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第14話 入試⑥



一通り終えた後、記録係が撃ち飛ばされた白鋼のダミーを元の位置に運び戻した。次にテストを受けるのはジュリアだ。

ジュリアが杖を高く掲げると、密閉された室内に雷鳴が轟き渡り、呪文を口にした時、一筋の赤い雷鳴が空を引き裂いて降り注ぐ。

「カーッ!」と響き渡る音とともに赤雷が閃光を撒き散らし、魔法ダミーを正確無比に撃ち抜いた。

一瞬で響いた爆音に、全員が思わず耳をふさいだ。

赤い雷に驚いたジュリアも跳ね上がるようにして横に身を躱し、地面にしゃがみ込み耳を押さえた。

(どうして雷の色が赤くなったの?)

(今までずっと紫だったのに!)

(雷の精霊がいつもより生き生きしてる、不思議…)

紫の雷を超える力を持つ赤い落雷を見て、ルーカスは意味ありげな微笑みを浮かべた。

(錬丹術で得られる効果は、どうやら魔導士にも効き目があるらしい。残念ながら、使えるのはこの一点だけだが…)

ルーカスは、三年前から武道の錬丹術の研究に打ち込んできた。魔法で例えるならば魔薬学だ。

ただし、魔薬が主に他へと作用するのに対して、大抵の場合、自分自身には影響を及ぼさないが、錬丹術はその逆である。

武道の強者は、肉体を強化することでその実力を高めていくため、武道が隆盛だった時代には、こうした錬丹術が必然的に発展したのだ。


貴重な素材をさまざまに組み合わせて、身体を強化する丹薬を錬成する。短期間だけ力や速度を向上させる丹薬もあれば、長期間にわたり服用することで肉体を頑健にするもの、あるいは奇妙な効果を持つものなど、多岐にわたる。

そして先日、ルーカスは<錬丹術>をLv6にまで昇華させ、魔導士の精霊親和度と魔力量を一時的に引き上げる丹薬──「魔力賦活丹」の錬成を解禁した。

この丹薬はかつて武道の錬丹術を興した非凡な武道家が、由緒正しい魔法一家の女を妻として迎えるため、その一族のために特別に研究したものだと言われている。


「魔力賦活丹」は魔導士のためだけに作られた丹薬で、そのレシピは知れわたっているが、少なくとも錬成に成功できる腕を持つ者が100年ほどいない空白があった。


今の時代、武道の錬丹術で最も成果を上げているのは、帝国武道部の総長であり、帝国で唯一の9星の武人である烙 炎 らくえん公爵だ。

彼は、普通の大魔導士と同等の力を持つ武者として帝国で唯一の存在でもある。


もっとも、烙炎公爵の9星の武人ではあるが、その実力は帝国内でトップ100には入らない。

しかしながら、武道錬丹術をレベル6まで極めて「魔力賦活丹」を錬成できるのは帝国で唯一彼だけであり、そこに目をつけた多くの大魔導士からは熱い支持を受けている。

世の魔導士なら誰しも「魔力賦活丹」を手に入れたいと渇望するだろう。自分の力を一段階引き上げられる唯一無二の神薬なのだから。

たとえ効果が一時的だとしても、その価値ははかりしれない。


「魔力賦活丹」を錬成できることを知られると、ルーカスの平穏な暮らしなど水の泡となるだろう。

今の彼には、強大な魔導士たちの要望を拒めるほどの地位も実力もないことを、ルーカスは理解していた。

ゆえに、ジュリアにさえ「魔力賦活丹」をアメ玉と言い含めるにとどめているのだ。


雷光が収まると、白鋼のダミーは淡い金色の閃光を散らしていた。

先ほどルーカスが放った一撃の後の金色ではないが、それでも禁呪級に近い破壊力であった。


魔法書のしおりにあるジュリアの姓を一瞥すると、記録係は地べたにしゃがんで耳を押さえる幼い少女が、例の「運がいい」ルーカスと兄妹であることを把握した。

とはいえ、ジュリアの雷撃は確かな魔力によるもので、ダミーの故障などと疑う余地はなかった。

「9.5」――記録係はジュリアの名前の横に得点を書いた。


ジュリアが召喚した赤い雷霆に、会場に集まった新入生たちはこぞって度肝を抜かれていた。中には同じように雷神の加護を授かった者もおり、落雷の威力を理解しているため、衝撃は計り知れない。


「すごい魔法の才能だな。雷って白→青→紫→赤→金と、強さが上がるごとに色が変わるんだろ? あんな小さな子が、赤い稲妻を操るなんて、にわかに信じられない」

「俺なんか、雷神6精霊の恩恵を受けた一家の天才だとか言われてるけど、青い雷を召喚するので精一杯だっていうのに…」


「うらやましすぎる! 赤い雷鳴なんて、D級魔獣なら一撃で沈めるし、弱いC級魔獣をも仕留められるほどの強い攻撃魔法だよ。卒業前にそのレベルに上がれば御の字なのに…あの子、入学試験ですでにやってのけるなんて…」


「破壊力がえげつないな。さすが攻撃力が一番とされる雷系魔法だ」

「音も光も形も桁違いの一撃だよな。あの運だけの出来損ない兄貴とは大違いだ」

「これが天才クラス特別入学生の実力か…。たった一撃で、こちらのやる気まで砕かれてしまうよ」


次にテストを控えていたエヴァは、頑なな自信を抱いていたはずの瞳に動揺を宿していた。


(わたし…もしかして…彼女には追いつけないかも…)

(8歳なのに…)

(ライアン・ジュリア…あなたも覚えておくわ!)


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