グランダルさんは木の幹にペンキで印を付ける。
「ふむ、コイツもいいな。……おい。もう少し待ってくれ」
「親方。はやくねー」
「おーう」
森の奥へとどんどん入って行っちゃう。
「大丈夫だよ。あっちにはいないにゃ」
ネコ耳をピクピクとさせて、ウィルテがそう言う。
「むしろこっちにゃー」
「え?」
ガサガサと草をかき分けて何かが顔を出す。
アタシたちの腰ぐらいの背丈、緑色の皮膚、アバタだらけの潰れた顔…昔、見たことがある。
「はー。やっぱりオマエか。張り合いにゃいにゃ。“炎よぉ〜。わけわからんやつ払えー”、【フレイム・ボール】!にゃ!」
ウィルテの持った短いワンドから炎の球が飛んで、一瞬でゴブリンは燃やし尽くされた。
「スゴイ。詠唱適当だったけれど…」
「フン。詠唱なんて飾りにゃ。トーシローが使う補助輪にゃ」
「ウィルテは強いんだね」
アタシが褒めると、ウィルテはニンマリと笑う。
「タダ飯喰らいのイヤなヤツかと思ってたら、意外と見る目があるイイヤツだったにゃ」
なんか結構、単純な性格っぽい……
「もう1匹いるにゃ。あれはレディーに譲るにゃ」
「いや、別に譲ってもらわなくても…」
まあ、でもゴブリンならアタシでもなんとか……
見た目が人間っぽいので倒す時に気後れするけれども、お父さんとの訓練でゴブリンを何体か倒したことがあった。
向こうは知性も何もなく攻撃してくるんだから、変な情なんかかけてたら首筋を噛まれてお終いだ……追い詰められた状況なら一皮剥けるだろう、そうお父さんが思って戦わせたってことは分かるんだけど。
アタシが得られたのは、何か生き物を殺すってのは気分が沈むんだという後味の悪さだけだった。
強くなれなかったのを見て、どんなにお父さんが落胆したことか……でも、アタシのがもっと辛かったんだから。
でも、殺したくないなんて甘いことは言ってられない。殺さなきゃ自分が殺されるんだから。
この世界はそういう世界。
そうだ。デモスソードなんかに比べれば、本当に楽な相手のハズだ。
「……お願い、ユーデス。起きてよ」
相変わらずユーデスは何の反応も示さない。
「……ねぇ、ウィルテ。恥ずかしいお願いしてもいい?」
「え? いや、ウィルテはそんな趣味は…」
何を勘違いしたのか、アタシから視線をそらして胸元を隠す。
「違うわ。もし危なくなりそうだったら助けて欲しいの」
「にゃ? なんかの冗談? ゴブリンなんて子供でも倒せるにゃ」
ウィルテにはそうでしょうよ。
でも、アタシは初めてと言ってもいい実戦。後ろで見守ってくれていたお父さんもいない状態で戦うの。いざという時の保険が欲しかったの。
「…もしかしてその剣がナマクラとか? …あ、来た……にゃ? あれ?」
大きな影がアタシの上にかぶさる。
え? ゴブリンってこんなに大き…
「やっべー!