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第4話 チョイ能力で世界を救え!?

それからというもの、俺は――


少しずつ人と目を合わせることに慣れていった……


……わけではない!!


そうだったらどんなに楽だったか!!


悪いな!!

こんな俺で!!!


その日から、橘との 静かなる攻防戦 が始まった。


「さ~く~ら~! さくら~? 佐倉く~ん?」


うぜぇ……。

目を合わせようとすんな。

まじでうぜぇ……。


「……なんだよ。」


ぱちっ。


「……好き。(このパーカーの猫)」


――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


な、な、な、何!?!?!?!?


事故で目が合った俺は、 全身の血が逆流する のを感じながら、慌てて視線を逸らした。


どういう意味だ、それ!?

いやいや、待て待て待て。

絶対俺のことじゃない。


だって、パーカーのフードを深く被って、メガネをかけて、マスクまでしてる俺だぞ!?

そんな俺を 好き なわけが……


「どうしたの?」


「い、いや、なんでもない!!!」


俺は 全速力 で教室を飛び出した。


昼休み。


俺は人目を避けるため、人気のない渡り廊下でひっそりとパンをかじっていた。


……のに。


「佐倉くーん!!」


ヤバい、来た。

どこで俺を見つけたんだ、こいつは!?


「さっきの、なんで逃げたの?」


橘がニヤニヤしながら詰め寄ってくる。

俺は咄嗟に目を逸らした。


だが――


「ねえ、こっち見てよ。ほら、目合わせて?」


今度は俺の視界に入り込もうとする。

しつこい、こいつ……!!


「……別に意味はない。ただ、目が合うのが嫌なだけだ。」


嘘だ。


さっきの「好き」って言葉が、頭から離れない。

それ以上、心を読んでしまうのが怖かっただけだ。


「ふーん? でも、今ちょっと焦ったよね?」


「気のせいだ。」


「じゃあ、もう一回目合わせてみよ?」


……お前は俺の能力を知らないのか?

それとも、知っててわざとやってるのか……?


だが、これ以上逃げると余計に怪しまれる。

俺は腹をくくって、橘の目を見た。


――ズキンッ!!


「……佐倉くん、ほんと目綺麗だよなぁ。ずっと見てたいくらい……あ、でも本人に言うのは恥ずかしいからやめとこ。」


!!!!!!!!!!!!


俺は慌てて目を逸らした。


「はい、今の聞こえたね?」


「……聞こえてない。」


「嘘つけ! 今、明らかに動揺したでしょ!」


橘が腕を組み、ニヤニヤと俺を見つめる。


「……ほんとに何も聞こえてないって。」


俺はそっぽを向きながら誤魔化した。


「ふーん……まあいいや。」


橘は満足したのか、軽く肩をすくめて踵を返す。


「じゃあね、佐倉くん。また後でね♪」


そう言って去っていったが――


俺はその場に立ち尽くしていた。


このままじゃ、俺の心が持たない。


(どうする、俺……!?)


橘のせいで、俺の「チョイ能力者」としての生活は崩壊の一途を辿っていた。


だが、それと同時に、俺はあることに気づき始めていた。


(……この能力、うまく使えば意外と便利なのでは?)


そう思うようになったのは、ある日、クラスの委員長・白石美咲に頼みごとをされた時だった。


「佐倉くん、このプリント、各班に配ってくれない?」


「え、俺?」


「うん、クラス全員に配らないといけないんだけど、ちょっと手が足りなくて……」


めんどくせぇ……と断ろうとしたその時――


「(佐倉くん、こういうの嫌がるかな……でも、お願いできたら助かるんだけど……)」


白石の心の声が聞こえた。


(……あれ? 俺がどう思うか、ちゃんと考えてくれてる?)


そう思うと、なんとなく断りにくくなった。


「……まあ、いいけど。」


「ほんと!? ありがとう!」


白石はぱっと顔を明るくさせた。

その笑顔を見て、俺はちょっとだけいいことをした気分になった。


(なるほど……この能力、他人の本音がわかるから、意外とコミュニケーションには使えるのかも……?)


そして――


この能力が、思わぬ形で役立つ日がやってくるとは、この時の俺はまだ知らなかった。


それからというもの、俺は「チョイ能力」の使い方を少しずつ試してみることにした。

とはいえ、あくまで さりげなく だ。


たとえば、友達のいない俺にやたらと話しかけてくるクラスのムードメーカー・橘ひかり。


「ねえねえ佐倉くん、この前の映画めっちゃ面白かったんだよ!」


――ズキンッ!!(心の声が流れ込む)


「(でも、佐倉くんってこういう話あんまり興味なさそうだし、つまんないって思ってたらどうしよう……)」


(え、意外と気を遣ってる……?)


