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第35話 手懐けテスト⑤


「ルーカス、なんて運がいいのかしら」


考えに沈むエヴァの耳に、シグルドの低く響く声が飛び込んできた。


「カイ、お前が入れ」


監督教師は、まず調教された魔獣を細かく確認し、その後、一頭ずつ外へと運び出した。


そしてついに、シグルドはカイの出場を許可する。


カイは、武道クラスから三人目の出場者となった。


エレオノーラとルーカスも、彼に助言をする。


自分に合う魔獣を選ぶことの重要性をカイに念押しするエレオノーラ。


それが、試験を突破する上で最も大切なことだったからだ。


しかし、彼女自身も疑問を抱いていた。


──なぜ、魔獣たちはこうもあっさりと屈服してしまうのか?


たった一撃で戦意を喪失するなど、異常としか言いようがない。


だが、その異常こそが、武道クラスにとっての最大の追い風だった。


――しばらくして


「カイ、満点」


苦笑を浮かべながらも、監督教師が成績を告げた。


この異常な状況を受け入れるしかないと言わんばかりに肩をすくめ、


「これで三人目か……」


と呟いた。


監督たちは再び試験場へと向かい、カイの前で戦意を喪失し、服従の声を上げた十体の魔獣を回収し、学校へと引き渡した。


とはいえ、調査結果が判明するまでは、得点は発表されるものの、正式的なものとはならない。


「……はっはっは」


こうともなると、シグルドの口元が緩み、思わず笑みが零れた。


三人が満点。


そんなはずがない、だが、現実は彼の期待を遥かに超える。


たとえ何があろうとも、武道クラスの躍進を前に誇らしい気持ちを抑えることはできなかったのだ。


武道クラスの生徒がまた一人入場し、しばらく経つと――


「シャプ、満点」


四人目、五人目と、武道クラスの生徒たちが次々と試験を終え、試験場を後にする。


そのたびに、監督教師は魔獣を引き取りに行かなければならなかった――理性をもって説明しようとするほど、不可解な現象に直面する。


何か見えざる力が働いているのか。


長年の経験を誇る監督教師ですら、今日の武道クラスの成績に説明をつけることができなかった。


それほどまでに、異常な結果だった。


とはいえ、彼らはあくまでテスト監督。魔獣の管理を担う者ではない。


仮に何か異変が起きていたとしても、それを追及し、解明するのは魔獣訓練所の教師たちの仕事であり、自分たちが責を負うべきことではなかった。


彼らの役目はただひとつ――目の前の事実を淡々と伝え、結果を発表すること。


動じることも喜ぶこともなく、シグルドは冷淡な表情を取り戻していた。


武道クラスの生徒たちが次々と満点を獲得している――それだけで、何か異変があったことは明白だ。


一方、隣の男性教師は一切の言葉を発しなかった。


皮肉を言うことすら、ためらうほどの異様さを感じているのか。


理由はどうであれ、武道クラスの満点は動かぬ事実だ。


それでも、皮肉のひとつでも言おうものなら、シグルドの冷ややかな一言によって撃沈させられるだろう——


「武道クラスはこれだけの満点を獲得したが、そちらはどうかな?」


正式な結論が出るまでは、軽々しく言葉を発するべきではない。


この結果に異議を唱えれば、それは監督教師たちの判断そのものを否定することになる。


ましてや、魔獣やテストに疑問を向けることは、学園上層部を敵に回す行為にほかならない。


そんな馬鹿げたことをして、一体何の意味があるのか。


試験を終えた武道クラスの生徒が増えるたび、監督教師は魔獣を回収するために会場に入っていく。


試験場にいた魔獣の数は、次第に減っていった。


武道クラスが最後の試験であったことが、せめてもの救いだった。


もし順番が違っていたなら、魔獣不足による試験中断という事態すら起こりえただろう。


「冗談だろ?武道クラスの奴ら、どんだけ運がいいんだよ!

こんな異常、教師が見抜けないなんてあり得るか?」



「 武道クラスの連中、何か仕込んでるんじゃないのか? 」


「だよな。でもバレなきゃ問題ない。

テストの得点は有効だし、20ポイントは確定ってことだろ?」


「羨ましい限りだな……」


武道クラスの第十テスト会場に、次々と生徒たちが集まってきた。


彼らの間で交わされるのは、疑惑めいた呟き。


誰もこの結果が純粋な実力によるものだとは思っていなかった——そして、その疑念は、決して的外れではなかった。


だが、その中にたった一人、誰の力も借りず、実力だけで満点を得た者がいた——ルーカス。


そして、この試験の裏で糸を引いていたのもまた、彼にほかならなかった。


強さとは、何をもって計られるのか。


力か、知か、あるいは感性か。


シグルドほどの武者ですら、この異変を見抜くことができるとは限らない。


ルーカスは確信していた——誰一人として彼に目を向けてはいない、と。


周囲の者たちは、ただ「あいつは運が良かった」と片付けていた。


だが、それこそがルーカスが描いた最高のシナリオだった。


そして——


「満点。これをもって、手懐けテスト終了とする」


最後の武道クラスの生徒が試験を終えた。


監督教師は無表情のまま、結果を静かに読み上げる。


波乱は一切なく、武道クラスの生徒たちは、ルーカスが整えた舞台の上で、揺るぎない満点を獲得していた。


武道クラスの試験終了とともに、新入生のテストが終わった。


終了と同時に、教師たちは検証を進める。


教師たちは困惑していた。


魔獣たちに目立った異常はなく、ただ少し活力を失っている程度。


それはまさに、理想的な「手懐けられた魔獣」の状態だった。


ジュリアは歓喜の声を上げながら駆け寄り、その勢いのままルーカスに飛びついた。


「お兄ちゃん。やっぱり、満点だったね!」


彼女は瞳を輝かせ、楽しそうに言葉を弾ませた。


「ありがとう、ジュリア。

さ、帰るとするか。

今夜も一緒に食べようか」


一瞬、ルーカスの口元に不敵な笑みを刻まれる。


武道クラスの二十人全員が満点を取ったが、その時間には個人差があった。


ルーカスが最も試験に時間を費やし、エレオノーラは最短時間で突破した。


他の生徒たちは、その間に収まる八分から十分で試験を終えている。


つまり、ルーカスが最も劣ると判断するは、誰もが抱く当然の推量である。



生徒たちの解散を見届けると、シグルドは迷うことなく魔獣訓練所へと向かった。


——何が起こったのか。


その理由を、彼自身の目で確かめるために。




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