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24夜目:紅い魔モノの棲む処

「おいおい、新人君、今なんて言った? 俺の聞き間違いか?」

「聞き間違いじゃありません。彼はA級殺人犯です」


 ネイヴァンは眉をひそめて、少年をまじまじと見つめる。しかし、見たところでわかるものでもない。囚人に、その罪状と等級ごとに刻まれる魔導印は、人道的な理由により監獄の監督官にしか見えないようになっている。


死刑囚島タルタロメアに送られた囚人の生き残りか」


 エルドリスが冷静に呟いた。

 そうでしかあり得ないと僕も思っているが、疑問は残る。


「最後に死刑囚が送られたのは約一か月前です。仮に彼がそのときの死刑囚だとしても、一か月間この島で生き抜いたことになる。そんなのは前代未聞です。大抵は数日で魔物に襲われて命を落とします」


 少年に注意を払いつつ小声で話していると、少年は突然にこりと微笑んだ。


「ねぇ、あなたたちも死刑囚?」


 不意に発せられた問いに、僕は思わず違うと答えそうになったが、その前にエルドリスが進み出て答えた。


「そうだ」


 僕はぎょっとして彼女の横顔を見る。その表情には何か思惑がありそうだった。

 少年は興味深そうに僕たちを見つめながら、


「罪状は?」

「連続強盗殺人。三人ともグルだ」


 少年の目が楽しげに輝いた。


「へぇ! じゃあ僕と似たようなものだね」


 それは笑顔で言う台詞か?

 背筋にぞくりと寒気が走った。


「僕はラシュト」


 少年――ラシュトに促され、僕たちはエルドリスから順に名乗った。


「ラシュト、お前はこの島に詳しいのか? 私たちは昨日来たばかりなんだ」

「そっか。なら僕の方が先輩だね。魔物から身を隠すのに良い場所があるんだ。教えてあげるから、ついてきて」


 ラシュトは元来た暗がりの方を指さし、にっこりと笑った。

 僕たちは顔を見合わせる。


「もう日が暮れるぞ?」


 ネイヴァンが警戒心を滲ませながら呟く。


「確かに、そろそろ浜辺に戻るべきかもしれません」


 僕も同意を示した。

 だが、エルドリスは「いや、」と反意を明示し、


「行こう」


 夜の闇が半分溶け込んだラピスラズリのような瞳で僕たちを見据えた。


「エリィ……」


 ネイヴァンが呆れたような声を出すが、エルドリスを説得する気はなさそうだった。となれば、僕もおのずと従うしかなくなる。


「さあ、こっちだよ」


 場違いに明るく手招きするラシュトの後を僕たちは追った。フワドルといい、今日は何かを追いかけてばかりだ。


 あれ、そういえば――


「あのフワドルはどこへ行ったんです?」


 いつの間にか姿が見えなくなっていた。あんなにエルドリスに懐き、エルドリスが足を止めれば引き返してくるほどだったのに。

 ネイヴァンが鼻で笑う。


「本当のママのところへでも帰ったんだろう。寂しいなぁ、エリィ。俺でよければいつでも抱っこされてやるぜぇ?」

「口を閉じていろ、ネイヴァン・ルーガス。喋るほど馬鹿が露呈するだけだぞ。私はあの幼体の母親ではないし、抱き上げたこともなければ寂しさも感じない」

「へいへい、そうかい」


 一番前を行くラシュトが振り返った。そのまま後ろ歩きで進み続ける。


「あなたたちってさ、不思議な組み合わせだよね。綺麗でかっこいいお姉さんに、変わり者っぽい大きなお兄さん、そして――」


 弱そうなお兄さん、だとか、ひょろひょろのお兄さん、とでも言われることを予想したが、


「――ちょっと怖いお兄さん」

「……え、最後のって僕のことです?」

「そうだけど……気を悪くしたならごめんね。あなたたちはどこで知り合ったの?」


 第七監獄グラットリエの地下調理場だが、それはエルドリスの気に入る答えではないだろう。


「帝都のバーです」

「ふーん」

「もちろん普通のバーじゃありません。裏路地にあって看板も出ていない、裏稼業たちが集まる専用のバーです」

「懐かしいぜ。あれは三年前のこと」


 ネイヴァンだ。妙に悦に入った喋りをしている。


「カウンターでひとり、ロックグラスを傾ける美女がいた。周りの男どもは彼女の圧というか、オーラみたいなもんに気圧されて、手をこまねいてたんだ。だが俺はそんな玉なし野郎どもとは違う。迷わず彼女の左隣に腰かけた。だけどそのとき、同じタイミングで彼女の右隣に座ったやつがいた。それがコイツだ。俺は驚いたね。こんなちんちくりんで、緊張して手の中のグラスをカタカタいわせてるガキが、これほどの美人に――まあエリィのことだが――どうこうしようなんて身の程を知れってな」

「酷いですよネイヴァンさん。そんな風に思ってたんですか」


 僕は話を合わせる。


「私からすれば、少し形が異なるだけでどちらも似たような泥付きポテトだったがな」

「エリィ、そりゃあないぜ」

「なるほどね。まさに運命の出会いって感じだ。あとでまた続きを聞かせて、もう着いたから。ほらここ」


 僕たちの目の前には、蔓が幾重にも這い、壁面がほとんど覆いつくされた岩壁があった。

 ラシュトは後ろ歩きで進んでいた足を止めると、くるりと180度方向転換し、岩壁を覆う蔓の一部をグイと手でよけた。その奥には漆黒の暗闇が口を開けている。


「ね、上手く隠せてるでしょ」


 ラシュトは誇らしげに胸を張った。


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