正直、映画の話なんて興味なかったが、そこまで気にされるとさすがに適当に流すのも悪い気がする。


「へぇ、どんな映画?」


俺が興味を示すと、橘はパッと顔を輝かせた。


「え!? あのね、アクションシーンがすごくてさ……!」


勢いよく話し出す橘。身振り手振りもついて、表情もコロコロ変わる。

それを見ているうちに、なんか……こう、胸の奥がむず痒い感じになってきた。


(……これ、もしや俺、めちゃくちゃいい反応を引き出せてるんじゃね?)


この能力、悪くないかもしれない。

相手の心の声を少しだけ読んでおくと、会話の流れがスムーズになる。

適当に相槌を打つんじゃなくて、相手が本当に話したいこと に合わせて返すことができるのだ。


(なるほど……こうやって使えば、俺でも人と普通に会話できるんじゃね?)


そう思っていた、その時――


「ねえねえ佐倉くん!」


またもや橘が勢いよく顔を近づけてきた。


「今度さ、一緒に映画観に行かない?」


「は?」


「だって、佐倉くんってアクション映画あんまり観ないでしょ? だから、これを機にさ!」


そう言いながら、橘は期待に満ちた笑顔を向けてくる。


(え、これって……もしかして……?)


動揺して思わず目をそらす俺。

そして、次の瞬間――


「(え、今の誘い方、ちょっとデートっぽくなかった!? わ、どうしよう!)」


――ズキンッ!!


(いや、お前のほうが動揺してんのかよ!?)


俺はこの能力を 「コミュニケーション補助ツール」 として使うことを決意した。

……が、まさかこんな形で思わぬ展開を呼ぶことになるとは、この時の俺はまだ知らなかった。


「佐倉くん、助けて!」

昼休み、俺がぼーっとしていると、突然教室のドアがバンッと開いた。


そこに立っていたのは、クラスの委員長・白石美咲。


「ど、どうした?」


「数学のノートがなくなっちゃったの!」


「……は?」


「机の中にも、カバンの中にもなくて……さっきから探してるんだけど、全然見つからなくて……」


あー、なるほど。いわゆる 「物の紛失事件」 ってやつか。


「で、俺にどうしろと?」


「佐倉くん、目を見たら人の心が読めるんでしょ!?」


――バレてる!?!?


「ちょっ!? なんでそれ知って……」


「えっと……その……橘さんが……」


橘……テメェ……!!


俺が睨むと、すぐ横でくつろいでいた橘ひかりが 「あはは~、バレちゃったか~」 みたいな顔で笑っている。


「お前、なんで勝手に言いふらしてんだよ……」


「だって気になったんだもん! ほら、私のことも読めるか試してみてよ!」


そう言って、橘は 「じーーっ」 と俺の目を覗き込んできた。


「おい、近い! 近いって!!」


「なになに? まさか照れてるの~?」


「バカ言え!」


「じゃあ、ちゃんと私の心を読んでよ♪」


「……くっ……」


――ズキンッ!!(心の声が流れ込む)


「(佐倉くんが慌ててる顔、なんか可愛いなぁ……)」


(……は?)


「……」


「ん? どうしたの?」


「いや、なんでもない……」


くそっ、こいつ、無意識でこういうこと言うタイプか!?


「ま、まあそれは置いといて、白石のノート探しを優先しようぜ!」


「あ、そうだった!」


白石が俺の袖を引っ張る。


「お願い、佐倉くん!」


……仕方ない。やるか。


◆◇◆


俺と白石は、クラスメイトに片っ端から事情を聞いてみることにした。


最初に話を聞いたのは、赤坂あかさか という男子。


「ノート? 俺は知らないなぁ。」


――ズキンッ!!


「(やっべ、バレたら面倒なことになりそうだな……)」


(……は?)


お前、何か知ってるな……?


