恒星間入植船「
かつて地球が滅びかけたとき、限られた人々だけがこの船に乗り込み、宇宙へと旅立った。「新天地を目指す」という希望に胸を膨らませていた者もいただろう。けれど、それは遠い過去の話だ。
この船で生まれ育った「漂流世代」にとって、入植船はただの牢獄でしかない。外に出られる希望など見えないまま、生活は延々と続くだけだった。
制御室の冷たいガラス越しに、ウプシロンは深い霧のような感覚を覚えていた。未来の断片が左眼に映し出されるたび、その瞳に黄金の光が宿る。
ウプシロンは「未来を知る」存在。だが、その力は、彼女を苦しめる呪いでもあった。
どの未来を見ても、終わりがある。新天地などたどり着けない未来ばかりだ。それでも、この船に生きる全員を導くことが彼女の役割だった。
「今のままでは、この船が壊れる……」
ウプシロンは呟き、制御端末に向かう。
冷たい金属のパネルが光り、船内の状況が浮かび上がった。その中には、深刻な問題がいくつも記録されている。
『再生処理プラントの機能低下を検知――』
再生処理プラント。空気や水、食糧など、人々の生命維持に欠かせない施設だ。それが壊れれば、この船にいる誰一人として生き残れない。
「未来を見ている私が、何もできないなんて……」
自嘲気味に呟きながら、ウプシロンが立ち上がる。彼女の冷たい表情には、それでも使命感が滲んでいた。自分が動かなければ、この船にいる全員が滅びる。その事実だけが、彼女の心を突き動かしている。
しかし、
『俺たちはただの荷物だ。未来なんて、どこにもない』
そんな諦めが船内には広がっている。だからこそウプシロンは、諦めずに動き続ける必要があった。それがたとえ、何度も同じ未来を繰り返し見るだけの「呪い」であっても――。
冷たい鉄の箱の中、未来を信じる者と、信じることを忘れた者たちの物語が今、動き出す。滅びゆく人類が目指すのは、新たな故郷か、それとも――。