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story,Ⅳ:エルフの村

 地系の弱点である、風の魔法を使用したフェリオだったが。

 しかし、せいぜい石の表面を軽く削っただけだった。


「ああっ! ダメだフィルお兄ちゃん! 弱い!!」


「了ー解」


 フェリオ・ジェラルディンの報告を受け取り兄のフィリップは、魔力アップの魔法を唱えた。


「手解き願います。――“聖人の知恵セイントウイスダン”」


 するとフェリオの耳の奥で、まるで一滴の雫が滴り落ちるような爽快な音が響き渡った。

 足の爪先から髪の一本一本にまで、エネルギーが駆け巡る感覚を覚える。

 つまり、それら全てへ滞りなく、血液がスムーズに流れ込むのを実感出来る様だ。

 彼女の斜め前方では、攻撃力アップによりレオノール・クインの怒涛のラッシュが行われていた。

 パンチ、キックと容赦がなく、最早ガーゴイルは瓦解し始めている。


「よし! ボクも負けないよ! 吹き抜けろ! 突風エアロムア!!」


 フェリオは続き、両手を上から下へと大きく振りかぶる動作をする。

 先程より威力のある、中級の風の魔法がフェリオから放たれる。

 加えて、魔力アップの効果もあり、強烈な風の力が砲丸の如くガーゴイルにぶち当たり、あっと言う間にバラバラにしてしまった。

 同時に、レオノールもたった一人でもう一体のガーゴイルを、完全に倒していた。


「へっ! これくらいわけねぇぜ!!」


 レオノールが軽く鼻を擦る。


「フィルお兄ちゃん! ボクもやったよ!!」


「こういう形であれば、モンスターとのバトルを繰り返して経験値を上げていくのに、賛成なんだけどね」


 フィリップもニッコリ笑う。


「でもレオノール、怪我してるよ」


 フェリオは、レオノールの肘にあるガーゴイルから反撃で受けた、殴打痕に気付く。


「当然だ。俺は近距離攻撃だから、反撃を食らいやすいんだ。その点、魔法は遠距離だから、その割合がほとんどない」


 レオノールは荷物から何かを探りながら、フェリオへと答える。


「そっか。確かに、今のモンスター弱かったもんね!」


 フェリオの無邪気な笑顔に、思わずカチンとくるレオノール。


「決して今のは弱い方ではなかったぜ! お前ら兄妹の息が合っていたからスムーズに倒せたものの、あいつはあれでも口から火を吹くんだからな!」


「ええっ!? そうだったんだ……良かった。すぐに倒せて」


 胸を撫で下ろすフェリオを横目に、フィリップが優しくレオノールへ声を掛ける。


「その怪我、回復しよう」


 しかしレオノールは、きっぱりと断る。


「いや結構。よっぽどのことがない限りは、俺へ簡単に傷の回復魔法は使わないでくれ。傷を勲章として残しておきてぇんだ。それに、体力回復ならこれがある」


 そうして荷物から、果物を取り出して見せた。


「ハニーレモンだね。リオの大好物の一つだよ」


「え!? ハニーレモン!? ボクにも頂戴!!」


 フェリオが、目を輝かせて要求する。


「バーカ! やんねぇよ! これは俺の非常食も兼ねてんだ。食いてぇのならてめぇで用意しろ」


 レオノールは、そう言うとハニーレモンを齧り付く。


「チェーッ……レオノールの意地悪……」


 二口、三口と食べ進めていくレオノールを眺めながら、フェリオは口を尖らせる。

 ハニーレモンは、見た目こそはレモンだが、食べると蜂蜜の味でとても美味、体力疲労にはとても役立つ回復アイテムなのだ。


「さぁ、先へ進もうか」


「フィルお兄ちゃん。ハニーレモン持ってないの?」


「あいにく僕は白魔法使いだから、魔力回復ドリンクしか持たないんだよ……」


 苦笑を浮かべるフィリップに、フェリオは残念そうに嘆息吐く。

 そんなことはお構いなく、ハニーレモンを平らげたレオノールがバラバラに瓦解したガーゴイルの石を、品定めしていた。


「レオノールは、一体何をやっているんだい?」


 フィリップが彼女へ歩み寄る。


「そりゃあ、アイテム回収だよ。こうしてモンスターを倒した後は、その一部を店に持っていくと素材として売れるんだ」


「へぇ~! こんな石っころがお金になるんだ?」


 驚愕するフィリップに、ニヤリとレオノールが不敵に笑った。


「あんた……旅の心得を知らねぇな……? こんなの、常識だぜぇ?」


 ……どうやらレオノールは、お金に目がないらしいことが段々と分かってきた、フィリップだった。

