俺の"読心能力"は、確実に進化していた。
いや、もしかすると、最初から"強い力"を持っていて、今まで気づかなかっただけなのかもしれない。
「なあ、ひかり」
「ん?」
「この能力、もっといろんな人で試してみたい」
教室を見渡し、適当にクラスメイトの視線を探る。
そして、俺はふと——風間と目が合った。
(……こいつの心も読めるのか?)
試しに、ほんの少しだけ意識を向ける。
——だが、その瞬間、俺の頭に流れ込んできたのは、強烈な違和感だった。
(……え? な、何も聞こえない?)
いや、それだけじゃない。
何か、"ブロック"されてるような感覚。
「……風間、お前……」
俺が言いかけた瞬間、風間が鋭い目で俺を見た。
「……お前、今、何をしようとした?」
ドキッとする。
まるで、俺が能力を使おうとしたことを見抜かれていたかのような口ぶり。
「え、いや……別に?」
「嘘つけ。今、お前の視線、完全に"読もう"としてただろ」
やばい。バレてる。
「お前の能力、"変化"したな?」
風間は俺に詰め寄るように言った。
「そ、それは……」
誤魔化そうとしたが、ひかりが横から口を挟んだ。
「ちょっと待って風間くん! なんで佐倉くんの能力が変化したって分かるの?」
「……」
風間は少し考え込むように沈黙した後、ため息をついた。
「……まあ、ここまで来たなら隠してもしょうがねえか」
そう言って、風間はポケットから何かを取り出した。
小さな、銀色のコインのようなもの。
「これ……?」
俺が見つめると、風間はそれを軽く指で弾いた。
——その瞬間、俺の頭が"真っ白"になった。
「……っ!? なんだ、これ……」
目の前が霞むような感覚。
さっきまで自由自在に読めていた"心の声"が、一瞬で掻き消えた。
「これが"妨害装置"だ」
風間はそう言った。
「……妨害装置?」
「ああ。俺は"適応者特別監視班"と関係があるわけじゃねえが、"チョイ能力"の進化については、ある程度知ってる。……そして、お前の能力は今、危険な領域に入ろうとしてる」
「危険な領域……?」
「お前が完全な読心能力を手に入れたら、もう"チョイ能力者"じゃなくなる。お前は……"適応者"として、政府に管理される存在になるんだよ」
——適応者。
その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋が冷たくなった。
適応者——それは、政府が特別監視している"本物の能力者"の総称。
「……俺が、適応者に?」
「おそらくな。そして、それを知っていたからこそ、白崎はお前のことを監視してたんだろ」
白崎先生……。
あの"進化の兆し"って言葉、そういう意味だったのか?
「なあ、佐倉」
風間が真剣な表情で俺を見る。
「お前、これ以上進化したら、もう普通の高校生には戻れねえぞ?」
……。
俺は、一体どうすればいい?
能力を"進化"させるのか、それとも——
選択の時が、迫っていた。