夢の中、とてもハツラツとした私がいた。
前世の私を乗り越えた、明るくて元気なレディー・ラマハイム。
転生してまで、私がなりたかった私……
そうだ。私はもう“前の私”じゃないんだから、“私”として振る舞う必要なんてないじゃない。
目覚めて、私は山小屋の中にあったくすんだ鏡を見やる。
「私…いや、“アタシ”はレディー・ラマハイム!」
鏡の中の“アタシ”はそう口を動かした。
どこをどう見てもデヴなんかじゃない。
褐色肌の15歳の女の子だ。
顔は整っている。お母さん似だし。美少女と言っても大丈夫。
「よし! 聞いて、ユーデス!」
アタシは振り返ってユーデスを見やる。
ユーデスは戸棚の脇に立てかけてあった。
「アタシはこれから……って?」
ユーデスは何の反応もしない。
「ちょっと、ユーデス!?」
剣を握って、振るけれど、返事をしない。
そういや、いつもみたいに光ってない。
昨日まで紋様が光って普通に喋っていたのに……
「そんな……。ユーデス…。あなたがいなかったら私は………」
急に心細くなって不安が押し寄せてくる……
ダメだ。また、あのデヴだった頃に……戻って……
バタン!
「ヒッ!」
「あ! やっぱり誰かいるにゃ!」
急に扉が開いて、女の子が指差してくる。
「親方! 泥棒にゃ!」
「泥棒だって? こんなボロ小屋に?」
お、男の人の声……
「ああ? …なんでぃ。コソドロにゃとても見えねぇな。オメェと同じくらいのガキじゃねぇかい」
「ガキとか言うな!」
陽光の影になっていて顔まではよく見えないけど、男の人と女の子が言い合ってる。
「お、お邪魔して…ます…」
「おう」
声が低い…やっぱ男の人だ。怖い。
たぶん、彼は
「あー! ウチの食事! 食べてるにゃ!」
隣の女の子が怒る。
ネコ耳…ネコ尻尾……
薄茶色のトンガリ帽子に、真っ白なフェイスベール、丈の短い黄色いポンチョと下にパレオ……そんな占い師みたいな格好している。
「泥棒! 泥棒! 捕まえてやるにゃ!」
「ごめんなさい! 勝手に食べてしまって…実は道に迷って困っていたところでここを見つけて…」
「あー、構わん。この“クントの森”はプロでも道に迷う。そのためにこういった避難所をいくつか設けてんだ」
「親方!」
「ウィルテ。どう見ても悪気があってやったんじゃねぇだろ。それにこれは組合が用意した非常食だ。別に俺らの食い物ってわけじゃねぇし、逆に非常時でもねぇのに食う気マンマンってオメェの態度のがどっちかっていうと問題だ」
「にゃー!」
「にゃーじゃねぇ! 勝手に非常食まで食うならその分、賃金から差し引くぞ!」
「……それは困るにゃー」
ネコ耳がパタンと倒れた…あれ、帽子にくっついる偽物じゃないんだ。穴あけて帽子から出してるんだ。
「名乗ってなかったな。俺はグランダルってモンだ。こっちはウィルテだ」
「私……いえ、アタシは…レディー・ラマハイム、です」