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storyⅢ:輝夜の嘆き

「ケーッ! 男のくせにナヨってるから余計、女に間違われるんだ!」


「そんなつもりはなかったんだけどね……」


 ここは、モスローズ町にある食事処。

 ひとまず助けてくれたお礼として、フィリップ・ジェラルディンが少女を食事へ誘ったのだ。


「とりあえず、自己紹介しよう。僕はフィリップ・ジェラルディン、28歳。白魔法使いだ。そしてこっちがフェリオ・ジェラルディン、19歳。黒魔法使い――」


「ええっ!? 19歳だぁ!? どう見ても子供じゃねぇか! 俺より年上とは!!」


 少女は、驚愕を露わにする。

 しかし当のフェリオ本人は、勢い物凄く、食べるのに夢中らしい。

 そのフェリオの食べっぷりを、半ば唖然として見る少女だったが、フィリップは慣れているからか気も留めていない。


「そんな君は、いくつなんだい?」


 フィリップから尋ねられ、はたと少女は冷静さを取り戻す。


「俺か? 俺はレオノール・クイン、18歳だ。格闘武術を主とし、世界を旅している」


 言いながらレオノールは、上腕の筋肉を盛り上げ、片手で大きく一回叩いて見せた。

 女の拳一つ分入りそうな筋肉だ。

 身長は160cmで、体脂肪のない見事な腹筋の、立派な細マッチョ体型だった。

 フェリオの前には、次々と空になった皿が積みあがっていく。


「しかしこのボウズ……めちゃくちゃ食うな」


 フェリオの旺盛な食欲に、圧倒されながら少女──レオノールは口にした。


「この子は食べる事が大好きだからね。それから、この子はボウズじゃないよ」


 彼女の発言に、フィリップは答える。


「え?」


「君と同じ、女の子だ。僕の妹だよ」


 フィリップの言葉に、刹那ポカンとしてからレオノールは、至って冷静に首肯する。


「あ、そうだったのか。ボクって言うから、てっきり男の子かと思っちまったぜ」


 レオノールの言葉に、フィリップは少しだけ苦笑する。


「それも君と同じじゃない? 君だって“俺”って言ってるよ」


「まぁな。しかし女に間違われる兄に、男児に間違われる妹か。似た者同士な兄妹だな」


 レオノールはあっさりと受け流すと、特別重大な事じゃないとばかり手に持った肉を豪快に噛みつくや、横へと食いちぎった。



 ある程度腹が膨らんだところで、レオノールが一つの仮説を口にした。


「俺、フェリオを見てて思ったんだけど、つまり不老ってことだろう? 何か呪いでもかけられたか?」


 彼女の鋭い指摘に、ふとフィリップとフェリオは顔を見合わせるや、お互い表情が曇ってしまった。


「……その様子だと、心当たりがあるみてぇだな。良ければ話してみろよ。だてに俺も旅しちゃいねぇんだ。少しは助けになるかも知んねぇぜ」


 レオノールは言うと、コップの水をグイと呷る。


「実はボク……九年前に故郷をモンスターに襲われて、確かに君の言う通り呪いをかけられたんだ。直後に気絶してしまったけど、それ以来成長しなくなったからそれが、ボクにかけられた呪いなんだと思う……」


 先程までとは一転、落ち込んだ様子でフェリオが言葉を紡いだ。


「ふむ……成る程なぁ。しかしそれで、どうして成長を止める呪いなんかを?」


「それは――」


 再びフェリオが、レオノールの問いかけに答えかけたのを、慌ててフィリップが遮った。


「それは、今はまだ言えない」


 フィリップの真剣な表情に、レオノールはしばらく見つめてから首肯した。


「まぁ、事情があるなら無理には聞かねぇさ。ところであんたら兄妹も旅人なら、チェックインした宿屋はきっと俺と同じだろう。この町には一軒しかねぇからな。俺、いいもん持ってんだ。ちょっくら一緒に宿屋に戻ろうぜ」


