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第32話 手懐けテスト②


結界内は見通せないが、教師たちは魔獣の服従の声を聞き分けることで採点する。


「……さすがは天才クラスの首席。なんて速さだ」


教師たちは思わず息を呑んだ。


あっという間に魔獣を従わせる速度に、監督教師は気を引き締め、カウントが狂わないように何度も確認を繰り返した。


──魔獣が即座に膝をつく。その光景は、技術ではなく天賦の才がなせる業であった。


「服従した魔獣が10体を下回るはずはないだろう。


この生徒にとって、テストはただの儀式的な意味合いしか持たない」


監督教師は即座に「満点」と判定を下した。


試験時間、わずか三分以内。

探索を行い、環境に順応し、戦いに挑むという3つの過程で、生徒の実力が問われる。


ジュリアは文句なしの満点を獲得し、報酬として二十ポイントを得ることになった。


試合場から出たジュリアを、担任のリンドラが満面の笑みで迎える。


「ジュリア、素晴らしいわね! まさに、天才クラスの名に恥じない実力ね!」


そう言うと、リンドラは優しく彼女を抱きしめた。


「えへへっ、リンドラ先生、ありがとう!」


ジュリアも嬉しそうに返す。


だが――挑戦者が現れる。


それはジュリアのライバルであり、彼女の従姉であるエヴァ。

クラスで、ジュリアに続く実力者として知られている。


入学試験ではジュリアに僅差で敗れ、それ以来ジュリアを強く意識するようになった。


「……私の方が上なんだから!」


エヴァの望みは明白だった。


ミランダ家の一員として、ダクト城の名家に生まれ育った彼女は、アルティメア魔法学園の内部事情を熟知していた。


結界が存在すること、試合場の仕組み、そして魔獣の配置――

彼女はそれらをすべて把握していた。


加えて、彼女が扱う精神系魔法は、低級魔獣を服従させる際に極めて有利に働く。


エヴァの狙い通り、彼女は2分で10体を従わせた――ジュリアよりも30秒以上も速い記録だった。


そして、満点を言い渡されたエヴァはジュリアを一瞥し、まるで勝者の余裕を見せつけるようにテスト会場を後にした。


(クラスのリーダーは、やっぱり私ね……)


エヴァは、内心でそう確信していた。


天才クラスの三番手の生徒は、六分半で十体を従わせ、満点を獲得した。

ここで初めて、ジュリアたちに比べて大幅な時間の伸びが見られた。


それでもなお、十分な速さだった。


そして、天才クラスに所属しない生徒たちの試験が始まった。


制限時間が十分経過したのち、ようやく彼らは姿を見せる――最高得点は五体に過ぎず、大半の生徒は二体、三体を従わせた。


そして力不足な生徒は、わずか一分も持たず、たった一体を服従させるのが精一杯だった。


試験の様子をじっと見つめ続けていたカイは、眉をひそめて呟いた。


「魔導士って、普通は武者より強いんだろ?


なのに、あいつらが一、二点しか取れないなら……俺たちは、どうなるんだ?



「カイ、心配するな。魔法クラスの生徒が皆優秀ってわけじゃない。


Lv.1の魔獣相手なら、むしろ俺たちのほうが強い



ルーカスはカイの肩を軽く叩き、励ました。


不安なのはカイだけではない。


武道クラスの生徒たちも、魔法科の成績に焦りを募らせていた。

そんな重い空気の中、シグルドがゆっくりと立ち上がる。


「ルーカスの言う通りだ。


近接戦なら、武道クラスの方が圧倒的に有利だ。


魔法学科の半人前どもより、はるかに戦える。自信を持て!



武道クラスの生徒たちは、力強く頷いた。


その様子を見て、ルーカスはわずかに口元を綻ばせる。


―――シグルドもまた、静かに彼らを見守っていた。


とはいえ、シグルドが怠慢教師であることには違いない――授業に出ず、修行もクラスリーダーに任せて自主訓練させているのだ。


こんな教師でも学園をクビにならないのだから、怠惰の神の加護を受けているのかもしれない。


だが、シグルドは気にする様子もなく話を続けた。


「気づいたか? ここまでテストを終えて出てきた生徒の中に、一人として負傷者がいない」


「先生、確かにそうですね! 魔法科の子にケガをした人はいません!」


エレオノーラがすぐに反応する。


確かに、これまで試合を終えて外へ出てきた魔法学科の生徒たちの顔には、疲れの色こそ見えるが、傷を負った者はいなかった。


ジュリアのような天賦の才を持つ者は稀だ。


ほとんどの生徒は限られた魔力しかなく、試験の途中でそれを使い切り、戦闘を続行できずに膝をつく者が後を絶たなかった。


「その通りだ。しっかりと観察し、冷静に対応しろ」


シグルドは満足げに一度頷くと、視線を前へと向けた。


エレオノーラ――優秀なリーダーだ。


試験を終えた魔法科の生徒は次々と会場を後にしていた。


驚異的だったのは、天才クラスの成績である。

十二名すべてが上位に食い込み、最低点ですら7体。

8体、9体がほとんどを占め、満点の10体の魔獣を服従させた者も三人いた。


一方、一般の魔法クラスでは最高得点でも6体。

天才たちとの実力差は歴然――揺るぎない差が、結果として如実に示されていた。


試験を終えた生徒たちは会場に残り、後続の者へ戦術や状況を伝え、クラス全体の成績を少しでも上げようとしていた。


「入場したら、まず最初に出会う魔獣の種類を確認するんだ」


テストを終えた魔法クラスの生徒が声を潜めて、クラスメートに共有していた。


「攻撃力が低い魔獣なら、すぐに攻撃して。戦意を喪失させれば、次の魔獣へかかるのがいい」


別のクラスの生徒は魔物の選び方をまとめ、仲間と情報を共有していた。


「逆に攻撃力が高い魔獣の場合は、無理に戦わない方が得策だ。


結界の影響で、魔獣は限られた範囲しか移動できないし、一度に複数の魔獣と戦うことはない


エレオノーラは、他クラスの生徒たちが交わした情報を、武道クラスへと持ち帰った。


「このテスト会場では、魔獣が区切られていて、武者にとっては有利に働くらしい。


範囲攻撃型の魔導士は、この環境では不利になるわ



「でも無理は禁物よ。


体力が限界に近づいたら、すぐに撤退して。


先生が言っていたように、最低でも一体を服従させられれば合格点は取れる!」


魔法科の生徒たちの会話を聞き逃すことなく、エレオノーラは武道クラスに伝えた。


試験とは無知を淘汰し、知恵を試すもの。


その鍵となるのが情報である。


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