「ねえ? 本当にやるの?」
「もちろん! 本当だとも!」
「……すっごい恥ずかしいんだけれど」
「最初はそんなもんさ!」
「……なんで胸と脚に、あなたを挟んで寝なきゃいけないの」
つまり抱き枕だ。でも、抱き枕にしては硬い。
人里を見つけられなかったので、今日は野宿と覚悟していたのだが、彷徨う途中で作業小屋のような物を見つけることができた。
人は誰もいなかったし、許可も貰えず、勝手に入ることになったけれども……後で持ち主に会ったら事情を話して謝る他ない。
そして、この中にあった非常食も勝手に食べてしまったし……お腹空いてたんだから仕方ないとはいえ、窃盗には変わりない。罪悪感を覚える。
お金払えって言われたら困るな。いま全然持ってないし。働いて返すしかないよね。
「さあ、もっと強く抱きしめてくれ!」
ユーデスは何も考えないでいいわよ。剣だもの。
「ああ! いい! 両の柔らかな太腿に挟まれる! たまらん! この瞬間だけは剣で良かった!」
「……でもなんでこんなことを」
「寝ている間に魔路を拡げるためだよ。私が魔力を流して君の魔路を貫通させる。略して“
「……なんかトンネル工事みたいな言い方やめてよ」
「まあ、あながち間違ってもいない! ちなみに私には振動機能も備わっている!」
「振動機能?」
「本当は敵を切断する魔力バイブレーション機能なんだが、別にそれ以外に使っても問題はない!」
「……振動したら投げるよ」
「……マジ?」
「マジ」
「……」
「…ねぇ。別に私が落ち込んでるのを元気づけようとしなくてもいいから。無理に明るい話題を話し続けてるでしょ?」
「別にそういうつもりではないけど」
ユーデスはずっと喋ってる。
私が黙っていても、独りで馬鹿みたいに。
この小屋を見つけた時も、入るのをためらっている私にセクハラまがいのこと言ってたし。
でも、きっと黙ってたとしたら……
私はお父さんやお母さんのことばかり考えてしまう。
強かったお父さん、優しかったお母さん……
この世界の、私を大事にしてくれた家族。
だからきっと……
私は無理に口角を上げる。
「あ。レディーが笑ったところ初めて見たよ」
作り笑いだってみえみえなのに、ユーデスは愉快そうにそう言った。
「うん。…ごめんなさい。気持ちを切りかえようとしてたんだけれど。時間がかかっちゃうよ……」
「肉親を失ったんだ。そう簡単なことじゃないよね。でも、君は先に……」
「進まなきゃ、でしょ。分かってる。ありがとう。あなたがいなければ…私、おかしくなっていたかも知れない」
「レディー」
「……それに、あなたは私の姿をとても良く褒めてくれるけれど、元の私を見たら驚くわよ。別な意味でね。それを思って、さっき笑ったの」
「元の姿? ああ、転生前のってこと?」
「ええ。すごい大デヴだったんだから…」
「ふーん。それでも私はきっと『可愛い』と言うよ」
「……まさか」
そんなわけない。
あんな根暗なデヴ……
「女の子は、どの子も可愛いもんさ。ただ自分の魅力に気づいてない。それを活かせてないから、変に見えてしまうことがあるだけ。私はそう思うんだよ」
「……へー。あなた、意外と紳士なのね。前世でそんな…男子に…会って…れば……」
「レディー? ……そうか。当然、疲れていたよね。おやすみ。良い夢を」
その日、私はマッサージシートにくくりつけられ、延々と揺らされ続ける変な夢を見た──