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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~
双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~
緋宮咲梗
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年02月21日
公開日
2.8万字
連載中
 召喚師──その存在は特別視され、奇異なる立場として主に王族、貴族、要人を護る為だけに存在していた。
 その種族は山間で集落を作り、世間とは隔離された閉鎖的な生活を営み、それを知る者と知らない者が、同じ大地の上で生きていた。
 皆、家族を持ち、愛すべき者を持ち、友を持って。

 築かれる物には長い年月が必要だ。
 だが壊れるのは、瞬きするよりも刹那的で儚い――。
 それが、自分の身の上に起こるなどと考える者は少ない。
 目の前にした時、人は初めて気付かされるのだ。
 ある日、何の前触れもなく召喚師の集落は、魔族に襲撃された。
 その光景の恐ろしい事実を突きつけられて果たして、正常でいられる者はどれくらいいるだろうか。
 その一族の末裔は、居場所を失い長い時間を旅して生きてきた。
 過去の現実から、目を背けるが如く。

 故郷を魔族に襲撃され、壊滅した挙句に不老の呪いをかけられてしまったフェリオ。
 悲惨で恐怖な出来事を目前にして、トラウマを抱えてしまったフィリップ。
 当てどもなく旅を続けていた二人は、道中にてそれぞれ一人の少女と、一人の紳士に出会った事で、ようやく旅の“意味”を見出していく。

 世の中には、相反するものが必ずある。
 光と闇、火と氷、天と地、善と悪、生と死etc……。
 おそらくそれは、どこの世界にも存在する。
 これは、そんな“どこか近い”、しかしながら“限りなく遠い世界”の物語。

