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第8話 チョイ能力の真実

──放課後。


「えっ!?先生、読まれたことに気づいたの!?」


ひかりは俺の話を聞くなり、驚いた顔で詰め寄ってきた。


「ああ、バレバレだった」

「でも、普通そんなの分かる?」

「分からないと思う。だから、やっぱり先生は普通の人間じゃない」


ひかりは腕を組んで考え込む。


「ねえ、佐倉くん。先生が"読まれたことに気づく"なら、もしかして逆もできるんじゃない?」

「逆?」

「つまり……佐倉くんが"読んだことに気づかれないようにする"こと」


俺は息をのむ。


考えたこともなかった。俺の能力は、"目が合った瞬間だけ"心が読める力。でも、もしかしたら、それだけじゃないのかもしれない。


「試してみる価値はあるな」

「よし!じゃあ私で試してみよう!」


ひかりは自信満々に俺の前に立ち、バッチリ目を合わせてきた。


俺は息をのむ。


(えっと……うわ、超見られてる。佐倉くん、なんか顔赤い?え、なんで?え、まさか私のこと——)


「うわあああああ!!」


俺は慌てて目を逸らした。


「え?え?なになに!?どうしたの!?」

「いや、なんでもない!!」

「ちょっと!何考えてたのか教えてよ!」

「うるさい!実験にならん!」


俺は顔を赤くしながら逃げ出した。ひかりは笑いながら追いかけてくる。


***


「で、なんで俺はこんなところにいるんだ?」


土曜日の昼、俺はひかりに連れられ、フェアトレード商品を扱うカフェに来ていた。


「このお店、ずっと気になってたんだよね!」


ひかりはメニューを眺めながら、目を輝かせている。俺もメニューを見てみると、普通のカフェとはちょっと違うラインナップが並んでいた。


「フェアトレードチョコのガトーショコラか……」

「美味しそうでしょ?佐倉くん、甘いもの好きだから絶対気に入ると思う!」


俺は少し考えた後、「じゃあ、それで」と注文することにした。


***


「……うまい」


目の前に運ばれてきたガトーショコラを一口食べると、濃厚なチョコレートの風味が口いっぱいに広がった。ほどよい甘さとほろ苦さのバランスが絶妙だ。


「でしょでしょ!? フェアトレードの商品って、美味しいだけじゃなくて、生産者の人たちにもちゃんと利益が回る仕組みになってるんだよ」


ひかりは嬉しそうに説明する。


「ふーん……」


正直、フェアトレードの仕組みについては詳しくなかったが、こうして実際に美味しいものを食べてみると、なんとなく関心が湧いてくる。


「佐倉くんも、フェアトレードについてもっと知ってみたら?」

「まあ、興味がないわけじゃないけど……」


なんとなく照れくさくなって、ガトーショコラをもう一口頬張る。


「そういえば、佐倉くんの能力の話だけど」

「ん?」

「次、白崎先生に会うときは、"読まれたことに気づかれない"ようにできるか、試してみるのもアリじゃない?」


……そうか。


今までは「読める」ことにばかり意識が向いていたけど、「読んだことを隠す」っていう使い方もあるのかもしれない。


白崎先生の謎、俺の能力の可能性、そしてひかりとのなんだかんだ楽しい日常。


"チョイ"能力だと思っていた俺の力は、まだまだ奥が深そうだった。


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