寮の一室でカイはシャプが持ち帰った料理を頬張っていた。
「うめぇーー生き返るぜ」
ルーカスほど愛らしく、才能に恵まれた妹がいなくとも、彼には十分な資金があった。
シャプはカイの注文した料理を持ち帰り、自らは質素な食事で済ませる——手元にあるポイントは限られており、安定したポイント収入を確保するまでは、栄養価の高い食事など夢のまた夢だった。
——食堂
「ミーナ先輩!」
食堂の奥で、ジュリアがぱっと手を振る。
その声に、ルーカスは自然と視線を向けた先、ちょうどを食事プレートを手にしたミーナが、ゆったりとした足取りで歩いてくる。
昼食の時、ミーナは食事を終えていたため、彼らと一緒にとることはなかった。
だが、夜になって同席する機会を探ってきた。
ミーナが普段座る席は、ここではない。
それでも彼女はわざわざこちらまで足を運び、ジュリアと“偶然”会ったかのように装っていた。
「ジュリア。また会えたわね!」
「そうだね! ミーナ先輩、こっちの席が空いてる。一緒に食べよう!」
ジュリアは心から嬉しそうに笑っていた。
その天真爛漫さゆえに、ミーナを疑うこともなく、本当に偶然だと信じていた。
「そうね……ルーカス、私がそっちに座っても邪魔にはならないかしら?」
わずかに迷いを見せた後、ミーナは静かに席についた。
遠慮がちな態度を装っていたが、それはルーカスの出方を窺っていたのだ。
ルーカスの影響力は絶大であり、ジュリアを味方につけるには彼の協力が不可欠だ。
彼の態度ひとつで、ジュリアの心はたやすくミーナから離れてしまう。
「そんなことはありませんよ。ミーナ先輩と一緒に食事ができるなんて、光栄です」
前世と今世を経て、人の本質を見抜けるルーカスは、薄く微笑んだ。
ミーナの思惑など、すべて見透かしている。
害意がない限りは、適当に相手をしてやるつもりだった。
だが――もし、誤った一歩を彼女が踏み出すのなら、その先に待つのは後悔だ。
夜の食卓は華やかに彩られていた。
ルーカスは存分に味わいながらも、満腹になるのを避けた。
なぜなら、夜にもう一度食事を取ることができる。
——夜
三人のルームメイトは、安神香の効果で深い眠りについていた。
商店でこの香を求めようとすれば値が張り、時にはどれだけ大金をはたいても入手困難なほどの貴重品だった。
これがあれば、今日の鍛錬で生じた疲れも痛みも、夜が明ける頃にはすっかり消えているはずだ。
ヒュン——
風を切る音が夜の静寂を裂く。
ルーカスは疾風のごとく魔獣の山を駆け抜け、あっという間に訓練場へと降り立った。
ここはまだ未完成——だが、焦ることはない。
アルティメアにいる数年間に、理想の形へと仕上げていけばいい。
――デュオが守衛している洞窟。
篝火が勢いよく燃え盛っていた。
大きな牛が炎に照らされながら焼かれている。
デュオはルーカスの後ろで鼻をひくつかせ、よだれを垂らしていた。
それは2級魔獣・
ルーカスが道中で仕留めた、今夜のご馳走だった。
「デュオ、お前の分だ」
ルーカスは手際よく牛の脚を二本切り分け、デュオの足元に放る。
自身は骨付きリブを握りしめ、勢いよくかぶりついた。
絶品の火入れ。
噛むたびに芳醇な肉の旨味が滲み出し、濃密な香りが感覚を満たす。
その肉質は鉄甲牛の名に反して驚くほど滑らかで、紛れもなく一級品だった。
デュオは夢中で、初めて口にする焼き牛肉を貪る。
熱々の肉をものともせず食らう姿は、炎を統べる魔狼ならではだった。
食事が終わると、ルーカスはデュオに声をかける。
「さあ、特訓を始めるか」
こうして、一人と一匹の鍛錬が始まった。
デュオの咆哮が洞窟内に響き渡る。
その気配に怯えた辺りの魔獣たちは、一匹として近づこうとしなかった。
激しい衝撃が洞窟の壁を震わせる。
だが、ルーカスはまだ本気を出さない——全力を出せば、デュオはついてこられない。
三時間後。
汗が滴り落ちる中、ルーカスは深く息をついた。
デュオとの鍛錬は、昼間のカイとの戦いよりも遥かに実り多かった。
「今日はここまでにしておこう。また明日だ」
少し未練があるような様子だったが、洞窟を後にした。
残った肉をデュオに譲り、ルーカスは夜の帳へと飛び込んだ。
闇へと消える背を夜風が撫で、鍛錬の余韻が静かに霧散していく。