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第16話 生徒会長

部屋を覗くと、先に来ていた二人のルームメイトは既に動き始めている。

一人はほうきを掴み、もう一人は雑巾を手にして、部屋を必死に掃除し始めた。

服装からして二人は平民らしい。金貨一枚は大金で、自分たちの部屋掃除なら、断る理由はないだろう。

「ひでぇ…こんなボロ部屋に泊まるのは初めてだぜ…」

 掃除する二人には目もくれず、カイは落ち込んだ様子で嘆く。そんな彼を、ルーカスは笑顔で宥めた。

「カイ、そう落ち込むなって。

なんだかんだ言っても、俺たちはアルティメア学園に入れたんだ。

何とかなるさ


「だな。ここはアルティメア学園だ」


 元気を一瞬取り戻すも、四周を見回したカイはまた気分を悪くする。


「でも、あんまりじゃねぇか? こんな廃墟みたいな所に押し込まれてさ」


部屋の条件は悪く、カイの言うとおりかもしれない。


ほどなくして二人のルームメイトが掃除を終え、ようやくカイは部屋の中へ入ってきた。


「よくやった。おまえらへの報酬だ」

 カイは金貨を二枚投げ与えた。

「ところでおまえらの名前は?」

 ルーカスもようやく中へ入り、ベッドの上に腰掛けた。

「コリンスです」

「シャプです」

 二人は金貨を握りしめ、小声で答える。

するとカイはまた三枚の金貨を取り出し、ルーカスを含めた三人に一枚ずつ配った。

「おまえら、運がいいぜ。俺と同じ部屋だ。これから先は俺が守ってやる

 ルーカス、おまえもだ。もし誰かにいじめられたら、すぐに俺の名を出すといい。ダクト城じゃトロイ・カイの名は結構通るんだぜ。

 あと、この部屋を清潔に保てよ。汚いのは嫌いなんだ」

 受け取った金貨を指でなぞったルーカスは、やわらかく滑らかな手触りに、さすが貴族と思いつつも、カイの少し傲慢なところをそれでも憎めない奴だなと苦笑する。

「全員、制服を着て礼拝堂に集合しろ!」

 廊下を歩く寮の管理人が大声で告げる。カイは目を大きく見開き、自分の着ている華やかな服装に視線を落とした。

「やべっ、学園内では制服を着用するのが必須だった……!」

 そう嘆くカイ。武道クラスだけでなく、魔法クラスや天才クラスも含め、生徒は皆、学院指定の制服を着なければならない。


 天才クラスの魔法ローブは襟に金色の飾りが縁取ってあり、華やかで目を引き、一目で他のクラスの生徒との違いが分かるようになっている。


ベッドに荷物を置き、ルーカスも制服に着替える。

武道クラスの制服は真っ黒で、魔法ローブに似た形状だが、生地も仕立ても粗末で、まるで別物だった。


「なんだこのダサさ……」


「ルーカス、見ろよ、この布。ひどいもんだぜ」


「こんなの、道化みたいじゃないか」


 礼拝堂へ向かう途中、カイは不満をこぼし続けるが、コリンスとシャプの2人は平民出身のため、与えられた制服を「なかなか悪くない」と思っているようだ。

「何でも、学院には生徒を奨励するための仕組みがいろいろあるらしい。ちゃんと聞いておけば、意外な収穫があるかもしれない」


「そうだな。早く行こうぜ」

そう言って目を輝かせるカイに、ルーカスは苦笑を浮かべ首を横に振り、歩行のペースを落として一緒に礼拝堂へ入っていった。

 アルティメア学園の礼拝堂は広く、普段なら全校生徒がここで行事を行うことができるが、今いるのは新入生だけだった。

 武道クラスの席は一番後方で、魔法クラスとの間に七列もの空席がある。人数はわずか二十人で、すでに全員が座っているため周囲からは浮いて見えた。

 一方、礼拝堂の前方には、襟に金色の飾りをつけた魔法ローブを身にまとった十二人の生徒が陣取り、会場の視線を集めている。

 その中心にいるのは、周りより一回り背が低いジュリアだった。

 鮮やかな魔法ローブをまとったジュリアは本日のヒロインそのもので、まるでお姫様のように輝いている。

「なんで俺たちはこんなに後ろなんだ? 不公平だろう」

 席に着くや否や、カイはさっそく不満を漏らした。

ルーカスは周り――主に武道クラスの生徒たち――をゆっくりと見回す。

今年初めて設けられた武道クラスは、年齢制限で十四歳までしか入れない。

十四歳が二人、残りは十二、三歳が大半で、女子は四人しかいない。

その中に一人、ルーカスの目を引く少女がいた。背は高くなく、黒い短髪がとてもきびきびとした印象を与え、制服も誰より整然と着こなしている。


彼女に注目したのは、その静けさゆえだった。ほかの生徒が魔法クラスに興味津々の様子で目を向ける中、彼女だけは席についたまま微動だにせず、ずっと壇上を見つめている。


さらに、その目は澄んでいながらも強い意志が感じられ、ルーカスは少し気に留めたあと、視線をステージに戻す。すると、壇上の上空に突然、炎の塊が現れた。

 炎はゆっくりと大きく膨れあがり、まるで花が開くように花びらを広げると、十二枚ほどの巨大な火の花が現れる。

 新入生たちはみな一斉にその光景を見て、驚きの声を上げた。

「火の魔法で炎を固定してる……Lv6の魔法だ」


「すごい! 私は火の玉しか撃てないのに」


「すげー、先生が来たのか?」

その声々を、壇上の青年――ジント・ソウゴは得意げに聞きながら待っていた。

しばらくして、彼は両足の下に火の輪を生み出して横向きに滑り、ステージ中央へと移動する。かなり凝ったお気に入りの演出で見るからに機嫌も上々だ。

ソウゴが纏う魔法ローブは特別で、襟の金縁だけでなく、袖口やベルトまですべて金色。高貴を象徴する金色と巨大な火の花が相まってきらびやかに輝く。

「諸君、君らは運がいいぞ。

今日はアルティメア学園が誇る未来永劫の最強魔導士、歴史に名を残すであろう生徒会長

この最強魔導士ジントウ・ソウゴが、学園のポイント制度について説明しよう!


我らが偉大なる学長、そして私が超える定めに大魔導士ラアトが、アルティメア学園の創設時に定めた制度で……」

 ジントウ・ソウゴの声はどこか魅力的で、見栄を切った登場に鋭い目つき、高く掲げた顎。その姿に、何人もの少女たちが頬を染める。

(先輩……かっこいい……)

(すごいオーラだわ)

(なんだかドキドキしてきちゃった……)


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