 こうして、“ガーゴイルの石”をそれぞれ三個ずつ持って、先へと進み始めた。




 やがて数時間、休憩を挟みながら歩き続けた頃。


「日も傾いてきたし、今夜は野宿になりそう?」


 フェリオの言葉へ、レオノールが頷く。


「ああ。野宿だな。もう少し先へ進んだら川が流れている。そこで今夜は過ごそうぜ」


 これを聞いてフェリオは、前進しながら頃合いの枯れ木を拾い始めた。

 どうやら野宿には慣れているらしく、焚き木用として拾い始めたのだ。


「ところでレオノール。どこか目的があって今こうして歩いているのかい?」


「当たり前だろう! 俺ァご親切に、あんたらの為を思って目的地へ向かってるんだぜ」


「そこはどこなのか、聞いてもいいかな?」


 先を歩くレオノールへ、フィリップは再度尋ねる。


「あんたらの故郷を壊滅させたっていう、サテュロスの情報を聞きに行くんだ」


「え?」


「左頬から耳にかけて、大きな古傷のある黒い体毛のサテュロス……これだけハッキリとした特徴を持つモンスターは他にはいねぇだろう」


「だ、だけど、その事を知る人が他にもいると言うのかい!?」


 フィリップは、当時の事を思い出しただけでも、思わず声が震えた。


「ああ。これから行く所は、賢明な精霊と呼ばれている、“光のエルフ”の村だよ」


 これを聞いてフィリップは内心、驚きを覚える。


光のリョース……エルフアールヴ……!!」


 彼等の古代名を、フィリップは口の中でそっと呟いた……。





 それから二日後。

 その日の午前中、ようやく三人は“光のエルフ”の村へ到着した。

 うっそうと茂る森の中に、それはあった。

 巨木を組み立てて作られたであろう、大きな門。

 まるで、天を仰ぐ程の高さがある。

 その入り口では、二人の門番が左右に立っていた。

 三人を見つけるなり、槍を構える。


「何者か! 人の子よ!」


「ここへ何しに来た! 人間め!」


 これに、レオノール・クインが一歩前へ進み出る。


「俺達は、あるサテュロスを探しているんだ。どうかその、あんたらの誉れ高き知識を与えてくれ」


「……」


 レオノールの言葉に、互いに顔を見合わせ目配せのやり取りしながら、黙考するやゆっくり両脇へ退いた。


「良かろう。入るがいい」


 思いの他、あっさり中へ入れたので、フィリップ・ジェラルディンはレオノールへ耳打ちした。


「ひょっとして、ここに来た事があるのかい?」


「いや、全く以って初めてだ」


「そうか……」


 両開きになっている木造の門が、門番によってゆっくりと開放される。

 村の中へ入るや、住人達が一斉に三人へと白い目を向けた。

 家はどれも、丸太小屋の造りになっている。


「何だかボクら、歓迎されていないみたいだよ?」


「気にするな。エルフってぇのは光も闇もプライドが高すぎるのがいけねぇや」


 不安がるフェリオ・ジェラルディンへと、レオノールは歩きながら答える。

 彼ら三人とすれ違うエルフ等は、一様に怪訝な表情で鼻を摘む。

 下等人種=汚臭、というイメージがあるらしい。

 内心、気分の良いものではないフィリップであったが、フェリオとレオノールは独断気にもせずに会話をしていた。


「じゃあ何でレオノールは、この場所を知ってたり、エルフに詳しかったりするの!?」


「そりゃあ、レアアイテムを求めてこの森で、エルフとバトりあった仲だからな」


 平然と述べる彼女の言葉を聞き、フェリオは驚愕する。


「え!? そうなの!? まだ18歳の小娘なのに、スゴイ!!」


 途端、ピタリとレオノールが歩みを止めた。


「あのな。俺とお前はたかだか一才しか年齢差はねぇんだ。その立場でお前から小娘呼ばわりされたかねぇよ」


 歯を食いしばりながら、握った拳をフェリオの目の高さに持ち上げて見せる。


「あ。ゴメン。悪気はないんだボク」


 当人は、ケロリとした表情を浮かべ、軽く謝罪を述べる。


「だろうともよ。もし悪気ありきなら、今すぐここでぶん殴っている所だ」


 そうしてまた、歩き出すレオノール。

 その後を、ポツポツと付いて歩き始める、フィリップとフェリオ。


「ところで、一体どこに向かっているんだい?」


 それまで周囲の様子を見ていたフィリップも、彼女らの会話に参加した。


「あそこの丘に見える、でっけぇレンガの家」


 レオノールが、前方を指差す。


「誰の家なのか、分かるのかい?」


