──放課後。
「えっ!?先生、読まれたことに気づいたの!?」
ひかりは俺の話を聞くなり、驚いた顔で詰め寄ってきた。
「ああ、バレバレだった」
「でも、普通そんなの分かる?」
「分からないと思う。だから、やっぱり先生は普通の人間じゃない」
ひかりは腕を組んで考え込む。
「ねえ、佐倉くん。先生が"読まれたことに気づく"なら、もしかして逆もできるんじゃない?」
「逆?」
「つまり……佐倉くんが"読んだことに気づかれないようにする"こと」
俺は息をのむ。
考えたこともなかった。俺の能力は、"目が合った瞬間だけ"心が読める力。でも、もしかしたら、それだけじゃないのかもしれない。
「試してみる価値はあるな」
「よし!じゃあ私で試してみよう!」
ひかりは自信満々に俺の前に立ち、バッチリ目を合わせてきた。
俺は息をのむ。
(えっと……うわ、超見られてる。佐倉くん、なんか顔赤い?え、なんで?え、まさか私のこと——)
「うわあああああ!!」
俺は慌てて目を逸らした。
「え?え?なになに!?どうしたの!?」
「いや、なんでもない!!」
「ちょっと!何考えてたのか教えてよ!」
「うるさい!実験にならん!」
俺は顔を赤くしながら逃げ出した。ひかりは笑いながら追いかけてくる。
***
「で、なんで俺はこんなところにいるんだ?」
土曜日の昼、俺はひかりに連れられ、フェアトレード商品を扱うカフェに来ていた。
「このお店、ずっと気になってたんだよね!」
ひかりはメニューを眺めながら、目を輝かせている。俺もメニューを見てみると、普通のカフェとはちょっと違うラインナップが並んでいた。
「フェアトレードチョコのガトーショコラか……」
「美味しそうでしょ?佐倉くん、甘いもの好きだから絶対気に入ると思う!」
俺は少し考えた後、「じゃあ、それで」と注文することにした。
***
「……うまい」
目の前に運ばれてきたガトーショコラを一口食べると、濃厚なチョコレートの風味が口いっぱいに広がった。ほどよい甘さとほろ苦さのバランスが絶妙だ。
「でしょでしょ!? フェアトレードの商品って、美味しいだけじゃなくて、生産者の人たちにもちゃんと利益が回る仕組みになってるんだよ」
ひかりは嬉しそうに説明する。
「ふーん……」
正直、フェアトレードの仕組みについては詳しくなかったが、こうして実際に美味しいものを食べてみると、なんとなく関心が湧いてくる。
「佐倉くんも、フェアトレードについてもっと知ってみたら?」
「まあ、興味がないわけじゃないけど……」
なんとなく照れくさくなって、ガトーショコラをもう一口頬張る。
「そういえば、佐倉くんの能力の話だけど」
「ん?」
「次、白崎先生に会うときは、"読まれたことに気づかれない"ようにできるか、試してみるのもアリじゃない?」
……そうか。
今までは「読める」ことにばかり意識が向いていたけど、「読んだことを隠す」っていう使い方もあるのかもしれない。
白崎先生の謎、俺の能力の可能性、そしてひかりとのなんだかんだ楽しい日常。
"チョイ"能力だと思っていた俺の力は、まだまだ奥が深そうだった。