる。


「ったく……なんなのよ、美咲。」

「別に。ただ……ひかりがどう思ってるのか、気になっただけよ。」


橘は不機嫌そうに視線を逸らした。


「うるさいな……。」


その横顔を見ながら、白石は思った。


(ひかりはまだ気づいてないみたいだけど……)

(たぶん、もうとっくに "そういう感情" が芽生えてるんだろうな。)


でも、それを指摘すると、きっと橘は頑なに否定するだろう。


だから、今はそっとしておくことにした。


「ま、私は佐倉くんがひかりと一緒にいるの、悪くないと思ってるわ。」

「……は?」

「ただ、それだけ。」


白石は立ち上がると、ひらひらと手を振ってその場を去る。


橘はしばらく黙っていたが、ふと呟いた。


「……なにそれ。」


自分でもよくわからない、胸の奥のもやもやした感情を抱えながら。

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