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第22話 学園ライフ③

アルティメア魔法学園はポイント制を導入している。


それは食堂にも適用される。


初めて食堂に入る際、新入生は金貨を使ってポイントと交換できる。


交換は一度きりで、一枚の金貨が必要だ。


10ポイントあれば、武道クラスの生徒は一ヶ月分の食費をまかなえるが、あくまで普通の食事に限った話であり、贅沢な食事をするには足りない。


「これは学園の制度だ。


武道クラスの交換ポイントはこれだけだ。


もしお前さんが天才クラスなら、1枚の金貨で100ポイントと交換できる」


ポイントの交換量は、入学後、配属されるクラスによって決まるのだ。


天才クラスの生徒は、金貨1枚で100ポイント、普通の魔法クラスなら30ポイント。

武道クラスだけ、たったの10ポイントという不遇だった。


「なんて不公平!こんなのおかしいぞ!」


カイはそう叫んだが、ポイント交換を担当する職員が鋭い視線で睨む。


「交換するのかしないのか、さっさと決めなさい。他の生徒の迷惑になるだろ」


「……交換します」


悔しそうにうつむくと、カイはしぶしぶ交換に応じた。シグルドへの文句ならいくらでも言えるが、学園の制度に楯突くことはできない――そんなことをすれば、退学処分になり、家に戻ってカンカンになった父に殴り飛ばされるだろう。


アルティメアから退学になった者など、トロイ家の名にとって耐えがたい汚点だ。


結局、金貨1枚を10ポイントに交換したカイも食券を手にしていた。


実のところ、ルーカスも同じく10ポイントしか交換できなかったが、ジュリアに手を引かれ、食堂の料理を選んでいたルーカスはまったく気にしていなかった。


ジュリアは100ポイント分の食券を持っている。


2人が豪快に好きなものを選んでいるのを横目に、カイは自分の食券とにらめっこしていた――そして悩んだ末、彼は0.5ポイントの料理という最善の選択をする。


今のカイにとって、ぎりぎりだった。惨めすぎる食事なら、口にしない方を選ぶ。空腹だとしても、みじめになるよりはマシだ。


質素な食事と、ルーカスとジュリアが楽しげに選んだ料理を見比べ、カイは飲み込むしかない理不尽な現実を痛感した。


「カイ、一緒に食べようよ!」


昨日、ジュリアはすでにカイのことを認識していた。

兄のルームメイトであると知っていたため、気負うことなく食事に誘ったのだ。


「ありがとう、ジュリア。君は本当に優しい子だな」


カイはすぐに表情を和らげ、嬉しそうに微笑んだ。


彼は貴族としての気ままさを持ち合わせていたが、他人の食事に手を出すことは決してしない。それは、貴族の品格を損なう行為だからだ。


しかし、ジュリアからの申し出ならば話は変わる。


天才クラスの生徒から声をかけられることは、むしろ名誉なことだとさえ思えた。


ルーカスは呆れたように微笑み、軽くため息を吐く。

生意気なことを言うカイだが、所詮はまだ十二歳の少年なのだ。


食堂は新入生にとって、最初の試練だった。


武道クラスであれ魔法クラスであれ、学生たちはここで痛感するのだ――ここではポイントを稼がなければ生きていけない。


多くの生徒が、昨日の入学式で配布された資料を取り出し、ポイント稼ぎの方法を読み返していた。


「ジュリア、学園の食事はどう? あら、ルーカスも一緒なのね」


食事の途中、ミーナがやって来て親しげに声をかけた。


「とってもおいしいよ! ミーナ先輩、一緒に食べる?」


ジュリアはぱっと顔を上げ、楽しげに声をかけたが、ミーナは柔らかく微笑みながら断った。


「もう食べたから、遠慮しておくわ。二人とも、ゆっくり食べてね」


ミーナはそう言い残し、そのまま立ち去った。彼女の背中を見送りながら、ルーカスは静かに目を細める。


――偶然を装った接触。

だが、ルーカスの目を欺くことはできない――食堂内には、彼が顔を知る者が何人もいた。

周囲の動きは把握されていて、ミーナは遠くの席で食事をしていたのだ。


彼女がこちらを通る必要など、まったくなかった――ミーナはわざわざこの席に来たのだ。


ミーナの目的は何なのか?


しかし、彼女の視線や纏う空気からは、敵意の欠片すら感じられなかった。

もし悪意があるなら、どれほど巧妙に隠しても、些細な違和感が滲み出るものだ。


ルーカスは確信する。


「ミーナの標的は、ジュリアではない」


ルーカスは、ジュリアに守ってもらう気だが、この学園で決して妹を危険にさらさせはしない――相手が何者であろうとも。


静かに食堂を後にしようとするミーナ。

だが、扉へと手を伸ばす前に、わずかに振り返る。


その視線の先は――ジンドウ・ソウゴ。特徴的な魔導士のローブを纏い、炎を足元にまといながら静かに食堂へと降り立った。


食堂内の視線が、一気に彼に注がれる。


新入生たちは驚いた様子を見せ、上級生たちも一斉に彼に視線を向ける。

当然のことだ。彼は、このアルティメア魔法学園の生徒会長の一人なのだから。


「ド派手な登場ね……相変わらずね」


ミーナはため息交じりに首を横に振る。


この男が姿を現すのは、決まって食堂が最も混雑する時間帯だ。

しかも、毎回派手な魔法を披露しながら登場するのが恒例となっていた。


――いったい、どれだけの魔力と魔法素材を無駄にしているのか。


彼が使う<フレーム・サークル>は、発動するたびに貴重な火属性の魔法素材を消費する。

その代価は、武道クラスの生徒が交換できる10ポイントなど軽く超える。


「まあ、彼も来年には卒業する」


ミーナは静かに考える。


次の学生会長の座は、間違いなく自分のものになる。


現在、この学園には3人の学生会長補佐がいる。


ミーナは三人のうちの一人にすぎない。

残る二人は手強いが、彼女には勝つための策があった――競争を勝ち抜くには、有能な協力者の存在が鍵となる。


その筆頭としてミーナが陣営に取り込もうとしているのは、幼さと純粋さを持ちながらも、確かな実力を備えたジュリアだった。


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