俺の名前は佐倉迅。高校二年生。
特技なし、友達なし、目立たない陰キャ。
……だったら、どれだけ幸せだったか。
俺には、"ちょっとだけ" 特別な力がある。
「目が合った瞬間だけ、相手の心が読める」
一見すると便利そうだが、実際はものすごく微妙な能力だ。
長時間読めるわけじゃない。相手の記憶や深層心理まで見えるわけでもない。
せいぜい、「うわ、こいつキモ」とか、「は? 話しかけんなよ」とか、そんな本音が一瞬だけ頭に流れ込むだけ。
おかげで俺はすっかり人間不信になった。
小学生の頃、友達だと思ってた奴の「こいつ空気読めねぇな」という心の声を聞いてしまった。
中学生の頃、会話していたクラスメイトの「適当に相槌打っときゃいいか」に気づいてしまった。
そんなもの、知らなくていいことばかりだった。
だから俺は「他人と目を合わせない」ことを徹底した。
授業中はノートに視線を落とし、休み時間はイヤホンをして寝たふり。
余計なものを読まずに済むし、無駄な人間関係にも巻き込まれない。
そう、思っていた——。
しかし。
「ねえ佐倉くん! ちょっと目を合わせてくれない?」
「お前の能力、めちゃくちゃ面白そうだな」
「……適応者特別監視班として、君を観察させてもらう」
——何か、厄介な連中に目をつけられた。
俺の静かなボッチライフが、いとも簡単に崩壊していく。
事件、騒動、厄介ごと——
「ちょっとだけ」しか使えない能力のせいで、俺は否応なしに巻き込まれていく。
俺は別に、主人公になりたかったわけじゃない。
なろう系みたいに「異世界転生しました!」とか「チート能力で俺TUEEEE!」とか、そういう話じゃない。
これは、
俺が「目を合わせたくない奴ら」に追いかけ回される物語だ。
——そして、おそらく。
俺のボッチライフは二度と戻ってこない。
ようこそ、「チョイ能力で行こう」へ。
俺の「ちょっとだけ不幸な日常」を、笑いながら見届けてくれ。