アタシたちは酒場で情報収集する。
この姿を見ると男たちが勝手に声をかけてくるから、ウィルテの狙いは当たりだったと言えるだろう。
「へー。そうなんにゃ。魔物の違法取引ねぇー」
「ああ。今回は、その証拠を掴みてぇんだ。⋯⋯って、なんでさっきからそっちの姐さんは拳握りしめてんだ?」
「セクハラ発言したら殴るためだオラァ!」
「ハァ!?」
「レディー。落ち着くにゃ。確かに変態っぽい顔してるけれど、変態行為はしてないにゃ」
「変態っぽい顔? 失礼じゃね!?」
「そんなことはどうでもいいにゃ」
「よくねぇよ!」
「ま、それはともかく、依頼料はおおよそこんなもんで。それに指名料と、“ダブルパイパイ”にお話して貰えた返礼、拝観料も加えて⋯⋯」
「お話して貰えた返礼!? それに拝観料ってなんだよ!?」
「ざっとしめて、こんなもんにゃ」
ウィルテが紙ナプキンに金額を書いて見せる。
「た、高い! ふざけんな! 0が1個多いだろうが!」
「これでもサービスしてるにゃ。さっさとギルドに依頼にし行くにゃ。そうでないと“狂犬”の猫パンチ⋯もとい、犬パンチが炸裂するにゃ」
「なんて無茶苦茶な!」
「
アタシはテーブルを拳で叩く!
「ヒィイイイッ!」
男は泣きながら酒場を出て行った。
「⋯⋯で、冗談はともかくとして」
アタシは拳を下ろす。
ユーデスがビクッとしたけれども、別に
「冗談には見えなかったにゃ」
「⋯⋯本気なら完全にイカれてるでしょ。
でも、お陰で、男って、こっちが怒鳴ると意外と怒鳴り返してこないんだって知れたわ」
「怒鳴るのは気が小さいからにゃ。本当にヤヴァイ奴、死線を潜った奴は目を見れば判るにゃ」
ウィルテはアタシの目を指差す。
「そもそも相手は魔法を使うかも知んないのに、体の大きさでケンカふっかけるかどうか判断してるのは、サイコロステーキ並みの知性しかないからにゃ」
それは激しく同意。
だって、怒鳴り返して来たヤツの殆どが、アタシが剣を抜く真似するだけで「今日は勘弁してやる」なんて言うしね。
「⋯⋯で、さっきの依頼人を脅してよかったの?」
「逃げちゃうんじゃにゃいかってこと?」
「うん。普通、あんなに脅されたら依頼しないでしょ」
「間違いなくするにゃ」
「なんでそんなこと言えるのさ?」
「だって、アレは町長の使いにゃ」
「そうなの?」
「表沙汰にできないような、危ないヘドロ臭がプンプンしてたにゃ。あーいうのは金払いがいいし、腕が立って、口が固いレンジャーを捜してるにゃ。酒場に来たのはそういう人間を捜してるからにゃ」
「よくそんなことまで分かるね」
「あー。町長の息子はとんでもないドラ息子にゃ。どうせまたその後始末にゃ」
「え?」
「前に二股かけた女の仲裁をしたことあるにゃ。でも依頼が終わった後に値切ろうとしてきたから⋯⋯その仕返しも兼ねてふっかけてやったにゃ」
「報酬値切るなんてできるもんなの?」
「普通はありえにゃいし、バレたらギルドから一発でBANされるにゃ。⋯でもそこは町長にゃ」
「権力者ってイヤだね」
金があればなんでも許されると思っている人種だ。あまり関わりたくない。
「まあ、今日は帰ってオヤブンに相談して、明日にはギルドに依頼が出るはずにゃ。それまではゆっくりするにゃ。
⋯あ! おねーさん! フランクフルト追加にゃ! 卵焼きもつけてねー!」
それにしても、ウィルテはよく食べるなぁ。
「食事ができるのは羨ましいよ」
「ユーデスは剣だから食べられないもんね」
アタシとユーデスも小声での会話も慣れてきたものだ。
ウィルテは時々、奇妙そうに見てくるけれど、単なる独り言だと思ってくれているみたい。
「今日はもう、めぼしい奴はいなさそうにゃ。これ食べたら帰るにゃ」
「そうだね」
「レディー? まさか、レディー・ラマハイムなのか?」
いきなり後ろから名前を呼ばれ、アタシは振り返る。
「え? ウソ⋯⋯」
「信じられない。まさか生きていたとは⋯」
「にゃ!? イケメン!? だ、誰にゃ⋯?」
「フィーリー! 同じ故郷の人だよ!」