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第21話 流山凛は自分の至らなさを知る

「チキチキバンバン! 第一回柏浩介のお悩みを聞こうの会!」


「イエーイ!」


「い、いえーい……?」


 館山が叫ぶと、成田が元気よく拳を突き上げ流山は不思議そうな顔をしながら拍手をした。

 柏は「え、何この状況?」と思いながらも成り行きを見守る。

 ここは旧校舎の二階。昼時の今は誰も立ち寄らず、本来は静かな場所であった。


「えー、では皆様。本日はお昼時の忙しい時にお集まりいただきありがとうございます」


「ふはは、皆様といっても柏の他は私と流山凛しかいないがな!」


 .そう、この場には柏と館山、そして成田と流山の四人しかいなかった。

 館山が成田を、成田が流山を呼んでこうなった。


「あ、あのお悩みって何ですか? 柏先輩から私に大切な話があるって聞いたんですけど?」


「ああ、それは嘘だ」


「嘘!?」


 さらっと言う成田と驚いた顔で見る流山。

 そのまま「嘘ってどういうことですか!?」と流山が成田に詰め寄る。

「ははは」と笑って誤魔化す成田だが、胸ぐらを掴まれて揺さぶれる。

 その間に柏は館山に近づいた。


「なぁ、館山」


「ん? 何だい柏っち?」


「成田はいいとしても、流山に相談するのは……」


「でも、どっちみち明日には分かることなんでしょ?」


「いや、そうなんだが、しかし……」


「こういうのはいろんな角度から物事を見るのが大切なんだよ」


「…………」


 館山の言うことも一理あった。

 だが、後輩に相談していいものだろうかという疑問もあった。


「お二人で何を話しているのですか?」


 どうしたものかと館山を見ていると、いつの間にか流山が近づいていた。

 じっと睨まれる柏は気圧されながらも笑顔で答える。


「な、何でもないぞ。ただ、ちょっと二人に相談することについてだな」


「浩介。早く言ってやれ、この場で知らないのは流山凛だけなのだから」


「え、成田先輩は内容知っているのですか?」


「ふ、当然だ。私が浩介のことで知らないことはない」


 提案者の館山はともかく、成田が相談内容を知っていることに流山は驚く。

 流山は嫉妬と苛立ちを覚えながら、柏の方を見る。


「ど、どうした?」


「別に。それより先輩。早く相談内容を教えてください」


 あからさまにご機嫌な斜めな流山に柏は困惑する。

 その様子を館山と成田は困ったように笑うしかなかった。

 数秒経つと、柏は降参したのか話し出した。


「実はな――」


 現状、柏本人は春大会に出るつもりがないこと。それを成田や松戸が反対していること。そしてその判断を明日の土曜日までにしないといけないこと。

 柏は一通り話し終えると、恐る恐る流山を見た。

 どうせ怒られるだろうと思っていた柏だったが、意外なことに流山は悲しそうな顔をしていた。


「それは、私たち一年生が実力不足ってことですか?」


「…………」


 柏はまっすぐに見てくる流山の瞳に吸い込まれそうになる。

 ここで違うというのは簡単だった。だが、それが出来るほど柏は器用ではなかった。

 落ちついた声で、柏は言った。


「ああ、そうだ」


「っ!」


「俺の目標である全国を目指すには、今のままじゃダメだ」


「ちょ、柏っち、何もそこま――」


「止めろ館山涼子」


 館山が二人の間に入ろうとするが、それを成田が止める。

 柏と流山が見つめ合う。お互いの意思を確認し合うかのように。

 口を開いたのは流山だった。


「……確かに先輩から見たら私たちは実力不足なのかもしれません。けど、だからって先輩が春大会に出ないのは違うと思います」


「どうしてだ?」


 流山に対して柏は先輩として疑問を投げかけた。

 それは感情論では語らないという柏の意志であった。

 流山はその抽象的な問いに上手く答えを出せなかった。


「だって、だっておかしいじゃないですか!? 春大会ですよ!? 私達と先輩の最初の劇で! 我孫子先輩たちとの最後の劇なんですよ!?」


「それは分かっている」


「なら、なら……!」


「それでも一年に少しでも多く経験を積ませるためには、これが最善だ」


「何が最善ですか! あなたはどうしてそう極端なんですか……!」


 流山の目には涙が溜めっていた。

 それを見て心が痛むも柏は決心を緩めることはない。

 その様子を見ていた成田が柏に言う。


「だが浩介。見ての通りお前が出ないということは周りの士気、モチベーションに関わるぞ」


「それは、そうだが……」


「きっと船橋希色も同じような文句を言うぞ。今一年の支柱たる二人が反対する中で強行する理由はあるのか」


「…………」


 成田の言葉に返す言葉のない柏だった。

 沈黙が続くほど、場の雰囲気が悪くなっていく。

 そんな中、館山が口を開いた。


「あのさ、ちょっといいかな?」



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