 レオノールに促され、フィリップ達も会計を済ませて店を出た。




 宿屋に戻ると、レオノールは自分の部屋へフェリオとフィリップを招き入れる。


「実はな。俺、ただ旅をしているんじゃなく、レアアイテムハンターでもあるんだ。で、入手したのが、この札なんだよ」


 そう彼女が言って、荷物の中から取り出したのは、黄金に輝く札だった。

 まるで金色の折り紙のようだ。


「それは一体、何だと言うんだい? レオノール」


 フィリップの疑問と共に、フェリオもキョトンとした目で札を見つめている。


「こいつはな、“輝夜かぐやの嘆き”と呼ばれるレアアイテムでな。満月の前後五日間のみ、かけられている呪いを半永久的に無効化する札なんだ。しかも丁度今日は満月から二日目。ギリギリだな」


 レオノールは言いながら、その札をヒラヒラと振って見せる。


「つまり、リオにかけられている子供のままという呪いが解けると……?」


 フィリップは、疑問を口にする。


「ああ。五日間だけという条件付きだけどな。つまり、本来の19歳の姿に戻れると言う事だ」


「19歳の姿に……」


 フェリオがゴクリと生唾を飲み込む。


「そうだ。どうする? 欲しいならやるぜ? どうせ俺には無関係でかれこれ三年間もこうして持ち歩いていて、使い道に困ってたしな」


「どうするリオ――」


「いるっっ!!」


 慎重に尋ねてきたフィリップへの返事を、フェリオは大声で即答した。


「そうかそうか。そんじゃま、この札を鎖骨の部分に貼るから、上着のファスナー下ろしてみな」


「う、うん」


 フェリオは首肯しながら、水色の上着のファスナーを胸元まで下げた。

 それを確認してレオノールは、フェリオの鎖骨へとその札を貼り付ける。

 特別、裏に粘着面が付いているわけではなく、肌に当てれば自然と札の方から呪いのかかっている対象物へくっ付くのだ。

 途端、眩い光にフェリオは包まれ、フィリップとレオノールはその眩さに目を背ける。

 そして次に目を開けた時には、子供服を窮屈そうに身に着け、半ば半裸状態のピンク色の髪が腰まで伸びた、成人した“女性”の姿があった。

 札はもう役目を終えてか、フェリオの体内に吸収され、消滅している。


「あ……フィルお兄ちゃん……」


「リオ……」


 間違いない。

 確かに“彼女”はフェリオだと、確信するフィリップ。

 普段、水色のファスナー付きの上着、青色の半ズボンを穿いているフェリオだが。

 ファスナーから零れ出んばかりの、その豊満な双丘。

 むちっとした太腿。

 半ズボンの上からでも分かる、ぷりんとした尻。

 露わになっている、キュッとくびれたウエスト。

 だがしかし、ここでフィリップの、9年前の恐ろしい記憶を呼び覚ますには十分だった。


「ヤッタよ! フィルお兄ちゃんーっっ!!」


「ぅわあああぁぁぁぁぁーっ!!」


 飛びついてきた女らしい妹に、咄嗟にフィリップは絶叫を上げて飛び退いてしまった。

 直後、シュルシュルとフェリオは縮んでゆき、再び子供体型に戻ってしまった。


「おっと。満月の効力が切れたようだな。また次の満月までお預けだ」


 フィリップは顔面蒼白で、肩で息をしていた。


「そんじゃ! 50000ラメー頂こうか」


 レオノールの言葉に、はたと兄妹は新たなる驚愕の顔を向けた。


「誰も“ただ”とは言っちゃあいねぇぜ?」


 レオノールは満面の笑みを浮かべ、言い放った。






 翌日、50000ラメーも持っていなかったことから、それを受け取るまではとレオノール・クインもジェラルディン兄妹の旅に、付いて来ることになった。


「でもフィルお兄ちゃん。どうしてボクが19歳の姿になった時、あんなに怖がったの?」


「……九年前に川で助けた女の正体が虫で、卵産み付けられたことがあったでしょ? あれを思い出して、ついね……」


 フィリップは口元を引き攣らせながら、チェックアウトを済ませる。


「ん? じゃあ同じ女である俺には、何でビビらねぇんだよ?」


 レオノールが尋ねる。


「君の場合は、何て言うかその……男口調だし、三人の大の男をすぐに打ちのめしたし、見た通り筋肉ムキムキで……正直、女らしさを感じないからだよ」


「成る程。そりゃそうだな」


 てっきり、烈火の如く憤怒してくるかと思ったが、思いの他あっさりと受け入れるレオノール。

