昼休み。柏は旧校舎に来ていた。
演劇部が使っている二階、その奥の部屋へと行く。
扉を開けると、既に中には人がいた。
「遅いぞ浩介!」
「全くだ! 柏! やる気あんのか!」
「すまん千夏、松戸ちょっと館山と話していてな」
中にいたのは成田と、演劇部とは思えないガッシリとした肉体の松戸健司だった。
ここに四季星高校演劇部の二年生が集結である。
「なんだお前ら、よりを戻したのか?」
「んなわけないだろ。五限の英語のノート見せてたんだよ」
「なんだそういうことか」
「ズルいぞ! 僕にも見せろ!」
「いや、千夏。お前はクラス違うだろ」
「それでも範囲は一緒だろ! ズルいぞ!」
ズルいズルいと主張する成田を無視して、柏は二人の近くの机に弁当を置き、椅子に座った。
二人は柏が来るのを待ってられず、すでに食べ始めていた。
「んなことより、松戸、何で昨日来なかったんだ?」
「んなことだと!?」
「あー、悪い。ちょっと音響機材を見に行ってた」
「そうか、良いのはあったか?」
「いや、収穫なしだ」
松戸は両手をそれぞれ肩の上に持ってきてお手上げのポーズをした。
こんな彼だが演劇部の裏方の代表である。
「じゃあ、さっそく春大会に向けての打合わせをするか」
「そうは言っても浩介。大会まであと一ヶ月。台本も決まっているし何を話すんだ?」
「配役についてだ」
柏の答えに、二人はピンと来ていない様子だった。
補足を加える柏。
「今回の春大会だが、俺は裏方に回ろうと思う」
「なっ!」
「なんだと!」
柏の言葉に驚いた二人。特に成田の方は立ち上がり柏へと近づいた。
「浩介! 何を言っているか分かっているのか!」
「分かっている。ただ現状の一年生達を考えれば――」
「そんなことは聞いていない!」
成田は座っている柏の胸倉を思いっきり掴んだ。
松戸が慌てて止めに入る。
「ちょ、成田落ち着けって!」
「うるさい! 止めるな松戸健司!」
「これは決定事項だ…………すでに旭先輩には伝えてある」
「そう言うことを言っているんではない! 浩介! お前はそれでいいのか!」
「…………」
烈火のごとく怒る成田の言葉に、柏は目を合わせずに黙った。
成田は構わずに睨み続ける。
見かねた松戸が、落ち着いた様子で柏に聞いた。
「なぁ柏。それは秋大会に向けての布石ってことか?」
「ああ、そうだ」
「何が布石だ! それじゃあ!」
「成田! 今俺が柏と話しているから」
松戸がそう言うと、成田は柏から手を放した。
柏は襟を正しながら松戸を見た。
「松戸、分かるだろ? 勝つためには必要なことだ」
「分かるよ」
「おい」
松戸の同意に成田が突っ込む。
気にせず、松戸は柏を見る。
「けど柏。それは先輩たちと一緒に劇ができる最後のチャンスを逃してでもやることかよ」
「……それ、は」
「決定事項っていうけどよ。そりゃ先輩たちはお前に同意するだろうよ。県大会まで行けたのは、正直お前の力あってこそだからな」
「別に、俺はそんなつもりじゃ……」
「だとしてもだ。そのお前がそうしたいって言ったら止めるわけないだろ」
「けど! あれは!」
「浩介。去年の大会のことをいつまでも引きずるな。あれはあれでこれはこれだ」
「そう、成田の言う通りだ! てなわけで、一旦この話は保留! さぁ、飯食おうぜ」
松戸が場を和ませ、その昼休みはそれ以上打合わせをすることはなかった。