こんな生活を繰り返していたら、そりゃあ 人間不信 にもなる。
クラスメイトの笑顔も、先生の優しさも——目を合わせた瞬間に心の声が聞こえてしまうからこそ、信用できなくなった。
だから、俺は 極力人と目を合わせないようにしている。
授業中はノートに視線を落とし、黒板を直接見ることすらしない。
廊下では うつむき、足元だけを見ながら歩く。
昼休みは 誰とも話さず、屋上でひとり。
——結果、すっかり ぼっち になった。
「目を見れば人の心が分かる」と言えば聞こえはいいが、実際は 都合のいい部分 しか分からない。
俺が知りたいのは、もっと深い部分 なのに。
そんな生活を続けていた俺だけど、最近、少しだけ変化があった。
「佐倉くん、おはよう!」
橘ひかり。
クラスの中心にいる、明るくて人懐っこいタイプの女子。
俺とは正反対の人間だ。
なのに、なぜか彼女は ぼっちの俺にも気軽に話しかけてくる。
「……おう」
目を合わせないようにしながら、適当に返事をする。
以前なら、こういう会話はすべて避けていた。でも、ひかりは何度避けてもめげない。
だから最近は、もう諦めて適当に相槌を打つようになった。
「ねえねえ、聞いてよ! 今日、英語の時間に先生が——」
ひかりが楽しそうに話しているのを横目に、俺は黙々とノートを取る。
うっかり目を合わせたら、心の声が聞こえてしまうからな。
……まあ、ひかりの場合、聞こえても大したことは考えていないことが多いんだけど。
「それでね——あれ? 佐倉くん、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
適当に相槌を打つと、ひかりは満足したように頷いた。
「ならいいんだけど! じゃあさ、放課後ちょっと付き合ってくれない?」
「は?」
急な誘いに、思わず顔を上げる。
「やった! 目が合った!」
「……っ」
しまった。
ひかりと目が合ったことで、心の声が——
『佐倉くん、やっぱり目がきれいだなあ。もっとちゃんと見てくれたらいいのに』
……は?
思わず目をそらす。
「何、なんか変な顔してるよ?」
「いや……」
ひかりの心の声は、時々よくわからない。
たぶん深い意味はないんだろう。
そう思い込むことにして、俺は溜め息をついた。
「それで、何の用なんだよ?」
「それはね〜……ナイショ!」
「は?」
「いいから、放課後までのお楽しみってことで!」
そう言って、ひかりはニコッと笑う。
……なんだか、嫌な予感がする。
放課後
「……で、なんで俺、こんなところにいるんだ?」
俺が連れてこられたのは、学校近くのカフェだった。
しかも、ひかりだけじゃない。なぜか風間までいる。
「お前もいたのかよ」
「……橘に呼ばれた」
風間はいつも通り無口だが、その横にはカフェのメニューが置かれていて、すでに頼んだらしいパフェが運ばれてくるところだった。
「でさ、佐倉くん!」
ひかりが俺に向かって身を乗り出す。
「このお店、めっちゃ可愛くない? ここのクリームソーダが超おすすめなんだよ! ほら、佐倉くんも頼んでみなよ!」
「いや、俺は——」
「俺はもう頼んだ」
風間が当然のようにパフェを受け取りながら言った。
……こいつ、こういう店も普通に来るんだな。
「佐倉くんも何か頼まなきゃダメ! せっかく来たんだから、楽しもうよ!」
「……はぁ」
なんで俺、こんなことになってるんだろうな……。