 どうやら、本人も自覚があるらしい。

 内心、胸を撫で下ろすフィリップ。


「ちなみに二人は、何の目的で旅をしているんだ?」


 レオノールから尋ねられ、顔を見合わせるフィリップとフェリオ。


「故郷を失くしたから、帰る所がなくてね」


 フィリップが、ふと寂しそうに答える。


「何でもモンスターに襲われたらしいけど、そいつらに復讐しようとは思わねぇの?」


 宿屋を後にして、歩き出しながら再度尋ねてくるレオノールの言葉に。


「思わない!!」

「思ってる!!」


 同時に口を開いた兄妹の返事は、真逆だった。


「……どっちだよ」


 レオノールが半ば呆れる。

 フィリップは反対、フェリオが賛成の立場だった。


「何を言っているんだよリオ! そんな危険な事、僕がリオを巻き込みたいと思う訳ないだろう!? 僕はもう、リオまで父さんや母さんと同じ目に遭わせたくはないんだ!!」


「フィルお兄ちゃんこそ! お父さんとお母さんの敵を取りたいとは思わないわけ!? ボクはだからこそ、その為に強くなろうと黒魔法を身に付けているんだよ!?」


 フィリップとフェリオは、厳しい表情で言い合った。


「あのー……。ちょっといいスか」


「何!?」


 そろそろと口を挟んできたレオノールへ、二人は相変わらず厳しい表情を向けた。


「それから9年も経過してるんだろう? だったら二人の魔力も上がってる筈だろうし……俺も参戦してやっから、少しは良い戦力になると思うぜ?」


 レオノールの発言に、突然二人はピタリと足を止めた。


「ぅわっと! いきなり止まるなよ!」


 これに、ぶつかりそうになったレオノールが声を荒げる。


「それは一理あるね……」


 フィリップは下唇に指を当てる。


「手頃なモンスターを見つけたら、戦ってみる……?」


 フェリオが兄を見上げる。


「そうだね……でも危険だと判断したらリオ、すぐ逃げるんだよ。分かったね!?」


「うん! じゃあ、やってみよう!」


 忠告してきたフィリップの言葉の効果が、果たしてきちんと妹へ届いているのか疑問ではあるが、兄と比べてフェリオは飛び上がって喜んだ。


「何だよ? まさか今までバトったことねぇのか?」


「うん。率先してはね」


 フィリップの返事に、レオノールは呆れた。


「そんなんで、よく旅が続けて来れたな。あんたら……それじゃあ、果たして魔力のレベルが上がっているのかも、いささか疑問になるってもんだ……」




 ここは、ベジタブル大陸。

 モスローズの町を出て、南西へ向かって歩き続ける三人。

 しばらく平原が続き、木々が疎らに立っている。

 三人は黙々と歩いていた。

 黙々と。

 黙々……。


「何だって魔法使いって奴ァ、こんな時でもいつも本を読み耽っていられるものかなぁ!?」


 沈黙に飽きたレオノールが、嘆息混じりの大声で言葉を発する。

 するとザクザク、ザクザクと何かが地を踏み歩いているかのような音が聞こえ始め、それは段々近付いてきた。

 背後を振り返るレオノール。

 遮る物は何もないので、その正体がすぐ分かった。


「おい、そこの二人! モンスターがおいでなすったぜ!!」


 ここまで来て、まだ本から顔を上げない兄妹へ、レオノールが苛立ち気味に声をかけた。

 それは、拳ほどの石が積み重なって人の体を模した、同じく石の彫刻のようになっている頭は猛禽類の、身長140cm程あるガーゴイル二体だった。

 レオノールは荷物の中からすぐさま、タイガーナックル――鋭い鋲が付いている――を取り出し装着すると、気合い十分で声を上げた。


「よっしゃあーっ!! じゃあサポート頼むぜ魔法使いさん達よぉーっ!!」


 二体のガーゴイルは、三人に気付くや問答無用で襲い掛かってきた。


「土属性だ! イケる!? フィルお兄ちゃん!!」


「うん! 大丈夫!!」


 レオノールの方は、もう既に一体のガーゴイルに連続パンチを与えている。

 そんな彼女へ、フィリップは攻撃力上昇の魔法を放つ。


「どうか力を――“輝ける希望グロリエスホープ”!」


「吹き渡れ! 疾風エアロス!!」


 もう一体のガーゴイルには、フェリオが風の攻撃魔法をぶつけた。

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