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没落貴族の息子として、静かな暮らしを望んでいただけなのに、武神から最大級の祝福を!?だが、ここは魔法至上主義だった!?
没落貴族の息子として、静かな暮らしを望んでいただけなのに、武神から最大級の祝福を!?だが、ここは魔法至上主義だった!?
フカヒレ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年02月20日
公開日
8.9万字
連載中
ここは魔法が支配する世界。
1万年前、武道は魔法と双璧を成す力だった。だが今や、武道の名は歴史の闇に消え、忘却の彼方へと追いやられてしまった。
「魔法こそが最強」。それが、この世界の揺るぎない真理だ。
そんな時代に、辺境の小さな町で没落貴族の子として俺は生を受けた。
武神の祝福を授かることになるとは、誰が想像しただろうか——「魔法絶縁体」
それは、魔法の神々に見捨てられた存在。
だが、私には守りたい日常があり、大切な人々がいる。それだけで十分だ。
俺は俺の転生ライフを過ごすんだ!
武神の期待?それがどうした。
神なんて、待たせてやればいい。

第1話 転生 – 忘れ去られし武神①


とある一家。


お団子頭の女の子が手を振っていた。

「ママ、お兄ちゃん。梓、学校へ行ってくるね!」

カバンを整えていた秀一は慌てて立ち上がると、顔に溢れるほどの優しい笑みを浮かべながら妹の手を引き、家を出て通学バスの待合場所へ向かった。


「小学校に上がって、まだ数日なのに、もうカバンを用意して、スクールバスを待てるようになったんだな!」


「うちの梓は偉い」

秀一は妹のお団子頭を優しく撫で、褒めると同時にこっそり棒付きキャンディーを一本手渡す。


「放課後まで食べちゃだめだよ」

と秀一が笑顔で言い含めると、梓は大事そうに胸の内ポケットにしまい、「うん」と可愛らしく頷いた。

妹が大きなランドセルを背負ったままスクールバスに乗り込むのを見届けると、秀一は家へと引き返す。


「秀一、お弁当よ」

お母さんが笑顔で差し出してくれた弁当を受け取ったとき、秀一は長い間、パートやアルバイトを掛け持ちしてきたせいで荒れた母の手に気づき、胸がきゅっと締めつけられる思いがした。


「今日はあなたの好きな玉子焼きも入れてるわよ」

母は秀一のわずかな変化を感じ取り、そっと抱きしめて言った。

「あなたは家で唯一の男の子なんだから、強くいなきゃね」

「わかってるよ」


母が外で必死に働く姿を思い浮かべ、込み上げる想いをぐっとこらえながら、秀一は笑みを浮かべて言った。

「俺、もっと頑張るから」

(大きくなったら、絶対にママと梓を幸せにしてみせる!)

(オレは家で唯一の男だから、ずっと二人を守るんだ……)

