「ねえ、佐倉くん。あの先生、なんか怪しくない?」
橘ひかりの言葉に、俺は内心「またかよ」とため息をついた。
「何が?」と適当に流すと、ひかりは腕を組んで真剣な顔をする。
「だって、最近転任してきたばっかりなのに、すごく情報通じゃない? それに、目が合ったときの視線が妙に鋭いっていうか……なんか、見透かされてる感じがするの」
「……」
俺は心の中で「それ俺のセリフだろ」とツッコミつつも、ひかりの言葉に少し引っかかった。
俺たちの担任になった白崎しらさき先生。確かに優秀そうな先生だが、どこかミステリアスな雰囲気がある。
「じゃあ、試してみるか」
「試すって?」
「目を合わせて、心を読んでみる」
俺の能力は"チョイ"能力だ。超能力者の中でも微妙な部類に入るが、白崎先生の心を読めれば、何かしらの手がかりが得られるかもしれない。
◇
「先生、すみません。今週の小テストの範囲を確認したいんですけど……」
放課後、俺は職員室に向かい、適当な質問を口実に白崎先生と話すことにした。
「ああ、いいぞ」
白崎先生は手元の資料を見ながら俺の方を見上げ――
「……やはり、こいつか。能力は低いが、危険因子になる可能性があるな」
――!?
俺は思わず目を逸らした。
(今、何か……ヤバいことを聞いた気がする!?)
「佐倉、どうした?」
「い、いや、なんでもないです!」
俺は適当に誤魔化し、その場を立ち去った。心臓がバクバクする。
("危険因子"って……どういう意味だ!?)
◇
「で、どうだった?」
職員室の前で待っていたひかりが、興奮気味に尋ねる。
「……マジで怪しい」
「やっぱり!?」
俺は先生の心の声を聞いたことを説明した。
「でもさ、佐倉くん……"能力は低いが"ってどういうこと?」
「……それが分からない」
俺はチョイ能力者だ。確かに大した力じゃない。だけど、それが"危険因子"ってどういう意味なのか?
もしかして――
俺の能力には、まだ"何か隠された力"があるんじゃないか?
◇
その日の帰り道。
「ねえ、佐倉くん!」
「ん?」
ひかりがスマホを見せながら、ニヤリと笑った。
「この前言ってたアクション映画、今週末公開だって! 一緒に観に行こうよ!」
「は? なんで俺が?」
「だって、佐倉くんも気になってたでしょ? それに……」
ひかりは悪戯っぽく目を細める。
「映画館ってさ、暗くて人が多いでしょ? つまり、いろんな心の声が聞こえてくるわけじゃん?」
「……」
「もしかしたら、先生のこととか、能力のこととか、何かヒントが見つかるかもよ?」
俺はしばらく考えた後、ため息をついた。
「……まあ、別に暇だしな」
「やった!」
ひかりは嬉しそうに笑う。
こうして、俺たちの"映画デート(?)"が決まったのだった。