「ひどい。ひどすぎる……」
「なんにゃ。まだチーム名のこと言ってるにゃ」
「当たり前よ! なにが……」
「“ダブルパイパイ”?」
「そう! それ! どんなネーミングセンスよ!」
ユーデスが「私的にはあり」とか言ってるのは何も聞こえない!
「まあ、こういうのはインパクトにゃ。依頼主も冒険者も男が多いにゃ。だからこんなフザケた名前で、薄着の美少女な2人チーム。知名度は抜群。間違いなくすぐに覚えられるにゃ」
“美少女”と言われるのは悪い気しないけど。
「それにしたって…」
ユーデス、「自信持って」とか、そんな応援いらないから。
「レディー。男は皆、基本的にバカにゃ。アイツらのチーム名“レイヴンツヴァイ”だの“クアトロアックス”だの……まあ、本気でカッコイイと思ってんにょか知らないけれど、ハッキリ言ってバカ丸出しにゃ」
「いや、“ダブルパイパイ”よりは…」
「男は女を下に見てるにゃ。だからナメるならナメさせておいた方がいいにゃ。ライバルだとか、小さな丈比べなんて、男同士でやってりゃいいにゃ。ウィルテたちは、その横から報奨をかっさらってやるにゃ」
そういや、男の子ってつまらない事でよくケンカしてるもんね……
まあ、そういう考えもあるのかも……
社会に出ても、別に男と競争してやる必要ないって、確か前のお母さんも言ってたな……
言ってたのって、主にお父さんを罵る時だけど……
お母さんの仕事の方が確かに稼ぎ良かったし……お父さん、なにも言い返せてなかったな。
あー。やめやめ! 前の家族のこと考えると気が重くなるし。
「それに腕っぷしもウィルテたちのが上にゃ。チーム名と見た目はプリカワだけど、面と向かって来るヤツにゃぁ……あ゛ーん!?」
ウィルテが肩を掴んで顔を寄せる!
メッチャ怖い!
怒りを押し殺して、睨んでる猫みたい!
「……と、こんな感じでメンチきってやるにゃ! だいたいの玉無しはそれでいなくなるにゃ!」
「……アタシにできるかなぁ」
「レディー。見た目と違って、意外と気弱だにゃー」
「見た目って……アタシって気が強そうに見えるの?」
「黙って立ってると意外と顔つきは怖いにゃよ。釣り目だし」
ウィルテは自分の目の端をつまんで持ち上げて見せる。
「アタシ、そんな顔してない…」
「そうそう。そのブスッとした顔がいいにゃ。これから入る酒場ではそんな顔をしとくにゃ」
だいぶ日も暮れてきた。
正直、町についてからすぐに服屋に行って、ギルドに行ってと歩き通してクタクタだ。
それでもウィルテは元気そのものだ。アタシとチームの登録料にかかった費用を回収する気マンマンみたい。
「さあ、行くにゃ!」
扉を開ける。
アタシはウィルテに続いて一歩……
踏み出せなかった。
「ムーリ!!!」
「は?」
「ムリムリムリ!」
「な、なんにゃ?」
アルコールのニオイ!
お風呂入ってない汗くさい体臭のニオイ!
そして揚げ物料理のニオイ!
これらが合わさって、一挙にアタシの鼻を攻撃してきた!
「あー、ニオイは慣れるにゃ。仕事終わりの冒険者とかはそのまま入ってくるから、魔物の血とかつけたままの神経図太いヤツもざらにゃ」
「ニオイだけじゃない!」
そう!
酒場には男、男、男…!!
怖い顔! みんな揃いも揃って怖い顔!
オジサンばっかり!!
ゲームに出てくるような爽やかなイケメンなんて1人もいない!!
しかも、アタシやウィルテがこんな格好してるもんだから、みんながジロジロと見てくるんですけど!!
「なんにゃ? 別に取って喰われたりは……いや、エロ目的はあるかもにゃけど」
「ムリ! 絶対ムリ! 男の人怖いの!!」
「はぁ?」
「男の人! ムリ!!」
アタシはウィルテの手を振り払って、酒場を抜け出す。
「ちょ、ちょっと、レディー……」
ウィルテが心配してるけど、アタシは震えちゃってダメだ。
あんな知らない男の人ばっかりに囲まれたなんて転生する前も、転生した後も初めてで……
ユーデスはウィルテに聞こえないくらいの声で「大丈夫?」と心配してくれている。
「あんなん見た目だけだから。スネ蹴っ飛ばしてやれば、泣いて逃げ出すにゃし」
「……ゴメン。でも、アタシ、ムリ。男の人が苦手なの」
「ふーむ。今までレディーはどうやって生きてきたにゃ? まさか箱入り娘だから、箱ん中にいたってわけないにゃ?」
「……トラウマなの。本当はグランダルさんと話すのもツライぐらいなの」
「へ? あんなんチビのドワーフ・オヤヂにゃないか」
「それでも怖いの!」
「……はー。まあ、苦手なモノは誰しもあるにゃ。ウィルテもヘビとかカエルは苦手にゃし」
「そうでしょ……?」
「でも、レンジャーとしては致命的にゃ」
そうよね。荒事が得意な男性……きっとレンジャーって、そういった人とも関わらないわけにはいかないんだ。
どう考えても、陰気なアタシにはムリだ。
レディー・ラマハイムになっても、そこは変えられない。生まれる前からもってるものだし。
「……仕方ないにゃ。とりあえず、今日はウィルテの家に帰るとするにゃ」