【注意】本作品には不快な内容が含まれている可能性があります。

──序──

 戦いは長時間に及んでいた。

 その女は、呪文を唱えて両手を天に突き上げる。

 すると眩い青の閃光と共に、そこには巨大な鳥らしき白いシルエットが電流をまとって出現し、一人の人物の前へと立ち塞がった。

 その人物とは、魔王。

 顔に黒い仮面を付けている。


「ふん……貴様の最強召喚霊か。甘いわ!!」


 魔王は言うと、玉座に腰を下ろしたままその鳥──サンダーバードへ指一本振るった。

 それだけで、呆気なくサンダーバードは巨大な魔力の裂傷を受け、消滅した。


「そんな!!」


 女召喚術士は、愕然とする。


「飽いた。貴様らが我が輩に立ち向かったところで、蚊ほどもない。もっと我が輩を楽しませろ」


 そう言ったかと思うと、魔王は片腕を横へと振り払う。

 直後、勇者以外の仲間──女召喚術士サモナー男格闘家モンク女僧侶ビショップの三人が、それぞれを仲間内で攻撃を始めたではないか。

 サモナーは召喚霊で、モンクは殴打足蹴で、ビショップはステータス異常攻撃で。


「何!? どういうことだ!!」


 その状況に、勇者は驚愕する。


「フン。やはり勇者には効かぬか。ならば仲間同士で殺しあうのを、我が輩と共に愉しもうではないか。クックック……ハッハッハッハ!!」


 魔王の愉快げな笑い声を他所に、勇者は必死に仲間三人の目を覚まさせようと奮闘するが、自らも仲間から攻撃を受けていた。

 そして、そうこうしているうちにとうとう、仲間三人は互いから致命的な攻撃を受けて倒れてしまった。

 勇者も、仲間からの攻撃で倒れたが、最後の力を振り絞って自分の黄金の大剣を杖代わりに、ヨロヨロと立ち上がる。

 石造りの室内で、勇者の苦しげなテノールの声が響き渡る。


「く……ッ! やはりそう簡単には倒れてはくれないか……!!」


 ショートカットの金髪ブロンドを汗で濡らし、残された体力でよろめきながら立ち上がる、端整な顔をした碧眼の青年の手には、眩いばかりの黄金の両手剣が握られていた。

 身長180cmと、長身だ。

 頭には、まるで王冠のような額当て。

 周囲には、もう体力が残っていない三人の仲間達が倒れている。

 だが、余裕ぶっていた魔王の方も魔力がほぼ、底を突いていた。

 魔王は、ゆっくり口を開く。


「勇者よ……いや、ここは暁光ぎょうこうの救世主と呼んだ方が良いか」


 この場での、魔王のバリトンボイスは良く似合う。

 魔王は立ち上がり、玉座に立てかけていた漆黒の魔剣を手に取ると、十段程ある階段をゆっくりと下りて来た。

 そしてゆっくりとした動きで、魔王は顔面を覆っていた仮面を取り払う。

 漆黒の髪を長く伸ばし、白目の部分は黒く、虹彩は毒々しく紅い。

 身長は、2m程。

 しかし声とは裏腹に外見的は、鼻の穴二つはまるでイソギンチャクがくっ付いているように見え、眉尻は角のように硬質化した皮膚が突き出ていて、顎はしゃくれ歯はボロボロ。

 お世辞にもまだマシな顔とさえも、言えない醜悪さだった。


「今でこそ我が輩は魔王などと呼ばれているが……本来ならば、宵闇の救世主の立場だ」


 暁光の救世主と呼ばれた勇者の青年は、黄金の両手剣を正面へ構える。

 肩で息をしているのは否めない。


「そんなこと、聞いた事もない!!」


 これに、魔王は悠然とした口調で、言い放つ。


「それは、貴様が無知である証拠だ」


「くそ……っ! 言わせておけば……!! 醜い顔め!!」


 改めて勇者は、よろめきながらも剣を構え直す。


「抜かすがいい。我が輩のこの漆黒の大剣を、受ける度胸はあるか」


 すると、この二人の会話を割って入るかのように突如、勇者の全身が煌いた。

 離れた場所から、女僧侶ビショップが残された僅かな魔力を集結させ、治癒ヒーリング魔法を勇者へと放ったのだ。

 そのまま彼女は、意識を失った。


「覚悟しろ魔王!!」


「フン。たわけたことを」


 落ち着き払った口調で言い、魔王は漆黒のマントを払いのけ勇者が持つ黄金の剣――“暁光の大剣”よりも、一回り大きな宵闇の大剣を両手で構えた。


 暁光の大剣のつばは、交差されて中央はクロスの装飾。

 も、美しいカリグラフィーのデザインがあしらわれている。

 切先は、鋭く細く尖っていた。


 ここは、魔王城──謁見の間。

 全体的に灰色の石造りになっている壁は、両サイドから五枚ずつ、色とりどりな縦長の垂れ幕が飾られている。

 おそらく、今まで侵略した土地などの旗であろうと思われる。


 宵闇の大剣の鍔は、まるでドラゴンの上下の牙を思い起こさせ、中央は青紫の宝玉がはめ込まれている。

 剣身は、鍔に近い部分が二段階の“返し”になっており、そこにも青紫の宝玉がはめ込まれている。

 ここから伸びる樋は、フレットワーク様式なデザインになっており、漆黒の刀身は禍々しさを帯びていた。


「さぁ、来るが良い」


「言われずとも!!」


 駆け出した勢いそのまま、漆黒の大剣へ黄金の大剣が叩きつけられ交差する。

 黒い火花と金の火花が散る。

 しばらく競り合ってから、勇者が一歩後ろへ飛び退き、改めて剣を振るった。

 激しくぶつかる金属音が、繰り返される。

 袈裟懸け、正面、横と放たれる剣戟。

 魔王はそれら全てを、己の剣で捌ききる。

 だが勇者は、一瞬の隙を見逃さなかった。

 柄を握り直し、魔王の剣の返し部分を逆袈裟懸けで引っ掛けてから、そのまま勢い任せに引き上げた。

 宵闇の大剣は、魔王の手から離れ弧を描き、数メートル先の床へ突き刺さった。

 予想外の出来事から、思わず目を見開く魔王の胸めがけ勇者は、迷うことなく全力を込め暁光の大剣で貫いた。


「グハ……ッ!!」


 そのまま勇者は、剣を回転させ魔王の肉を抉る。


「ぬぐうぅぅ……っ!!」


 そして剣を魔王から引き抜き、剣を振るい剣身に付いた鮮血と肉片を払う。

 魔王の胸の傷口からは、おびただしい量の真っ赤な血が迸る。


「俺の勝利だ」


 勇者の言葉を聞いてから、魔王は崩れるように仰向けに倒れた。


「しかし意外だったな。魔王でも血の色は赤いのか。我々人間と同じかと思うと、何とも汚らわしい。こんな醜い奴から、世界が恐怖に陥れられていたかと思うと嘆かわしい」


「当、然だ……暁光の救世主よ……その理由は、いずれ……解かるだろう……」


 魔王は、短い呼吸を繰り返しながら、声を絞り出す。


「……? 何を言っているんだ?」


 勇者は眉宇を寄せると、怪訝な表情を浮かべた。


「我が輩を……魔王を倒したつもりか」


 もう決着が付いたであろうに、負け惜しみのような魔王の言葉に、勇者は呆れた様子を見せる。


「何? つまりとどめを刺さないとダメってことか?」


 魔王は、天井を見つめニヒルな笑みを、ぎこちなく浮かべる。


「ククク……魔王は続く……どこまでも。──どこまでも」


「無駄な足掻きを。今、終らせてやる」


 勇者は言い放ち、黄金の暁光の大剣で魔王の喉を、突き刺した。

 これに、魔王は口をパクパクさせると吐血し、とうとう命尽き果てた。

 それを確認してから、勇者は剣を抜き倒れている仲間達を助ける為、魔王の亡骸へ背を向ける。

 直後、魔王の亡骸から無数の黒い霊魂が出現し、次々と勇者の体内を背後から潜り込み始めた。


「!? うわあああぁぁぁぁーっ!!」


 勇者は体を仰け反らせ、この突然の出来事に理解も把握も出来ずにいた。

 ただ感じ得る、体験した事のない戦慄に、この上ない身の毛もよだつ感覚を覚えながら、顔面蒼白となる。


「ベル……フィリップ……──」


 勇者は残った力を振り絞り、愛する者の名を口にする。

 やがて、全ての黒い霊魂が体を潜り込みし頃、勇者はグルリと白目を剥きその場に倒れ動かなくなった。

 どうやら呼吸も止まり、心臓すら動いていない。

 こうして、勇者も息絶えてしまった。

 そして黒い霊魂は、もう勇者の体内へと姿を消していた……。

 魔王の屍は、いつの間にか塵と消えていた。




 一方、魔王の執務室では、重厚な執務机の真後ろの壁には、漆黒の翼と純白の悪魔の羽根が対となって飾られていたが、震えるように動き出したかと思うと突如は羽ばたき始め、窓ガラスを割って空の彼方へと飛び去って行ってしまった……。


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