「へへ、満点なんて、いまだに信じられねぇ。さっそく報告して、親父さんの鼻を高くしてやるのも、息子の務めだよなぁ」
戻ってきた教室でカイが威勢よく叫ぶと、クラスの面々は笑いの渦に包まれた。
全員満点。
その熱気を引きずったクラスの仲間たちは、興奮のままに宿舎へ戻ることも忘れ、口々に興奮を叫びながら教室に集う。
「あんまりに楽に勝てちゃって、拍子抜けしたよ。魔獣の攻撃がまるでなかったし、こっちが命中させればそれで終わりだったな」
シャプがにこにこしながら言うと、多くの生徒が頷く。
実際、皆同じような感想を抱いていた。
何度も「魔獣を馴らすテストは難関」と耳にしてきたけれど、蓋を開けてみれば想像以上にあっけなかった。
魔法クラスがどのように立ち回っていたのかは分からない。
ただ確かなのは、満点を手にしたのはたった三人で、そのうえ不合格者まで出たということだ。
「先生がいらした。みんな、静かに」
入り口をうかがっていたエレオノーラがシグルドの姿を見るや声を上げた。
クラスの中に、ほんの数名だけ「何か変だ」と首をかしげる者はいたものの、多くの生徒はそれを自分たちの正当な力だと信じ込んでいた。
実際、自らの手で魔獣を打ち倒し、テスト会場に目立った不審点は見当たらなかった。
若い彼らは、この勝利を素直に喜ぶことを選んだのだ。
シグルドは学校側が武道クラスの成績を取り消すか、もう一度テストに参加させるのではと心配していたが、幸いなことに、学長は踏みとどまった。
教室に入ると、宝石のように輝く瞳を持つ子どもたちがこちらを見つめていた。その無垢なきらめきに吸い寄せられるように、シグルドの口元には柔らかな笑みが浮かんだ。
「よくやった、お前たち」
彼はそもそも担任を務めるつもりなどなかったが、ザレカがわざわざ訪れ、熱心に頭を下げてきたのだ。
そして今、目の前の子どもたちを見渡すと、その純粋さと優秀さに心を打たれずにはいられなかった。
「ありがとう、先生」
どっと歓声が上がる。
ここ数日、彼らは訓練を重ねてきたが、稽古がこれほど成果をもたらすとは誰も考えていなかった。
だが、テストの結果は、予測の範疇をはるかに凌駕するものだった——そして、勝利の裏には、シグルドの導きが鍵だったと確信する生徒たちが、数多く存在したのである。
皆が思い描いた英雄像とはかけ離れた場所で、粛々と役割を果たしていたルーカス。
本当の功労者が彼だとは、まだ誰も知らずにいた。
「よし、今日のところはおしまいだ。とりあえず寮に帰って休め。ポイントは明日、お前たちの学園カードに振り込まれるから安心しとけ」
シグルドの言葉は淡々としていたが、その内容は衝撃的だった。
生徒が20ポイントという大収穫を得るのは、彼ですらつゆほども考えていなかった。
教室が歓喜で満たされる、思いがけない贈り物だった。
「やったー!」
「武道、最高です!」
「20ポイント!これは大金だな」
クラスが喜びに沸き返るなか、シャプとコリンズの興奮はとりわけ激しかった。
カイと交換するためにポイントを湯水のように使ったせいで、残りは乏しいものだったのだ。
そんな彼らにとって、思いもかけぬ報酬が、まるで天からの恵みにも等しく感じられた。
「そろそろ、帰れ」
シグルドは軽く手を振ると、そのまま先に教室をあとにした。
いつもと変わらぬ服装をまとっているのに、クラスの生徒たちの目にはもう以前のような鬱陶しさはなく、むしろ愛しさと畏敬の入り混じった感情が芽生えていた。
先生は、決して虚偽の言葉を吐いたわけではなかったのだ。
真面目に稽古に励めば、合格など造作もなく、満点をも勝ち取れる。
彼らの前にいるのは、もはや怠慢教師ではなく、誇るべき頼もしい指導者だった。
「ルーカス、お前にも見せたかっぜ。今日の魔獣戦で、オレがどれだけ勇猛だったか。残念なのは魔獣が弱すぎたことだ。あんなの相手にもならない。もしオレが本気で叩いてたら、とっくに終わってた」
カイが使った時間は九分。だが、その成果はさほど目立ったものではなく、武道クラス平均に近い評価にとどまった。
実のところ、カイがテスト会場に足を踏み入れた直後は、緊張で動きがぎこちなく、最初の魔獣をどれにするか決めるのに丸々一分も費やしてしまった。
慎重すぎるほどの慎重さで行動を重ね、最後の魔獣を討伐してようやく、彼は足どりを軽くしていったのだ。
大半の生徒もまた、同様の不安を抱いていたものの、魔獣を数体手懐けるうちに自信を得て、段々と行動のスピードを上げていった。
「ああ、カイはすごいよ。いちばん時間を食って、出来も散々だった。俺はつくづく情けない」
“うなだれた”ようにルーカスが声を漏らすと、一瞬、目を丸くするも、カイはすぐさまルーカスの肩に手を置いた。
「そんなこと言うな。満点取れただけでも十分すごいって。ただ、オレと比べるとほんのちょっとだけ差があるだけさ」
カイは親指と人差し指を揃え、それから少しずつ離し始めた。
二本の指のあいだに生まれた爪先ほどの隙間を、これ見よがしにルーカスに向けてみせる。
「ほら、これくらいな」
「そうだな。カイより、ちょっとだけ下にいるんだ」
ルーカスの笑い声が響くと、カイはさらに心を躍らせ、また大会基地での体験談を再び口にし始めた。
——ダクト城外
背の高い馬に跨ったホルトが、そびえ立つ城壁をじっと見上げていた。古びた斑模様と、はっきりと刻まれた魔獣の爪痕が、城の悠久の歴史を物語っていた。
存在感を放つ三つの城砦。そのすぐそばに、ダクト城の三大家族が古の風格を漂わせながら居を構えている光景は、まるで歴史の一幕のようだった。
「キャサリン、目的地のダクトに着いた」
城門前に立ち、ホルトは馬を下りると、馬車の元へと足を運び、帷を静かに開いた。
そして、キャサリンを丁寧に導き、馬車から降ろした。
「さあ、城に入ろうか」
ホルトがそっと促すと、キャサリンは唇をかみしめながら静かに頷いた。
城門の前に立ち、懐かしい街並みと、その先にそびえる城砦を見渡すと、彼女の瞳には複雑な感情と悲しみが宿っていた。
ここは、幼い頃から暮らした故郷であり、同時に心に深い傷を刻んだ記憶の地でもあった。