威厳ある声が会議室に響き渡る。
「来る今学期6日目、魔獣手懐けテストを実施する。
新入生は一人残らず、これに臨むように
」
学長の一言により、会議は幕を下ろした。
唇を一切動かさないザレカの声は、秘められた領域から放たれたようだった。
最後列に座っていたが、誰よりも早く席を立ち、足早に会議室を後にしたシグルドの背中には迷いも逡巡もなかった。
武道クラスにテストへの不参加という選択肢は存在しない。
そのことを当然のごとく受け止めていた。そして、それに異を唱える者がいれば、シグルドは断じて許さない——武道クラスを否ずるは、彼の誇りをも踏みにじるに等しい。 彼の力は、完全に衰えたわけではない。
武道とは、魔法とは異なり、刃を交え拳を以て闘うもの。戦場にて磨かれぬ技は、ただの絵空事に過ぎぬ。このような学園イベントこそ、力を試し、心を鍛える場なり。
鋼のごとき覚悟を持たぬ者、試練を恐れる者に、武者の道は遠かろう——臆する者は、戦場に立つべからず。
学びの門をくぐろうとも、武の魂なき者に道は閉ざされる。覚悟なき者は、去るがよい。
――教室
教科書をめくるルーカス。
厚い教科書。
しかし、ルーカスにとっては読む意味のない代物だった。
そこに書かれた知識はすでに体得済みであり、実践においては教科書の域を超えていた——それでも認めざるを得なかった。教科書には武者としての礎が体系的にまとめられており、武の道を歩む者にとって確かな指針となるのだと。
内容を見れば、学校側も決して無策ではなく、彼らの成長を見据えた教材を用意していた。
ルーカスが感心していた時――
「シグルド先生よ!」
前列に座っていたエレオノーラの目が光る。
教室へと近づくシグルドの姿を捉えるや否や、すかさず声を張り上げた。
ざわついていた教室が、一瞬で静まり返った。
「6日後、学校で魔獣手懐けテストが執り行われる。
お前たち、魔獣と戦う力を付けるんだ。
さぁ、授業を始めるぞ
」
シグルドの言葉は簡潔だった。6日という短い期間では、大したことは学べないが、武者にとって何よりも重要なのは実戦だ。
「俺たちも参加するのか?」
カイが驚いて尋ねた。どうやら彼は痛みから学ばないタイプらしい。午前中のチョークなど、もうすっかり忘れているようだった。
「ぐわぁっ!」
次の瞬間、案の定カイはまた頭を押さえていた――額に新しい赤い痕をひとつ増やして。
入学早々、新入生が魔獣と戦うのは、学校の恒例行事だ。
このテストによって、生徒たちの実力と個性を測り知ることができる。
その過程で、クラスをまとめるリーダーが誰なのかも決まるのだ。
リーダー決定後、自分たちは無関係と考えていたカイがまた口を滑らせた。
「授業を始める」
そう言ったシグルドはカイを睨みつけていた。
彼のクラスでは、貴族も平民も関係ない――彼自身も平民出身なのだから。
教科書の第1章を簡単に説明した後、シグルドは生徒たちを教室の外に集合させた。
武道クラスの教室と宿舎は校舎の端にあり、その近くには小さな訓練場が設けられていた。
シグルドは学生たちに二人一組で組み手を行うよう指示し、その場に座り込んで酒壺を片手に、時折、生徒たちを観察するような素振りを見せた。
一見無関心な様子だったが、この飲酒教師は全員の動きを細かく捉えていた。
一人一人の一挙手一投足が、シグルドの目から逃れることはない。
そんな中、ルーカスが訓練場に立つ。
視線の向こう側にいる対戦相手はカイだった——全力を出せば、一瞬で倒してしまう相手だ。互角の相手であるかのように装う必要があった。
――辺境の小さな町、ライアン家の本邸。
柔らかな風が庭の草花を揺らし、ほのかに甘い香りを運んでくる。その庭の片隅に、キャサリンは静かに佇んでいた。
数日前から、彼女は毎日この場所を訪れている。まるで何かを探すかのように、じっと空を見つめたり、そっと草花に触れたりしながら。
ここは、ルーカスとジュリアが幼い頃、何時間でも飽きずに遊んでいた場所だった。彼らの笑い声が風に溶け、今もなお残響のように響いている気がする。
「また子供たちのことを考えていたのか?」
低い優しい声とともに、ライアン・ホルトが彼女に近づき、そっとその肩を抱いた。
キャサリンはゆっくりと振り返り、少し寂しげに微笑んだ。