俺たちは今、白崎先生を調査するため、倉庫の中に潜んでいる。
「……おい、これって絶対ヤバいやつだろ」
俺はひかりの顔を見た。彼女も同じように驚きながら、倉庫の中を覗き込んでいた。
白崎先生はスマホ越しに、誰かと話している。
「"チョイ能力者"のデータ収集は順調だ。進化の兆しが見られる者もいる……」
進化の兆し……?
俺の能力が本当は"チョイ"じゃないかもしれないと感じていた矢先、そんな話を聞いてしまった。
「なあ、先生って俺たちチョイ能力者を監視してるのか?」
「どうなんだろう……でも、少なくとも普通の教師じゃないってことは確かだよね」
ひかりが小声で答える。
その時——
「誰だ?」
——白崎先生がこちらを向いた。
「ヤバっ!!」
俺たちは反射的にしゃがみ込んだ。
心臓がバクバクと鳴る。
白崎先生は辺りを見回したが、特に異常はないと思ったのか、またスマホに視線を戻す。
「……まあいい。そちらの指示を待つ」
そして倉庫の奥へと消えていった。
「今の、何だったんだろう……?」
「分からん。でも、俺たちを狙ってる可能性は高い」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
("チョイ能力者"のデータ収集……進化の兆し……俺たち、利用される?)
ひかりと目を合わせる。お互い、何をどうすればいいのか分からない。
その時——
「……お前ら、また何してんの?」
背後から突然声をかけられ、俺は飛び上がりそうになった。
振り向くと、呆れた顔をした風間が立っていた。
「えっ!? いや、その……ちょっとした調査?」
「はあ?」
「またその回答!?」
ひかりが慌ててフォローしようとしたが、風間はジト目で俺たちを見てくる。
「……お前ら、また変なこと考えてるだろ。どうせロクなことにならねえんだからやめとけ」
「いやいや、これは本当に重要な調査なんだって!」
「はあ……まだやってんのか。まあ、どうせ止めても聞かねえんだろ?」
風間はため息をつくと、無言で俺たちの腕を引っ張った。
「え、何!? どこ行くの?」
「つべこべ言うな。人目につかない場所に移動するぞ」
風間に連れられて着いたのは、学校の屋上だった。
「……え、屋上?」
「ここなら人気もないし、話せるだろ」
風間はフェンスにもたれかかりながら言った。
「で、何を調べてんだ?」
「……白崎先生のことだよ」
俺がそう言うと、風間の表情がわずかに変わった。
「……白崎?」
「ああ、先生、やっぱり普通じゃないっぽくてさ。さっき、"チョイ能力者のデータ収集"とか"進化の兆し"とか言ってたんだよ」
すると風間は、珍しく難しい顔をして黙り込んだ。
「……風間?」
「……お前ら、本気で深入りする気か?」
「え?」
「白崎に関わるなら、覚悟しとけよ。あの人、ただの教師じゃねえから」
風間はそう言うと、フェンスの向こうをじっと見つめた。
「……お前、何か知ってるのか?」
「…………」
風間は答えなかった。
ただ、その沈黙が、何よりも不穏な空気を漂わせていた。