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第26話 学園ライフ⑦

寮の一室でカイはシャプが持ち帰った料理を頬張っていた。


「うめぇーー生き返るぜ」


ルーカスほど愛らしく、才能に恵まれた妹がいなくとも、彼には十分な資金があった。


シャプはカイの注文した料理を持ち帰り、自らは質素な食事で済ませる——手元にあるポイントは限られており、安定したポイント収入を確保するまでは、栄養価の高い食事など夢のまた夢だった。


——食堂


「ミーナ先輩!」


食堂の奥で、ジュリアがぱっと手を振る。


その声に、ルーカスは自然と視線を向けた先、ちょうどを食事プレートを手にしたミーナが、ゆったりとした足取りで歩いてくる。


昼食の時、ミーナは食事を終えていたため、彼らと一緒にとることはなかった。

だが、夜になって同席する機会を探ってきた。


ミーナが普段座る席は、ここではない。

それでも彼女はわざわざこちらまで足を運び、ジュリアと“偶然”会ったかのように装っていた。


「ジュリア。また会えたわね!」


「そうだね! ミーナ先輩、こっちの席が空いてる。一緒に食べよう!」


ジュリアは心から嬉しそうに笑っていた。


その天真爛漫さゆえに、ミーナを疑うこともなく、本当に偶然だと信じていた。


「そうね……ルーカス、私がそっちに座っても邪魔にはならないかしら?」


わずかに迷いを見せた後、ミーナは静かに席についた。


遠慮がちな態度を装っていたが、それはルーカスの出方を窺っていたのだ。


ルーカスの影響力は絶大であり、ジュリアを味方につけるには彼の協力が不可欠だ。

彼の態度ひとつで、ジュリアの心はたやすくミーナから離れてしまう。


「そんなことはありませんよ。ミーナ先輩と一緒に食事ができるなんて、光栄です」


前世と今世を経て、人の本質を見抜けるルーカスは、薄く微笑んだ。


ミーナの思惑など、すべて見透かしている。


害意がない限りは、適当に相手をしてやるつもりだった。


だが――もし、誤った一歩を彼女が踏み出すのなら、その先に待つのは後悔だ。


夜の食卓は華やかに彩られていた。


ルーカスは存分に味わいながらも、満腹になるのを避けた。

なぜなら、夜にもう一度食事を取ることができる。


——夜


三人のルームメイトは、安神香の効果で深い眠りについていた。


商店でこの香を求めようとすれば値が張り、時にはどれだけ大金をはたいても入手困難なほどの貴重品だった。


これがあれば、今日の鍛錬で生じた疲れも痛みも、夜が明ける頃にはすっかり消えているはずだ。


ヒュン——


風を切る音が夜の静寂を裂く。


ルーカスは疾風のごとく魔獣の山を駆け抜け、あっという間に訓練場へと降り立った。


ここはまだ未完成——だが、焦ることはない。


アルティメアにいる数年間に、理想の形へと仕上げていけばいい。


――デュオが守衛している洞窟。


篝火が勢いよく燃え盛っていた。

大きな牛が炎に照らされながら焼かれている。


デュオはルーカスの後ろで鼻をひくつかせ、よだれを垂らしていた。


それは2級魔獣・鉄甲牛メタル・ミノロス


ルーカスが道中で仕留めた、今夜のご馳走だった。


「デュオ、お前の分だ」


ルーカスは手際よく牛の脚を二本切り分け、デュオの足元に放る。

自身は骨付きリブを握りしめ、勢いよくかぶりついた。


絶品の火入れ。


噛むたびに芳醇な肉の旨味が滲み出し、濃密な香りが感覚を満たす。


その肉質は鉄甲牛の名に反して驚くほど滑らかで、紛れもなく一級品だった。


デュオは夢中で、初めて口にする焼き牛肉を貪る。


熱々の肉をものともせず食らう姿は、炎を統べる魔狼ならではだった。


食事が終わると、ルーカスはデュオに声をかける。


「さあ、特訓を始めるか」


こうして、一人と一匹の鍛錬が始まった。


デュオの咆哮が洞窟内に響き渡る。

その気配に怯えた辺りの魔獣たちは、一匹として近づこうとしなかった。


激しい衝撃が洞窟の壁を震わせる。

だが、ルーカスはまだ本気を出さない——全力を出せば、デュオはついてこられない。


三時間後。


汗が滴り落ちる中、ルーカスは深く息をついた。


デュオとの鍛錬は、昼間のカイとの戦いよりも遥かに実り多かった。


「今日はここまでにしておこう。また明日だ」


少し未練があるような様子だったが、洞窟を後にした。


残った肉をデュオに譲り、ルーカスは夜の帳へと飛び込んだ。


闇へと消える背を夜風が撫で、鍛錬の余韻が静かに霧散していく。


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