この世界には貴族が魔法を修め、平民が武道を修めるという絶対的な隔たりが存在する
その理由は単純である――魔法を修行するためには、6歳を満たずに神の祝福を受け、精霊の力を授かって、魔法への悟りを開かなければならない。
しかし、神に供物を捧げて祝福を得るには、多額の費用が必要だ。貴族がかろうじて負担できても、日々の生活に追われる平民には到底手の届かないものだった。
斯くして、平民に残された道は、ただ武を志す他になかった。
然れど、その道もまた平坦にあらず――武術修行には「境地」と呼ばれる壁が立ちはだかり、それを打ち破らねば前に進むことができないのだ。
境地を突破するには、他人の助けを借りることはできず、己の悟りに頼るしかない。その困難さゆえ、かつて武に心を傾けし者たちすら道半ばで挫折し、魔法に並ぶ武道という夢を断念した。
今や、武の道は風化し、完全に埋もれし存在となり果てた。
立身出世を夢見る平民のみが、険しい修行の道に身を投じるが、その境地の壁の高さゆえに、成し得る成果は極めて凡庸であった。
ライアン家の屋敷。
春の彩りが広がる庭園で、咒文を唱え終えたジュリアが杖を一振りすると、一筋の稲妻が天から降り注ぎ、彼女の目の前にあった大木を真っ二つにした。
8歳になったジュリアは、自分が放った雷撃の手応えに満足して小さく頷き、大木の残骸へと足を進め、術の威力をじっくり見定めた。
その時、青ざめた顔の侍女が、慌てた足取りで駆け寄ってきた。
「ジュリアお嬢様、ジェレミー坊ちゃんがまたルーカス坊ちゃんをいじめています……!」
ジュリアの明るく愛らしい顔が、みるみる曇りの表情に変わった。
裏庭で、金髪を風になびかせ、傲慢な笑みを浮かべたライアン家の四男ジェレミー・ライアンが、
ジェレミーは、ライアン家当主ホルトの第二夫人の一人息子で、ルーカスより1歳年長だ。
「何度言わせるつもりだ?裏庭はお前みたいな出来損ないが来ていい場所じゃない」
「坊っちゃんのおっしゃる通りですわ。神々に見限られたようなあなたが、追放されもせずライアン家にとどまっていること自体が不思議ですのに、家族の中心メンバーだけが入れる裏庭に来るなんて、図々しいにもほどがありますわ」
と、ジェレミーの侍女が冷たく言い添えた。
ツタに体を締め付けられ、骨が「ギシギシ」と軋む音を立てていたが、ルーカスの顔にはまるで動揺の色がなかった。
えっーと、肋骨にひびでも入ったかな?
この程度の傷なら、日々の修行で受けた傷の方がよほどつらい。
6年間で似たような痛みを何度も味わって、すっかり慣れてしまった。
「ジェレミー、知っていると思うが、もうすぐ可愛い妹がここに来る
雷に打たれて炭になりたくなければ、今すぐ僕を解放するんだ」
しかし、魔法学院で1年間修行を積んだジェレミーは、ルーカスの警告を嘲笑いながら冷たく返した。
「妹に守られてなきゃ何もできない弱虫が、よくもそんな口を利けたな。ジュリアが来たところで、俺に勝てるわけがないだろう」
だが、その言葉が響き終わるよりも早く、ジェレミーに雷が落ちた。