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第一章 その3 第二章 はじまり

第一章 その3


 修学旅行のプリントが配られると、クラス内がざわつく。


 行き先が沖縄で二泊三日、シュノーケリング体験あり。と記されている。


 地元の公立中学校の修学旅行先は確か京都だった。寺や神社より沖縄のバカンスの方がいいのだろうか。僕はどちらでもよかったがそれなりにワクワクはしていた。


 沖縄には一度行ったことがある。小学二年の時に、当時まだ元気だった祖父と祖母と一緒に旅行した。


 中学三年生といったら世間一般的に受験でせかせかする時期だが、高校がエスカレーター式なので皆、呑気である。


 三年でも高鳥とは違うクラスだった。僕が四組、彼女が三組と離れてしまったが、四組は人気のある大倉先生が担任で和やかな雰囲気だった。バスケ部の連中とも一緒のクラスになって、水谷さんとも同じクラスだった。まぁ、水谷さんには、彼氏がいたけれど。再び明るい学生生活を取り戻した僕は、八郷のことなどすっかり忘れていた。


 修学旅行の日程は、GWが明けた五月の九日から十一日までの二泊三日で、この時期を過ぎると、沖縄は日本で一番早く梅雨に入ってしまう。


 みんなどんな格好でくるんだろうか。そしてスーツケースとキャリーケースはNGというカバン指定ではあるが、どんなカバンを持ってくるのか。


 中流家庭の僕の家では、ブランドものを買うなんて無理だけれどシンプルであんまり目立たない服装にしようか。旅のしおりには『派手な服装は避けるように』と書いてあるけれど、クラスの中でも目立っている獅子田さんや橋元さんはきっとミニスカートにラメ入りのサンダルなんかで来るような気がするし、高鳥ほどではないが金持ちの西くんなんか全身ブランド服でがっちり固めてくるのだろうか。


 僕はショッピングモールへ行って、無難な黒のボストンバッグと、シンプルなTシャツを購入した。目立たないように平和に無事に行って帰ってきたい。


 しかし、その思いは打ち砕かれた。


 GWラストの日に僕は高熱を出した。病院が空いていないので休日診療所に行くとまさかのインフルエンザだと診断された。せっかくボストンバッグの中に旅の荷物を詰め込んだのに。


 仕方なく僕は修学旅行不参加という形になった。



★ 三年四組 出席番号4番 大野帆稀おおのほまれ

 読書が好きで年間百冊以上読んでいた彼の大好きだった本を読む。感動する小説だった。


★ 三年四組 出席番号8番 三田準弥さんだじゅんや

 同じバスケ部で身長が高かった三田は、華麗なシュートを何本も決めていた。僕とは雲泥の差だけれど、入るまで何度も何度もシュートを打った。



「全員分なんてどう頑張っても無理でしょう」


 彼女は冷たくそう言い放った。そうだ、無理に決まっている。だけど、可能な限りやってみようと思った。



第二章 起こってしまったこと


 物語には起承転結があるのが妥当だ。何かが起こるのだ。何が起こった。

本来なら『沖縄に修学旅行にいく』ということが起なのだ。


 しかし、悲劇は帰りに起こった。


 五月十一日の夕方、十六時二十八分着予定の便で、僕以外の面々は東京国際空港(羽田)へと降り立つはずだった。


 僕は修学旅行に参加できなかったことでふてくされて、二泊三日ゲーム三昧で過ごそうと決めた。幸い熱は下がっていた。


 次々と襲いかかる敵をやっつけていく。やっつけてもやっつけても敵はウヨウヨ湧いて出てくる。どこから湧いているんだろう。雑魚を片付けてボス戦へ向かおうとした時だった。


 ガチャーン


 リビング……いや、居間の方から何かが割れたような音がしたので行ってみる。すると母が割れたお皿のそばで立ち尽くしている。割れた皿にはサラダが盛ってあったのか生野菜たちが床に散らばっていた。


「あーあ」


 僕が慌てて生野菜を拾って、さらに割れた皿の破片もひろいあげていくが母が微動だにしない。


「ちょっとどいてよ」

「優吾……」


 見上げると母は何かに釘付けになっている。その目線の先には薄型50インチのでかいテレビだ。映画好きの父が大画面で見たいからと家にそぐわない大きなテレビを購入していた。そこに映し出されていたのは燃え盛る旅客機。


 アナウンサーが何やらわーわー叫んでいる。空港に着陸したが爆発炎上した。と消防の車が山のように集まってきて消火活動を行っている。


「うわ、大変だね」


 そう言いながら僕は皿の破片を拾い続けていると「東京国際空港」というワードが耳をかすめた。―まさか―


 時計を確認する。時計の針は十六時三十分を指している。


―まさか―

―まさかそんなわけない―

―まさか……そんなわけ―



 上空で何があった?

 例えバードストライクでエンジンがストップしても通常は、もう一つのエンジンがあるから何とかなるはずなんだ。どうして。

 機械系のトラブルか。どうして。



 現場は羽田空港の端っこだった。滑走路から大きく外れてはいるが、なんとか着陸を試みたのだ。




 泣くことができなかった。あまりの現実を受け入れることができなくて、テレビの画面に漠然と知っている名前が並んでいくのをただ、黙って見ていたんだ。


浅田那月 石川蓮太郎 大野帆稀 加藤紗耶 岸川嶺 小林和心 三田準弥 獅子田かえで 篠山蒼斗 ……




 僕の名前だけがない。当然四組だけではない、他のクラスの連中も引率していた先生たちも皆同じ飛行機に乗っている。


 でも、テレビの報道は二人を救出したということをひっきりなしに言っていた。


 一人は小さな女の子、もう一人は私立邑楽中学校の女子生徒らしいとアナウンサーはこれでもかというばかりに反芻する。


 女子生徒……いったい誰だ⁉️ 僕の頭にはとっさに二人の女子の顔が思い浮かんだ。

バスケ部マネージャーの水谷架南みずたにかなと高鳥さくらの二人だ。


 この時にテレビの画面に並んだ名前は、飛行機に搭乗した人物ということで、生存者や、死亡が確認された者ではない。とにかく、この人たちがこの機体に乗っているよ。という情報。

 スマホは修学旅行に持っていくことが禁じられている。とはいっても誰かこっそり持っていっているヤツがいるんじゃないか。僕は自分のスマホを確認したがメッセージは0件だった。ただ、誰か知らない番号から電話がかかっていた。電話があったのは十六時二十分……。誰だろうか。どうして気づかなかった。バスケ部で仲がよかった墨田と岸川の生存は絶望的だろうか。


 ただ赤黒い炎と消火剤の白い粉、真っ黒な煙がディスプレイに映し出される。機体の面影はない。アナウンサーは息継ぎをしていないのではないか。


『午後十六時三十分、東京国際空港にて、JAT850便が墜落、炎上、胴体着陸を試みたが失敗した模様です。繰り返します……』


 震える手でリモコンを持ってチャンネルを変える。すべてのチャンネルが墜落のニュースだった。そのまま僕はリモコンを床に落とした。


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