場面は学校に移る。


「おい、小島。俺の靴をくわえて持ってこいよ」


「聞こえてねぇのか?パシリの仕事だろ」


「チッ、まだ足りねぇみてぇだな。意地張ってんじゃねぇよ、クズが」


湿ったコンクリートの臭いにカビ臭さが混ざり合い、古びた蛍光灯が点滅し、薄暗く不快な男子トイレの空間を照らす。


数人の不良たちが肩を寄せ合い、低く笑いながら小島秀一を取り囲んでいた。その輪の中心には、青原が立っていた。


不良グループのリーダーは、薄ら笑いを浮かべながら秀一を痛めつけ、取り巻きたちは冷ややかに笑いながら眺めていた。


汚れが染みついた床に伏せる秀一の姿を見て、青原はわざと大きく溜息をつく。


「ほらほら、いつまで寝てんだよ。立てよ、犬が」


その言葉に応えるように、秀一はゆっくりと腕をついて体を起こそうとする。

だが――


「ドカッ!」

鈍い打撃音が響き渡り、鈍い痛みが襲った。それでも秀一は唇を噛みしめ、沈黙を貫いた。


青原はさらにもう一蹴りする素振りを見せ、周囲の不良たちを振り返り言い放った。

「まぁ、頑張りだけは一人前だ。でも、結果は見えてんだよ」


「根性っつーか、馬鹿なだけだろ」


「無駄だって、そろそろ気づけよ」


秀一はその嘲笑を聞き流しながら、うつむいた顔の中で歯を食いしばっていた。肉体的な苦痛――それは恐れるべきものではなかった。


彼を本当に苦しめているのは、無力な自分への苛立ちだった。


ただ、憧れの女性にあの不良たちを近づけさせたくない――それだけのために。秀一は心の中で何度も自分に言い聞かせていた。


それは平穏な生活を送り、大切な人を守ること――ただ、それだけだった。

だが、その小さな願いさえも踏みにじられる現実が、彼の胸を締めつけていた。


「……俺はただ平穏に生きたいだけだ。大切な人を守りたいだけだ。それがそんなに悪いことなのか?」


「なのに、なぜ俺の夢を邪魔する……」


不良グループのリーダーである青原は、秀一のわずかな反抗心を示す視線に怒りを覚え、さらに暴力を加えようとした時、教師が現れて場を収めた。


「教室に戻れ。次に乱闘を起こしたら、厳しい処分を覚悟しろ」


校長に気に入られている教師の小野は「乱闘」という一言で事態を片づけ、不良たちの行動を暗に擁護するような形で去っていった。


泥に汚れた秀一は、腫れた目をゆっくりと開けて窓の外を見た。鈍色の雲が漂う空は、彼の心に根を下ろした重苦しい痛みそのものに思えた。


一枚の小さな紙が彼の机に落ちてきた。


「秀一、もう私のために出しゃばらないで。青原たちには勝てないんだから……」


余白すら清潔感を漂わせる綺麗な字でそう書かれた紙、秀一は手を震わせながら拾い上げて広げた。見覚えのある流れるような筆跡――差出人は、彼が憧れてやまないマドンナである絵里だった。


胸の奥で何かが静かに崩れる音がした。


薄い便箋がふわりと彼の膝の上に滑り落ち、まっすぐだった秀一の視線は床へと沈み、力のない吐息がもれる。


「あぁ……そうか」


短い言葉に、秀一の声はどこか乾いていた。


自分の力では、彼女を守るどころか迷惑をかけただけだったのではないか。


帰り道、灰色の雲から冷たい雨がぽつぽつと降り始めた。頭の中がぼんやりとしていて何も考えられずに、秀一は重い足をただただ前に運び続けた。


その時だった――


交差点の角から、フラフラと不安定な動きを見せるトラックが突っ込んできた。クラクションの音に気づく間もなく、まるでボロ布のように吹き飛ばされ、硬い地面に叩きつけられる。


過去の思い出が一気に押し寄せた。


長年の無理が祟り、病に倒れて亡くなった父。


その父が最期に病床で遺した言葉――


「秀一、これからはお前が家族を背負うんだ。お母さんと妹を頼む…」


家族の重荷を背負い、苦労しながら自分と妹を育て上げてくれた母。


パートを掛け持ちしてヘトヘトになって帰ってきても、自分には変わらぬ優しい笑顔を向けてくれた母――


「秀一、今日もよく頑張ったね。ほら、あなたの好きな玉子焼きよ…」


天真爛漫で、いつも自分のそばにくっついていた可愛い妹――


「お兄ちゃん、新商品のアイスクリーム、すごく美味しいよ!一緒に食べよう…」


(ううっ…このまま死んじゃうのか…まだ何も守れないまま…)


冷たいアスファルトが肌に染み、かすかな血の匂い、意識が遠のいていく中で脳裏をよぎったのは――


もし生まれ変わることができるのなら、


――今度こそ

――誰にも、何があろうとも

――俺と大切な人たちの平穏な暮らしを邪魔させはしない


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