ルーカスの澄んだ翡翠の瞳に、鋭く冷たい光が宿る。彼は身をかがめて小石いくつか手に取った。
「パパパパパパパパパパッ」
夜の帳の中、9つの小石が肉眼では捉えられないほどの速度で飛び、老執事フォーデンを取り囲んでいた9人の盗賊の額に正確に命中した。
そして、続けざまに「シュッ」という音が闇に響く。猛スピードで射出された小石は盗賊たちの頭蓋を貫き、一瞬で命を奪う。
「
それはルーカスが数年前、鳥を撃つ遊びのために習得した武技であり、暗器を操る技の一つである。
しかし、武道の壁によって大抵の者は何十年修行を積んでも「疾風撃」を質的変化が訪れるLv3に到達させることすらできないため、人間相手にはほとんど役に立たない代物だった。
だが、武道の壁を無視できるルーカスは、この技をLv4まで高めていた。その結果、彼が放つ小石はまるで弾丸のごとき速度と威力を持ち、Lv1の武者に過ぎない盗賊たちを一瞬で倒すのは簡単なことだった。
命懸けで戦っていた老執事は、自分を囲んでいた盗賊たちが同時に倒れるのを目の当たりにし、何が起きたのか全く理解できずにいた。
一方、遠くで馬に跨っていた盗賊の頭領もまた、目を疑うように啞然と立ち尽くした。
「何だと?一体何が起きた!?どうして手下が一瞬で全員死んだんだ!?」
「誰だ!誰の仕業だ!」
怒り狂った頭領は手にした杖を振るい、恐ろしいまでの高温を放つ巨大な火球を作り、体力が限界に達した老執事に向かって放った。
火球は凄まじい速度で飛び、執事が回避する余地はどこにもなかった。
だが、火球が放たれたその時、ルーカスもすぐに反応していた。彼は地面を蹴り、人の目に止まらぬほど速く近づいていった。
次の瞬間、老執事の前に現れ、右の掌を恐ろしい火球に向けて一撃を繰り出した。
ルーカスの一撃が強力な気流を巻き起こし、それは目に見えない空気を圧迫し、空気が震え波打つように広がった。
「ゴウッ」
烈火を纏った火球は、気流の猛威にさらされ、無惨に消えた。
< 蒼天掌・
盗賊の頭領は目を見開き、信じられない表情で再び態勢を整え、火系の上位魔法である<ヒドラ>を唱えてルーカスたちを葬り去ろうとしていた。
しかし、ルーカスはその隙を与えない。
一……三……五……七……十八……
数えきれぬ拳影が降り注ぎ、恐ろしい力が空気を震わせた。
盗賊の頭領と馬を肉塊へと変えた。
< 烈覇拳・
そして、辺りは静寂に包まれた。
盗賊の頭領は死に際まで、自分がどうしてこの少年武者に秒殺されたのか理解することはなかった。
「……ルーカスお坊ちゃま、一体どうやって……」
驚愕に満ちた老執事に対し、ルーカスは少年らしい無邪気な笑みを浮かべ、頭をかきながら答える。
「フォーデン爺ちゃん、誰もが僕は魔法とは無縁だと思ってるけど、実は武道においてはそれなりに才能があるんだ」
そう言った後、ルーカスの表情には僅かな哀愁が滲んだ。
「……でも、出遅れたせいで、カレス(騎士の名前)を救えなかった……」
「このことは内密にしてくれないか?」
「かしこまりました、坊ちゃま」
フォーデンは感慨深げに頷いた。40年の修行を積んだLv2の武者として彼は理解していた――幼い頃から見守ってきたルーカスの才能がどれほど驚異的なのかを。
たった一人で九人の武者を倒し、火球を消し去り、賊の頭を馬ごと拳で粉砕する――
老執事は、Lv3の武者になったとしても、これを成し遂げるのは不可能だと考えていた。
それは、坊ちゃまには自分だけの「秘密」があり、知っている人が少ないほうが望ましいということだ。
だが、そんな秘密を自分を助けるために露わにしてくれた――そう思うと、老執事の胸には感動が込み上げた。坊ちゃまは自分を無条件に信頼してくれているのだと。
ルーカスは簡単に説明したが、老執事が深読みすることを特に気にしなかった。フォーデンは幼い頃から自分を育ててくれた存在で、主従関係を超えて、祖父と孫のように親しい間柄で、裏切ることはないと信じていた。
「うっ……んんっ……!」
苦しそうな声が聞こえ、馬が不機嫌そうに蹄を踏み鳴らす。その背中には縛られた少女がもがいていた。
少女は目隠しと口を布で塞がれ、手足を後ろで縛られ、馬の腹を通る縄で動けないようにされていた。
盗賊団が一瞬でルーカスに壊滅させられたことに衝撃を受け、その余韻からしばらくしてから立ち直った老執事は、少女の救出にようやく気が回った。
1時間後――戦場の後始末が終わり、護衛たちは埋葬され、盗賊の屍は密林へと遺棄された。
ルーカス、ジュリア、老執事、そして震えが止まらない少女は、篝火の温もりに身を委ね、夜明けを待っていた。
「なんと……そなた、ランスロット・メイルであったか?」
助け出された少女を見た老執事は、驚きに口元を引きつらせていた。
ルーカスもこの名前にはかすかな記憶があった。この体の持ち主の記憶に――確か幼い頃に取り決められた婚約者がいたはずだ。その名前こそ、ランスロット・メイルだった。
ダクトー城周辺に住むライン家とランスロット家は、少し格の低い貴族として、長年親交を重ねてきた。
ルーカスが生まれた年に、父ホルトはエース町のランスロット家と婚約の約束を結んだ。
婚約に名を連ねたのは、ルーカスと彼より2ヶ月若いランスロット・メイルだった。
だが、ルーカスが6歳の時、彼は魔法の神々に見放されたと宣告され、魔法の力を持たない絶縁体とされてしまった。一方、同じ年のメイルは祝福により氷の神から
ついに、野心に駆られたランスロットの当主がライン家へと出向き、婚約破棄を正式に申し出た。
それ以来、両家の仲は冷え切ってしまったのである。
メイルの銀白色の長い髪は瀑布のように垂れ、氷のように青い瞳と黒い睫毛が神秘的な美しさを際立たせている。肌は白く艶やかで、美しい頬に淡い紅が浮かんでいた――篝火の光ゆえか、救いし恩人への恥じらいゆえか、判然とはしない。
青いドレスは所々裂け、繊細な雪模様も悲しげに揺れていた。靴を奪われた少女は、白い素足を冷たい地面に置き、篝火の側で膝を抱えていた。その姿は、儚く頼りなく、思わず手を差し伸べたくなる様子だった。
「ねえねえ、メイルお姉ちゃん、なんであんな悪い人たちに捕まっちゃったの?」
ジュリアはメイルに寄り添うように座り、つぶらな黒い瞳をきらめかせながら、何の曇りもない声で問いかけた。
ジュリアの天性の親しみやすさが、メイルの張り詰めた心を少しずつ和らげていく。盗賊の手に落ちる恐怖を経験した少女は、次第に落ち着きを取り戻し、静かにその身に降りかかった出来事を語り始めた。