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017 振動機能

「ねえ? 本当にやるの?」


「もちろん! 本当だとも!」


「……すっごい恥ずかしいんだけれど」


「最初はそんなもんさ!」


「……なんで胸と脚に、あなたを挟んで寝なきゃいけないの」


 つまり抱き枕だ。でも、抱き枕にしては硬い。


 人里を見つけられなかったので、今日は野宿と覚悟していたのだが、彷徨う途中で作業小屋のような物を見つけることができた。


 人は誰もいなかったし、許可も貰えず、勝手に入ることになったけれども……後で持ち主に会ったら事情を話して謝る他ない。


 そして、この中にあった非常食も勝手に食べてしまったし……お腹空いてたんだから仕方ないとはいえ、窃盗には変わりない。罪悪感を覚える。


 お金払えって言われたら困るな。いま全然持ってないし。働いて返すしかないよね。


「さあ、もっと強く抱きしめてくれ!」


 ユーデスは何も考えないでいいわよ。剣だもの。


「ああ! いい! 両の柔らかな太腿に挟まれる! たまらん! この瞬間だけは剣で良かった!」


「……でもなんでこんなことを」


「寝ている間に魔路を拡げるためだよ。私が魔力を流して君の魔路を貫通させる。略して“魔路拡まろかく”だ!」


「……なんかトンネル工事みたいな言い方やめてよ」


「まあ、あながち間違ってもいない! ちなみに私には振動機能も備わっている!」


「振動機能?」


「本当は敵を切断する魔力バイブレーション機能なんだが、別にそれ以外に使っても問題はない!」


「……振動したら投げるよ」


「……マジ?」


「マジ」


「……」


「…ねぇ。別に私が落ち込んでるのを元気づけようとしなくてもいいから。無理に明るい話題を話し続けてるでしょ?」


「別にそういうつもりではないけど」


 ユーデスはずっと喋ってる。


 私が黙っていても、独りで馬鹿みたいに。


 この小屋を見つけた時も、入るのをためらっている私にセクハラまがいのこと言ってたし。


 でも、きっと黙ってたとしたら……


 私はお父さんやお母さんのことばかり考えてしまう。


 強かったお父さん、優しかったお母さん……


 この世界の、私を大事にしてくれた家族。 


 だからきっと……


 私は無理に口角を上げる。


「あ。レディーが笑ったところ初めて見たよ」


 作り笑いだってみえみえなのに、ユーデスは愉快そうにそう言った。


「うん。…ごめんなさい。気持ちを切りかえようとしてたんだけれど。時間がかかっちゃうよ……」


「肉親を失ったんだ。そう簡単なことじゃないよね。でも、君は先に……」


「進まなきゃ、でしょ。分かってる。ありがとう。あなたがいなければ…私、おかしくなっていたかも知れない」


「レディー」


「……それに、あなたは私の姿をとても良く褒めてくれるけれど、元の私を見たら驚くわよ。別な意味でね。それを思って、さっき笑ったの」


「元の姿? ああ、転生前のってこと?」


「ええ。すごい大デヴだったんだから…」


「ふーん。それでも私はきっと『可愛い』と言うよ」


「……まさか」


 そんなわけない。


 あんな根暗なデヴ……


「女の子は、どの子も可愛いもんさ。ただ自分の魅力に気づいてない。それを活かせてないから、変に見えてしまうことがあるだけ。私はそう思うんだよ」


「……へー。あなた、意外と紳士なのね。前世でそんな…男子に…会って…れば……」


「レディー? ……そうか。当然、疲れていたよね。おやすみ。良い夢を」



 その日、私はマッサージシートにくくりつけられ、延々と揺らされ続ける変な夢を見た──

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