雨露に濡れた、樹木の青臭い香りが充満する中、アタシたちは足元に気をつけながら先を進む。
「木材って一口に言ったって、なんだっていいわけじゃあねぇ。船に使えるヤツは限られている。水を弾いて浮いて、かといって中身がスカスカじゃなく、長年海ん中で耐えられる丈夫さが必要だ。虫食いなんてあったらもっての他さ」
グランダルさんは船大工の一員らしい。
クントの森に来たのは、船材にする材木を選定するためだそうだ。
「今日、伐るんですか?」
「まさか。道具もねぇし、そもそも3人じゃ無理だ。伐るのは後日、仲間たちと来てからだよ。今日は木を選ぶのと、ルート確保だけさ」
地図から顔を上げて、ガハハと笑う。
見た目はイカついけど、意外と優しい人だ。聞けば普通に教えてくれる。
「ホントは
「エルフは金じゃ動かないにゃー」
「そうだ。そんな変わり者が居ても、希少なせいか割高だしな。ギルドに登録してるヤツでも、伐採が目的だと引き受けてくんねぇ可能性が高い」
「ウィルテは格安のお買い得にゃー」
「あーあ、助かってるよ」
グランダルさんはアタシを見やる。
「それに俺は運がいいことに、護衛が2人になってくれたしな」
そう。アタシは非常食を勝手に食べてしまったお詫びと、仕事が終わったら町まで案内してくれることを条件に、グランダルさんの護衛を引き受けたのだった。
「ウィルテは魔法使いだ。レディーは剣士なんだろ?」
「…まぁ」
グランダルさんはアタシの腰のユーデスを見て言う。
正直、剣には自信ないし、騙しているような気がして申し訳ない。
それに肝心のユーデスも喋らないままだし。
かといって、こんな森の中で置いて行かれても困る。
ホント、魔物が出てこないことを祈るだけだ。
「……剣にしてはみすぼらしいにゃ」
確かにユーデスは光ってないと板片に見えてもおかしくない。
刃もないから鞘もないし。これでどうやって斬るのかも不明だ。
「剣士の中には魔力で切断とかできるヤツもいるんだろ? オメェはできないのか?」
「にゃー。魔法使いと魔法剣士の魔力の使い方はまったく別物にゃー。これだからトーシローはイヤになるにゃ!」
「悪かったな。戦闘は専門外だ。だから、オメェを雇ったんだしよ。
…まあ、レディー。ここら辺はそんな強い魔物は出ねぇ。そんな緊張しないで大丈夫さ」
「え、ええ」
本当にそうだといい。スライムとかくらいならアタシでも何とか倒せる。
「そうにゃ! タダ飯喰らいは許せんにゃ! しっかり働くにゃ!」
「なんでオメェが仕切ってんだよ。さあ、日が暮れちまう。行くぞ」