港町イークル。
人口1万人弱と、決して大きくはないが、このニスモ島、唯一の窓口としてそこそこの賑わいがある町だった。
アタシが落ちたところからそう遠く離れた場所じゃないけど、グランダルさんたちの案内がなきゃまず辿り着けなかったと思う。
「俺は仕事場に一旦報告に戻るが、レディーはどうする? もし泊まるところがねぇなら……クソ狭いが、うちの仮眠所を貸してやってもいーぞ」
「ダメにゃ。レディーはウィルテと冒険者ギルドに行くにゃ」
グランダルさんとウィルテの視線の間でバチバチと火花が散る。
「親方ぁー。部屋を貸して、レディーほどの剣士に、タダで護衛させようだなんてムシがよすぎるにゃ」
「オメェこそ、ギルド連れてって何する気だ。どうせ良からぬこと企んでやがんだろ」
「……ついてくなら女の子の方がいいな」
ユーデスがそんなことをポツリと漏らしたので、ふたりは不思議そうにこちらを見るがアタシは笑ってごまかす。
「あ、アタシも船代…路銀を稼がなきゃだから」
「なら直接契約ってのはどうだ? うちの船大工として雇ってやる。もしくは船員として紹介してやってもいいぜ」
「あ。ダメだよー。親方。それ法律に引っかかるにゃ」
「は? ギルド登録してなきゃ関係ねぇだろうが」
「だって、大工としても船員としても使う気はにゃいでしょ? 偽装請負斡旋法違反にゃ」
「おいおい。んな、大げさな…」
「おまけにギルドへの営業妨害で訴えられる可能性も大にゃよ」
「そんなん言わなきゃ…」
「ウィルテが労働局にチクるにゃ」
「オメェ、雇われた恩義ちゅーんを……」
「賃金分の働きはしたもーん」
「チッ。わーったよ」
ウィルテが舌を出すのに、グランダルさんは鼻を鳴らして顔を背ける。
「……でも、グランダルさん。本当にありがとうございました」
「いやなに、礼を言うのはこっちの方だぜ。……わりぃな。本当なら、いくらか渡してやりてぇところなんだが、雇用の法律が云々うるせぇこと言うヤツがいてよぉ」
グランダルさんはウィルテを親指で示す。
「ウィルテに割増で払ってくれれば、それをレディーに渡すにゃ」
「その手に乗ってたまるか」
ふたりのやり取りから、きっと冗談だと分かっていてやってるんだというのは、アタシも理解し始めていた。かなり、長い付き合いなんだろう。
こうして、アタシたちは町中で別れる。
「さてと、レディー。ギルドへ行きたいところだけど……疲れたにゃよね?」
「え? ええ」
「なら、ウィルテの家へまずはゴーだにゃ。…それと」
ウィルテはアタシを上から下まで見やる。
「レディー。その姿、すっごーいダサいにゃ」
「え? ウソ?」
なんだかユーデスが反応しようとしたけれど、アタシは柄をグッと握って黙らせる。
「どこぞの芋っぽい田舎娘でもそんな格好しにゃいにゃ。イケてる女は、ウィルテみたいな感じにゃ」
ウィルテは胸を寄せてウインクする。
……あんまり言いたくないけど、ウィルテのスタイルはそこそこ……いや、かなり良い。
ユーデスがなんかガタガタしてるけど、うるさい。
「ウィルテもなんだか魔法使いって感じじゃないわよ……」
「あー、あのヒラヒラね。師匠がうるさいにゃ。魔法使いは魔法使いの格好しろって。別にトンガリ帽子じゃにゃくても魔法は使えるってのに」
魔法の詠唱といい、何だかウィルテは色々と型破りの魔法使いらしい……
「さ、それならまずは服買いにショッピングにゃ!」
「え? 家に行くんじゃ…? それにアタシ、お金が……」
「ウィルテが貸してやるにゃ。もちろん3割増しの出世払いで返してくれればいーにゃ♪」