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025 男の人が怖い!

「ひどい。ひどすぎる……」


「なんにゃ。まだチーム名のこと言ってるにゃ」


「当たり前よ! なにが……」


「“ダブルパイパイ”?」


「そう! それ! どんなネーミングセンスよ!」


 ユーデスが「私的にはあり」とか言ってるのは何も聞こえない!


「まあ、こういうのはインパクトにゃ。依頼主も冒険者も男が多いにゃ。だからこんなフザケた名前で、薄着の美少女な2人チーム。知名度は抜群。間違いなくすぐに覚えられるにゃ」


 “美少女”と言われるのは悪い気しないけど。


「それにしたって…」


 ユーデス、「自信持って」とか、そんな応援いらないから。


「レディー。男は皆、基本的にバカにゃ。アイツらのチーム名“レイヴンツヴァイ”だの“クアトロアックス”だの……まあ、本気でカッコイイと思ってんにょか知らないけれど、ハッキリ言ってバカ丸出しにゃ」


「いや、“ダブルパイパイ”よりは…」


「男は女を下に見てるにゃ。だからナメるならナメさせておいた方がいいにゃ。ライバルだとか、小さな丈比べなんて、男同士でやってりゃいいにゃ。ウィルテたちは、その横から報奨をかっさらってやるにゃ」


 そういや、男の子ってつまらない事でよくケンカしてるもんね……


 まあ、そういう考えもあるのかも……


 社会に出ても、別に男と競争してやる必要ないって、確か前のお母さんも言ってたな……


 言ってたのって、主にお父さんを罵る時だけど……


 お母さんの仕事の方が確かに稼ぎ良かったし……お父さん、なにも言い返せてなかったな。


 あー。やめやめ! 前の家族のこと考えると気が重くなるし。


「それに腕っぷしもウィルテたちのが上にゃ。チーム名と見た目はプリカワだけど、面と向かって来るヤツにゃぁ……あ゛ーん!?」


 ウィルテが肩を掴んで顔を寄せる!


 メッチャ怖い!


 怒りを押し殺して、睨んでる猫みたい!


「……と、こんな感じでメンチきってやるにゃ! だいたいの玉無しはそれでいなくなるにゃ!」


「……アタシにできるかなぁ」


「レディー。見た目と違って、意外と気弱だにゃー」


「見た目って……アタシって気が強そうに見えるの?」


「黙って立ってると意外と顔つきは怖いにゃよ。釣り目だし」


 ウィルテは自分の目の端をつまんで持ち上げて見せる。


「アタシ、そんな顔してない…」


「そうそう。そのブスッとした顔がいいにゃ。これから入る酒場ではそんな顔をしとくにゃ」




 だいぶ日も暮れてきた。


 正直、町についてからすぐに服屋に行って、ギルドに行ってと歩き通してクタクタだ。


 それでもウィルテは元気そのものだ。アタシとチームの登録料にかかった費用を回収する気マンマンみたい。


「さあ、行くにゃ!」


 扉を開ける。


 アタシはウィルテに続いて一歩……


 踏み出せなかった。


「ムーリ!!!」


「は?」


「ムリムリムリ!」


「な、なんにゃ?」


 アルコールのニオイ!


 お風呂入ってない汗くさい体臭のニオイ!


 そして揚げ物料理のニオイ!


 これらが合わさって、一挙にアタシの鼻を攻撃してきた!


「あー、ニオイは慣れるにゃ。仕事終わりの冒険者とかはそのまま入ってくるから、魔物の血とかつけたままの神経図太いヤツもざらにゃ」


「ニオイだけじゃない!」


 そう!


 酒場には男、男、男…!!


 怖い顔! みんな揃いも揃って怖い顔!


 オジサンばっかり!!


 ゲームに出てくるような爽やかなイケメンなんて1人もいない!!


 しかも、アタシやウィルテがこんな格好してるもんだから、みんながジロジロと見てくるんですけど!!


「なんにゃ? 別に取って喰われたりは……いや、エロ目的はあるかもにゃけど」


「ムリ! 絶対ムリ! 男の人怖いの!!」


「はぁ?」


「男の人! ムリ!!」


 アタシはウィルテの手を振り払って、酒場を抜け出す。



「ちょ、ちょっと、レディー……」


 ウィルテが心配してるけど、アタシは震えちゃってダメだ。


 あんな知らない男の人ばっかりに囲まれたなんて転生する前も、転生した後も初めてで……


 ユーデスはウィルテに聞こえないくらいの声で「大丈夫?」と心配してくれている。


「あんなん見た目だけだから。スネ蹴っ飛ばしてやれば、泣いて逃げ出すにゃし」


「……ゴメン。でも、アタシ、ムリ。男の人が苦手なの」


「ふーむ。今までレディーはどうやって生きてきたにゃ? まさか箱入り娘だから、箱ん中にいたってわけないにゃ?」


「……トラウマなの。本当はグランダルさんと話すのもツライぐらいなの」


「へ? あんなんチビのドワーフ・オヤヂにゃないか」


「それでも怖いの!」


「……はー。まあ、苦手なモノは誰しもあるにゃ。ウィルテもヘビとかカエルは苦手にゃし」


「そうでしょ……?」


「でも、レンジャーとしては致命的にゃ」


 そうよね。荒事が得意な男性……きっとレンジャーって、そういった人とも関わらないわけにはいかないんだ。


 どう考えても、陰気なアタシにはムリだ。


 レディー・ラマハイムになっても、そこは変えられない。生まれる前からもってるものだし。


「……仕方ないにゃ。とりあえず、今日はウィルテの家に帰るとするにゃ」

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