「赤坂、お前、白石のノート見たことあるだろ?」


「えっ!? なんで!?」


「顔に書いてある。」


「ウソつけ!!」


赤坂は慌てたが、俺は確信していた。


「お前、ノートどこやった?」


「ち、違うんだよ! 俺はただ……ちょっと借りようと思っただけで……!」


白石が驚いたように赤坂を見た。


「……どういうこと?」


「その……テスト近いし、白石のノートってわかりやすいって有名だったから、つい……」


お前、クラスの天才キャラのノートを盗んでカンニングしようとしたな!?


「だからって勝手に持ってくのはダメでしょ!」


白石が怒る。


「ご、ごめん……」


赤坂はしょんぼりしながら、自分の机からノートを取り出して白石に返した。


「……佐倉くん、すごい。」


白石が俺を見て、ぽつりと呟く。


「本当に心が読めるんだね……」


「まあ、ちょっとだけな。」


「ありがとう。すごく助かったよ!」


そう言って、白石は満面の笑みを見せた。


俺は思わず目を逸らした。


こんな風に、誰かに「ありがとう」って言われるの、なんか久しぶりな気がする。


――この時、俺は初めて「チョイ能力」があって良かったと思った。


「ねえねえ佐倉くん!」

事件解決後、橘が俺の隣にぴょんと座ってきた。


「な、なんだよ?」


「さっきのすごかったね~! やっぱり佐倉くんの能力、便利じゃん!」


「……まあ、使い方によるけどな。」


「ねえねえ、それで結局、私の心の中って読めたの?」


「えっ?」


「ほら、さっき私、じーっと佐倉くんの目を見つめたじゃん? 何か聞こえた?」


(……お前が「佐倉くん可愛い」とか思ってたなんて言えねぇ……)


「……いや、特に何も。」


「えーっ、ほんとー? 絶対ウソついてるよね?」


橘が 「じーーっ」 とまた俺の目を覗き込んできた。


「ちょ、だから近いって!!」


「ふふっ、佐倉くんって意外とウブなんだねぇ?」


「~~っ!!」


俺は顔を逸らしながら、心の中で誓った。


――この能力、やっぱり厄介すぎる!!


白石のノートが無事に戻り、俺は「チョイ能力」の使い道に少し手応えを感じていた。

だが、それは同時に ある問題 も生んでしまった。


「佐倉くん、やっぱすごい!」


ノート騒動の翌日、白石がクラスのみんなに話したせいで、俺の "心が読める" という能力が噂になってしまったのだ。


「おい佐倉、俺の心読んでみろよ!」

「佐倉くん、今私のことどう思ってるか分かる?」

「お前、橘となんかあるの?」


……めんどくせぇぇぇぇぇ!!!


能力バレたくないのに、なんでこうなった!?

橘ひかりのせいか!? いや、絶対そうだな!?


「おーい佐倉くーん、人気者じゃん?」


その 元凶 が、にやにやしながら近づいてきた。


「橘……お前のせいで、すげぇ生きづらくなったんだけど?」


「えー? でも 『能力、ちょっと役に立つかも』 って顔してたよね?」


「……ぐっ」


こいつ……本当に鋭いな……。

っていうか、なんでそんな得意げなんだよ。


「で、これからどうするの?」


「どうするって……」


俺は考える。

このままクラスのみんなに「能力持ち」として認識されるのは嫌だ。

かといって、無理に否定してもどうせ怪しまれる。


「……"適当に誤魔化す"、これしかねぇ。」


「ふーん? じゃあ、試してみよっか?」


「え?」


橘はニヤリと笑って、俺の目を覗き込んできた。


「ねぇ佐倉くん、"私のこと" どう思ってる?」


――ズキンッ!!!


「(あー、やっぱこの顔かわいいな……)」


!?!?!?!?!?


俺は一瞬で 目を逸らした。


「ちょっ!! 何か聞こえたでしょ!? ねぇ、何!?」


橘が詰め寄ってくる。


「あ、いや、別に……!」


「嘘!! なんか聞こえたでしょ!? 絶対聞こえたでしょ!!!」


やばい。

やばい。

やばい。


このままじゃ、俺の動揺でバレる!!!


「佐倉くん、目を見て!」


「いや、ちょっと待て!」


「見ろ!!!」


「やだ!!!!!」


大騒ぎになる俺たち。

その様子を見ていた白石と赤坂がポツリと呟いた。


「……佐倉くん、もしかしてひかりのこと――」


「ない!!! 絶対にない!!!!!」


「おーおー、わかりやすいなぁ。」


「違うからな!?!?」


この日、俺の "ただのチョイ能力者" という立場はさらに怪しまれることになったのだった……。






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