次の日の朝、学校に着くと、ひかりが興奮した様子で駆け寄ってきた。
「佐倉くん! 白崎先生のこと、ちょっと調べてみたんだけど……」
「え、マジで?」
「うん! でも、すごく変なの。前の勤務校の記録がほとんどないのよ。それに、超能力者データベースにも登録されてないみたい」
「は?」
この世界では、超能力者は政府によって管理されている。能力者は0.1%しかいないから、基本的にデータベースに登録されるのが普通だ。
「つまり……白崎先生は、本当は能力者じゃないか、もしくは何か隠されてるってことか?」
「多分ね」
俺たちは顔を見合わせた。ますます怪しい。
「よし、もう一回白崎先生に接触してみるか」
──昼休み。
俺は再び職員室へ向かった。ひかりは廊下で待機。
「先生、質問いいですか?」
「おう、佐倉か。なんだ?」
白崎先生が俺を見た瞬間、また、ハッキリした思考が聞こえた。
(こいつ……昨日、私の思考を読んだな?)
ヤバい!!
俺はとっさに目を逸らしたが、もう遅い。白崎先生はニヤリと笑った。
「……佐倉、お前さ、"チョイ能力"なんかじゃないんじゃないか?」
「えっ?」
先生は俺をじっと見つめた。
「お前の能力、本当は"チョイ"どころじゃないんじゃないのか?」
心臓がドクンと跳ねる。
「まさか……先生も"読める"のか?」
「いや、俺は読めない。でも、"読まれた"ことには気づく」
読まれたことに気づく……? そんな能力があるのか?
「お前、もう少し自分の力をちゃんと試してみた方がいいぞ」
そう言うと、白崎先生は意味深に笑い、何事もなかったかのように書類に目を落とした。
俺はその場を立ち去りながら、背中に冷や汗をかいていた。
(俺の能力、本当は"チョイ"なんかじゃないのか……?)
──放課後。
「で、結局どうだったの?」
ひかりが俺の顔を覗き込む。俺はため息をつきながら、白崎先生とのやり取りを簡単に説明した。
「なるほど……やっぱり先生、怪しいね!」
「お前、テンション上がってない?」
「そりゃもう、ミステリーの香りがするからね!」
こいつは相変わらず楽しそうだ。
「それより、佐倉くん!」
「ん?」
「今週の土曜、空いてる?」
「……なんで?」
ひかりはスマホを見せながら、ニコッと笑った。
「このフェアトレードのカフェ、一緒に行かない?」
「フェアトレード?」
「うん。ちょっと前にオープンしたお店で、コーヒーとかチョコレートとか全部フェアトレード商品らしいの。前から気になってたんだけど、1人で行くのもなーって思ってて」
「俺、別にコーヒーとか詳しくないぞ?」
「大丈夫大丈夫! そういうの関係なく、普通におしゃれで美味しいんだって!」
ひかりはワクワクした様子で画面をスクロールする。
「それにさ、佐倉くん、甘いもの好きでしょ? そこのカフェ、フェアトレードのチョコレートを使ったスイーツが評判なんだって!」
「……マジで?」
少し興味が湧いてしまった。
「じゃあ、行ってみるか」
「やった!」
ひかりは満足そうに笑い、スマホを操作し始める。
白崎先生の謎、俺の能力の変化、そして急に決まったカフェ巡り。
なんだか、週末が妙に落ち着かないものになりそうだった。