 先を歩くレオノールを斜め後ろから、肩越しに声をかける。


「いや。でも大概デカくて立派な家に、主は住んでるものだ」


「成る程ね……」


 レオノールの短絡的思考を、フィリップは苦笑いするしかなかった。

 案の定、そこの玄関前も二人の門番がいた。


「……」


 無言のまま、白い目で睨み付けてくる二人の門番。

 今度はこれに、フィリップが一歩前へ進み出た。


「村長へ会いに来ました。その豊富な知識を授けて頂きたく、お願いしたい」


「村長は、我々の中でも特に優れた知識がおありだ。そう簡単に、人間風情へ与えてやれるような御仁ではない」


「そうだ。引き返してこの村から、即刻出て行け。気持ちの悪い猿めが」


 門番のこの言い草を、聞き捨てならぬばかりカチンと来たのは当然、レオノールだった。


「ホンット! てめぇらエルフどもは人間を小馬鹿にしてやがるよな。見下すならこの俺を黙らせてからにしてもらおうか!!」


「ほぉ。人間の分際が、我らに宣戦布告か? 大した度胸だ」


 門番の一人が、レオノールの前へと進み出る。


「ちょっ、レオノール! 喧嘩は良くないって!!」


 フェリオが、慌てて引き止める。


「喧嘩じゃねぇ。これは立派なバトルだ」


 普段から好戦的なレオノールは、恐れる事無く拳を構えるや、面白そうに口角を引き上げる。


「猿が! メスだからと容赦はせんぞ!!」


 門番が、長槍の切先をレオノールへ向ける。


「どこからでもかかって来いやぁぁ!! 勝った暁にゃあ、その尖がり耳を削ぎ取って豚の餌にしてやっから、感謝しろよ!!」


「貴様ぁ! 言うに事欠いて、我々自慢の耳を侮辱するとは、赦せん!!」


 もう一人の門番も、レオノールの前へ進み出て長槍を構える。

 どうやら耳の形容で、彼らは美醜を決めているらしい。


 門番が離れた隙を突き、フィリップが門の前へ立ち中へ向かって声をかけた。


「ビュクヴィル様。我々は九年前に、モンスターから故郷を壊滅させられた者の生き残りです」


 すると、暫らくしてドア越しから、落ち着き払った男の声がした。


「──入れ」


「ほら、ビュクヴィル様から許可を取ったよ! だから無駄な闘争はやめて、みんな!」


 振り返ったフィリップの言動に、門番二人がギョッとした様子を見せる。


「貴様、なぜ村長の名前を……!?」


 更に、中から声が続く。


「構わん。入れてやれ」


 これに渋々、両脇に退く門番。

 押し開きのドアを開け、中へ入るとすぐ広い土間となっていて、一人の男のエルフが石臼で、穀物を挽いていた。

 長くてとがった笹穂耳、美しいほどの金髪を後ろ一つにまとめ、口ひげを蓄えたハンサムな初老の男だ。


「主ら、名を何と言う」


「俺は、レオノール・クイン」


 レオノールが、一歩前へ進み出る。


「知らんな」


 男は、投げやりな口調で吐き捨てつつ、石臼を挽き続ける。


「ボクはフェリオ・ジェラルディン」


 するとこれに、彼の石臼を挽く手が止まる。


「僕は……――フィリップ・ジェラルディンです」


 そこで、ようやく初老のエルフの顔が、彼らへ向いた。


「ジェラルディンか……知っておる」


「え!? おじさん、ボクらを知ってるの!?」


 フェリオの無邪気な反応を、フィリップは慌てて妹の上腕を引いた。


「無礼だよ。フェリオ」


「え? あ、うん……」


 兄が跪いたのを見て、戸惑いながらもフェリオも跪く。

 レオノールは、平然と腕を組み突っ立っていた。


「我が名はビュクヴィル。ここの村長をアルムヘイムの王から、任されている」


 アルムヘイムとは、精霊界にあるエルフの国だ。


「僕達は、とあるサテュロスを探しています。ビュクヴィル様」


「ああ。存じている。主らの故郷である、召喚師の里を壊滅させた奴であろう?」


 ビュクヴィルは胡坐を掻いた姿勢で、フィリップ達へ体を向ける。


「やはり、ご存知でしたか……」


「……」


 暫しの沈黙。

 の、後から続く、絶叫。


「ええーっ!? お前ら兄妹って、召喚師の出身なのかああぁぁーっ!?」


 レオノールだった。

 それもそうだ。

 召喚師という職業は、極秘の存在なのだから――。


「うん? そうだよ?」


 そんな彼女へ、跪いていたフェリオがキョトンとした顔をし、レオノールを見上げた。


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