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第33話 手懐けテスト③


魔法科の生徒たちは、エレオノーラを「厚かましい盗み聞き女」と蔑んだ。


冷たくあしらわれたり、あからさまに追い払われることもあった。


――だが、それでも彼女は続けた。


蔑まれようとも、あしらわれようとも、次々と標的を探して情報を掴み取る。

そして、武道クラスの仲間たちと惜しみなく分かち合った。


(いいリーダーだな)


そんな彼女の姿を見つめ、ルーカスは静かに頷いた。


試験会場は外観こそ普通の教室ほどの広さに見えるが――その内側は別世界だった。


張り巡らされた結界により、内部は外見の百倍以上もの広さを誇る。


結界に阻まれ魔獣は移動できず、生徒は安全に一対一の戦闘を行えた。


――午後


次々と生徒たちが試験を終え帰路につく中、ついに魔法科から最初の不合格者が出た。


その生徒が相対したのは、驚異的な速度を誇る魔獣。


テスト開始後、極度の緊張からクラスメートに念押しされてきたポイント――「魔獣を選べ」をすっかり忘れて、焦燥のまま魔力を浪費してしまった。


翻弄されるばかりで有効な手を打てず――ついに、時間切れとなった。


傷を負わずに試験を終えるが、結果は不合格。


「……魔法学園での生活は、今後かなり厳しいものになるだろうな」


初回の試験で不合格になったからといって、すぐに退学とはならない。


だが、進級の望みは薄れ、それが叶わぬ者に、学園の門は次第に閉ざされる。


やがて、道を断たれ、静かに学び舎の門を後にすることとなる。


――テスト会場


ついに終盤へと差し掛かり――次の参加者はアルティメア魔法学園の歴史に初めてその勇姿を刻む、武道クラスの生徒たち。


シグルドは待っていたかのように、静かに席を立った。

その目には強い信念が宿る、この子たちは、必ず魔獣を従える。


ただ、試されるのは力だけではない。


魔法科の生徒も、本来の力を発揮できずに敗れた。


この試練に打ち勝つことができるのだろうか――


緊張が支配する中、ひとりの教師が歩み寄ってきた。


「シグルド、ようやく武道クラスの出番だな? 期待しないで待っててやるよ」


教師会議で武道クラスの参加に反対の声を上げた教師だった。


シグルドは、睨みつけるように言い返す。


「このクラスの行く末を決めるのは、生徒たちだ。部外者は口を挟まないでくれ」


男教師は、かつてリンドラと同級生だった。


長年、リンドラに思いを寄せていたが――当のリンドラは、彼にまったく興味を示さなかった。


シグルドがその英姿を誇っていた頃、この男が軽々しく絡んでくることは決してなかった――だが、今のシグルドは没落した元貴族。


それを嘲るように、今では執拗に絡んでくる。


「はは、確かに俺には関係ないが。


お前の生徒が半数でも合格してくれりゃいいが……


もし誰一人合格者がいなかったら、武道教育なんて学園の貴重なリソースの無駄遣いって証明されるだろ?



悔しさに歯ぎしりするシグルド。


「まあ、お荷物扱いされたくなきゃ、頑張ることだな……」


軽蔑混じりに鼻で笑うと、男性教師は振り返りもせず去っていった。


武道クラスの生徒たちは、この挑発的なやりとりに怒りを燃やした。


わざわざやって来て、嘲笑を浴びせるなんて――


「……絶対に、見返してやる!!」


闘志と共に、武道クラスの生徒たちはテスト会場へと進む。


◇◇◇◇


――テスト会場


「先生、最初に入ってもいいですか?」


第十テスト会場――魔法クラスの学生たちがテストを終えたとき、ルーカスは突然立ち上がり、シグルドに申し出た。


傲慢な魔法クラスの教師に思い知らせる――武道クラスの力が、侮るほど生易しいものではないということを。


エレオノーラは魔法クラスの生徒たちの侮辱や冷たい視線にもめげることなく、貴重な情報を集め続けていた――情報を掴むだけなら、彼女が動くまでもなかったが、彼女が矢面に立ったことで、ルーカスは影に隠れることができた。


ダメージを受けた魔獣は教師の魔法治療を受け、「記憶封印」の魔法を施され、再びテスト会場に戻される。


どの会場にも200匹を超える魔獣が配置され、相当な傷を負った魔獣だけが回収され、会場に戻されることはないのだ。


これは、先に入った生徒が魔獣を倒し尽くし、後にテストを受ける生徒がポイントを稼げなくなる事態を防ぐための措置だった。


ルールは徹底されており、生徒がテスト会場に入る時には常に最低でも二十匹の魔獣が待ち受けていなければならない。

また、教師たちの何気ない会話から、ルーカスは一つの重要な情報を拾い上げていた。

それはテスト会場の内部は監督教師には見えなくて、魔獣が発する鳴き声だけで「服従」の判断を下しているということだ。

ただし、あまりにも早く魔獣を従わせてしまうと、鳴き声の区別がつかず、何匹が従わせられたか分からなくなってしまう――とはいえ、そんな離れ業をできるのは天才クラスの生徒くらいで、普通の生徒には到底無理な芸当だった。


そして今日、天才的な速さを披露したのはジュリアとエヴァ、ただ2人だけだった。

教師たちは口々に感嘆していた。


「今年の生徒は相当優秀だ。例年なら、これほどの速さを見せる生徒はいても1人、連年は1人も現れないという時もあるというのに、今回は2人もいるとは……」


シグルドはルーカスに視線を向け、


「お前……先陣を切るつもりか?」


と、どこか疑念を含ませた声で問いかけた。


「そうです、先生。任せていただけますか?」


ルーカスは迷いのない眼差しでシグルドを真っ直ぐ見つめた。


「……構わん」


ルーカスを少し見つめると、シグルドは頷く。


普段、目立つことのない生徒だったが、今日のカイとのやりとりを通じて、ルーカスの聡明さを感じ取った。


「ありがとうございます」


ルーカスは静かな感謝の意を込め、頭を下げた。


「武道クラス、第十テスト会場へ!」


監督教師が厳かに告げる。


最後に武道クラスの順番が回ってきたとき、会場に残っていた新入生は百人あまり。


「お兄ちゃん、がんばって!」


ルーカスがテスト会場へ歩き出したとき、小柄なジュリアが高々と拳を掲げ、精一杯の声援を届けた。


彼女はテスト後、帰ろうとはせず、ずっと武道クラスのそばでそわそわと待っていた。


入口でその声を耳にしたルーカスは、小さな笑みを浮かべて軽く手を振ってみせた。


一方、エヴァも帰らずに静かな視線をルーカスに向けていた。


彼の能力を見極めたいのだ。


(ふふっ、入試で見せたその実力、この目で確かめさせていただきますわ)


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