なんだ? どういうことだ? ラシュトはどこへ消えた?
僕はエルドリスとネイヴァンを起こし、事の顛末を二人へ伝えた。
ネイヴァンが点火魔法で焚き火に火をつけ、洞窟の中に鮮やかな視界が戻ってくる。僕たちは壁面を丹念に調べ始めた。叩いたり、押してみたり、突起に指をかけて引いてみたり。しかし――
「特に変わったところはないな……」
ネイヴァンが首を水平に振る。壁面を構成する岩は、どれもただの岩でしかない。床も、下に抜け穴がないかと三人で調べてみたが、何も見つからなかった。
僕たちが調査を続けていると、外から小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「朝か」
エルドリスは立ち上がると、部屋の入り口へ向かっていく。
「どこへ行くんです? もう砂浜へ戻りましょう。ネイヴァンさん、転移魔法をお願いします」
「少し待て、念のため洞窟の外を確認する」
「確認って何を! エルドリス、待ってくださいっ」
僕は洞窟へ入っていくエルドリスを追った。エルドリスは歩きながら僕の質問に答える。
「確認するのはあの部屋の外側だ。私たちはここに入ってくるとき、蔓に覆われた入り口しか見なかった」
「それが何なんです?」
「あの部屋――あの広い空間には外気が流れていたな。つまり、僅かだが外部と繋がっているということ。その繋がっている場所を外側から見れば、わかるかもしれない。内側を調べてもさっぱりだったが、子どもひとり通り抜けるだけの隙間の手がかりが。あくまで小さな可能性だが」
「わかりました。じゃあ、洞窟の周囲をざっと見て、そしたら浜辺へ帰りましょう」
「おいおい、新人君。なんだか妙に焦っちゃいねえか」
後ろから付いてきていたネイヴァンが飄々と言う。彼にはわからないだろう。この気味の悪い感覚が。この嫌な胸騒ぎが。
どうして僕にはわかるのだろう。
「おはよう!」
洞窟を出たところで僕たちは、正面からラシュトと鉢合わせた。僕は心臓が止まりかけたが、エルドリスとネイヴァンは大したもので、驚く素振りひとつ見せない。これが演者と演出家なのか。
ラシュトは、魚の魔物と何かの果物が入った籠を抱えていた。
「朝ご飯にしよう。お腹空いたでしょ?」
「お前、どこへ行っていた?」
エルドリスが探るように聞くと、ラシュトは後ろめたい様子もなくさらりと答えた。
「近くの川だよ。早起きして朝ご飯の材料を採ってたんだ。この魚――グラングと、それから、これ」
籠の中の果物を持ち上げる。それは紫と赤のまだら模様の果実だった。
「ヴェルドだよ、知ってる? 採れたては
僕たちは、ラシュトに半ば追い立てられるようにして再び洞窟へと入った。
僕はすぐにでも帰りたい気持ちだったが、エルドリスが首を縦に振らなければそうもできない。彼女はラシュトと友好的な関係を築きたいはずだ。島に詳しい彼と仲良くなれればきっと、魔物にされた人間の手がかりも早く見つかるだろうから。
「あ、火を起こしておいてくれたんだ? ありがとう。じゃあ、すぐ作るから待っててね」
ラシュトはビチビチ跳ねるグラングに塩を塗り込むと、魚の口から尾の方へと木の枝を貫通させて、それを焚き火に当たるよう斜めに地面に刺した。パチパチと火が弾け、魚の皮目を焦がしていく。
魚を焼く間、ラシュトは木製のナイフでヴェルドの実を半分にカットした。中には半透明の黄金色をしたゼリー状の果肉が詰まっており、それがぷるんと揺れる。僕たちは黙って彼の手元を見守った。
やがて香ばしい香りが強くなり、グラングが焼き上がると、朝食が始まった。
グラングの塩焼きは、思っていたよりもずっと食べやすく、端的に言えば美味しかった。横っ腹に齧りついた瞬間、よく焼けた皮がパリッと弾け、芳醇な脂が溢れ出す。身はふわっとしていて、骨からもすぐ剥がれる。
口の中に魚の脂が満ちたところでデザートのヴェルドをちゅるんとひと口含めば、たちまち爽やかさが鼻に突き抜ける。果肉を噛むと、じゅわっと甘酸っぱい果汁がジュースのように溢れ、口内の脂を洗い流してくれる。
僕たちはそれぞれ感想を言いつつ魚と果実を平らげた。
ラシュトは、食後に温かい飲み物を出してくれると言って、昨夜と同様に金属のボウルらしきものに水を張って焚き火にかけた。
やがて水が沸騰し、湯気が立ち始める。
僕の意識はそこで途切れた。