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021 魔力の刃

「グアアオオオッ!」


「いや! そんなに強くないにゃ! 倒そうと思えば倒せるにゃ!」


「いや、じゃあなんで逃げ回ってるのよ!」


 アタシたちは揃って、反対方向へ向かって走っていた!


「倒すには中級魔法が必要で、でもこんなに近づかれちゃ、詠唱が間に合わにゃぁぁ!?」


 上級土鬼ボブゴブリンのパンチをウィルテはスレスレで避ける。


「レディーこそ、前に出て押さえて欲しいにゃ!」


「そんなこと言ったって!」


 アタシは何度か剣を当てている。


 図体が大きいし、ノロマだから当たりはする……けど、簡単に弾かれてしまうのだ。


「あー! やっぱりナマクラだったにゃあー!」


 否定はできない。魔剣と言われても、見た目は単なる木刀みたいだし。


 アタシに握力が足りないせいだけじゃない。普通に斬れないんだ。


「お、おいおい! なんだそりゃ!」


 タイミング悪く、騒ぎを聞きつけたグランダルさんが戻ってきて、暴れているボブゴブリンを見て目を丸くする。


「親方! 引っ込んでるにゃ!」


「わ、わーってるよ! だけど、なんだってこんな魔物が…」


「知らんにゃ! 誰か悪いヤツが連れて…にゃっとと! ウィルテは走るの苦手にゃ!」


 ウィルテは邪魔だとばかりに、腰回りの布を払い捨てる。


 パンツだけになっちゃうのかと思いきや、パレオの下は短パン履いてたんだ。


 顔の周りにあった、いかにも占い師という感じのフェイスベールも放り投げていた。


 顔は……やっぱり、予想していた通りカワイイ系の美少女だった。隠す必要なんてないんじゃないかと、かつての非モテのデヴ思考がよぎる。


 そんな姿になると、なんだか魔法使いってよりもシーフとかに近い感じだ。


「あー! やっぱ、こっちのが動きやすいにゃ! なんとか時間を稼ぐにゃ! 魔法で一撃するにゃ!」


「わ、わかった!」


 グランダルさんは戦えない。いま接近戦ができるのはアタシだけだ。


 でも、どうしよう。


 ただ気を引きつけるだけなら…


 ボブゴブリンは大きいけれど、プロレスラーってほどじゃない。


 例え、1発もらっても……そりゃとてつもなく痛いだろうけれど、さすがに死ぬようなことにはならないハズだ……


 このボブゴブリンが棍棒なんか持ってなくて本当に良かった。


「やれるだけやって……」


「……んー。やあ、おはよう」


「えっ!?」


 握りしめなおした剣…ユーデスが口を開いた。紋様も光を取り戻している。


「ユーデス! どうしてたの!?」


「ん? ああ、眠ってたんだよ。昨夜はかなり…おっと、危ないようだよ」


「え? キャッ!?」


 ボブゴブリンのチョップが、アタシの鼻先をかすめて横にあった大木にズドンと当たる!


「私が寝ている間に面白い事になっているようだね」


「面白いなんて何も! 大変だったんだから!」


 幸いなことに、ボブゴブリンは大木にめり込んだ自分の手が抜けなくて悪戦苦闘している。


「私がいなくて寂しかったってことかな? よし。では寝起きの運動といこうか…」


「運動って…」


「大きく下がって」


 戦闘中じゃゆっくり話している間もない!


 アタシはユーデスに言われるまま、ボブゴブリンから距離を取る。


 あ。幹から手が抜けちゃった。なんかこっちを睨んでるけど、それアタシのせいじゃないし。


「まあ初体験だ。少し軽めに行こう」


「は? 軽めって…」


「あの雑魚ボブゴブリンに向けて、私を素振りしてごらん。ああ、力はまったく入れなくていいから」


「そんなことをして何を…」


「話してる余裕はないよ。あちらさん、猛り狂っていらっしゃるしね」


 ユーデスの言うとおり、胸を叩いて怒りまくってる。正直、何がそこまで腹立たしいのか分からない。


 そして、アタシを殴り飛ばそうと地響きを鳴らして向かって来た。


 もうこのままではどうにもならない……アタシはユーデスを信じて言われたままに振ってみる。


 軽い。いつもより……


 そして、今まで聞いたことのない鋭い風斬り音……


 いや、聞いたことはあった。


 お父さんが以前見せてくれた剣技……


 光とモーター音……


 だけどこれはモーター音なんてレベルじゃない……


 まるで大型バイクのエンジンのようで!


 斬撃が飛ぶ!!


 そして、遠くにいたはずのボブゴブリンは、アタシが剣を振り降ろしたのと同じ形に、縦に真っ二つに裂けた。


「……フフ。私の刃はね、“魔力”そのものなんだよ」


 光に纏われたまま、ユーデスはなんてことはないとばかりにそう呟いたのだった──

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