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本来の私。

 ある日、六歳の何ヶ月かの日、だったかな。


 ビッグバンが起きるみたいに、突然、そう突然に言葉に代え難い痛みが、身体中を巡った。


 始まりは、頭痛からだった。


「ままー、頭いたいー」


「あらあら、大変! ちょ〜っとまっててねー」


 ガサゴソ。


 母が、薬用品を詰めた箱を取り出していた。すると、入っている頭痛薬の表示に目を通していて、不思議に思って訪ねてみる。


「なにしてるの〜? ままー」


「ちょっとねー、お薬探してるの」


 今の私なら分かるけど、きっと五、六歳に使える飲み薬なんてなかったのだろう。


 だから、母は「うーん……」と唸って冷蔵庫を漁りだした。


 ひとつのペラペラした冷却シートを、私の元に持ってきてくれる。


「いくよー? せーのでいくからねー?」


 前髪を掻き分けられ、フィルムを剥がした冷却シートを準備する母。


 びたーん!


「気持ちいい〜!」


「よかったー、とりあえず冷却シートしかないけどお薬、買いに行く支度するからね」


 きゃっきゃ喜ぶ私に、母はふふっと笑ってくれる。


 それからしばらくして、だ。


 頭痛が酷くなり、身体がふらふらと、意識もせずに揺れだしてから、自分の身体が心配になりだす。


 吐き気もだんだん伴うようになって、もうだめだ。そう思う暇もなく、いつの間にか、ソファに横たわっていた。


「大丈夫!? ひいちゃん!? ひいちゃん!!?」


 母はとても心配気な声で、ゆっさゆっさ、私の身体を揺らす。


 自然と息も荒くなってきて、揺さぶられるのが辛いほど。


「……ゃん! ひいちゃ……、……じょうぶ!?」


 やめて、揺らさないでとも言えず、いつの間にか母の声は、朧がかかったように、ぼやけていた。


「ま……ま……、ま……」


 ひたすら母を呼んでた気がする。そうでもなきゃ気を保ってられなくて。


「きゃーーーー!!」


 母の悲鳴が聞こえて、気付くと、目の前には今朝食べた固形物、にんじんやら、ブロッコリーやら、おかゆみたいになった米粒とかが、黄色い液体とともに口元に広がっていて。


 次第に腰の辺り、股間を中心に、仄かに温かい濡れた感覚が広がっていて、その時は気付かなかったけど、おしっこも漏らしていた。


「あぅ……、ぅ、ぅぅ、……ぅ」


 次第に身体が小刻みに震えだし、腰に鉛がびっしりこびりついたかのように重く、鈍い痛みが宿る。


 それは腕や足など、筋肉が集中した部分にも広がっていて、筋肉痛みたいな痛みも走り始めて。


 し、死ぬ。死ぬ……。


 ただ、死の概念もない幼子の私が、同じ概念を感じて、同時に恐怖にも苛まれた。


 ぐちゃぐちゃになった、口の中で歯がかち鳴る。


 顔が表情だけでなく、鼻水と涙でも汚くなる。


 もう、死の一歩手前だった。


 色んな感覚がどんどん、どんどん薄まっていく。


 何も感じないようになって、気付ける間もなく、ほんの刹那に途切れていた。





 ぷつりと。

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