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022 ニスモ島の港町イークル

 港町イークル。


 人口1万人弱と、決して大きくはないが、このニスモ島、唯一の窓口としてそこそこの賑わいがある町だった。


 アタシが落ちたところからそう遠く離れた場所じゃないけど、グランダルさんたちの案内がなきゃまず辿り着けなかったと思う。


「俺は仕事場に一旦報告に戻るが、レディーはどうする? もし泊まるところがねぇなら……クソ狭いが、うちの仮眠所を貸してやってもいーぞ」


「ダメにゃ。レディーはウィルテと冒険者ギルドに行くにゃ」


 グランダルさんとウィルテの視線の間でバチバチと火花が散る。


「親方ぁー。部屋を貸して、レディーほどの剣士に、タダで護衛させようだなんてムシがよすぎるにゃ」


「オメェこそ、ギルド連れてって何する気だ。どうせ良からぬこと企んでやがんだろ」


「……ついてくなら女の子の方がいいな」


 ユーデスがそんなことをポツリと漏らしたので、ふたりは不思議そうにこちらを見るがアタシは笑ってごまかす。


「あ、アタシも船代…路銀を稼がなきゃだから」


「なら直接契約ってのはどうだ? うちの船大工として雇ってやる。もしくは船員として紹介してやってもいいぜ」


「あ。ダメだよー。親方。それ法律に引っかかるにゃ」


「は? ギルド登録してなきゃ関係ねぇだろうが」


「だって、大工としても船員としても使う気はにゃいでしょ? 偽装請負斡旋法違反にゃ」


「おいおい。んな、大げさな…」


「おまけにギルドへの営業妨害で訴えられる可能性も大にゃよ」


「そんなん言わなきゃ…」


「ウィルテが労働局にチクるにゃ」


「オメェ、雇われた恩義ちゅーんを……」


「賃金分の働きはしたもーん」


「チッ。わーったよ」


 ウィルテが舌を出すのに、グランダルさんは鼻を鳴らして顔を背ける。


「……でも、グランダルさん。本当にありがとうございました」


「いやなに、礼を言うのはこっちの方だぜ。……わりぃな。本当なら、いくらか渡してやりてぇところなんだが、雇用の法律が云々うるせぇこと言うヤツがいてよぉ」


 グランダルさんはウィルテを親指で示す。


「ウィルテに割増で払ってくれれば、それをレディーに渡すにゃ」


「その手に乗ってたまるか」


 ふたりのやり取りから、きっと冗談だと分かっていてやってるんだというのは、アタシも理解し始めていた。かなり、長い付き合いなんだろう。


 こうして、アタシたちは町中で別れる。


「さてと、レディー。ギルドへ行きたいところだけど……疲れたにゃよね?」


「え? ええ」


「なら、ウィルテの家へまずはゴーだにゃ。…それと」


 ウィルテはアタシを上から下まで見やる。


「レディー。その姿、すっごーいダサいにゃ」


「え? ウソ?」


 なんだかユーデスが反応しようとしたけれど、アタシは柄をグッと握って黙らせる。


「どこぞの芋っぽい田舎娘でもそんな格好しにゃいにゃ。イケてる女は、ウィルテみたいな感じにゃ」


 ウィルテは胸を寄せてウインクする。


 ……あんまり言いたくないけど、ウィルテのスタイルはそこそこ……いや、かなり良い。


 ユーデスがなんかガタガタしてるけど、うるさい。


「ウィルテもなんだか魔法使いって感じじゃないわよ……」


「あー、あのヒラヒラね。師匠がうるさいにゃ。魔法使いは魔法使いの格好しろって。別にトンガリ帽子じゃにゃくても魔法は使えるってのに」


 魔法の詠唱といい、何だかウィルテは色々と型破りの魔法使いらしい……


「さ、それならまずは服買いにショッピングにゃ!」


「え? 家に行くんじゃ…? それにアタシ、お金が……」


「ウィルテが貸してやるにゃ。もちろん3割増しの出世払いで返してくれればいーにゃ♪」

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