「…やっぱりおかしいな」
ユーデスはどこに目があるんだろう?
どうやって物を見ているんだろう?
話す時に紋様は光ってるけれども……
「……聞いてるかい、レディー?」
「あ。ゴメン。ボーっとしてた」
「神経伝達が鈍いんだ」
「神経?」
「うん。それと
“マロ”……? 私の脳裏に平安貴族が思い浮かぶ。
「えーと、つまりどういうこと?」
「14歳ともなれば…」
「今月で15歳だよ」
「15歳ともなれば、ちょうど成長期の真っ只中だよ。普通あり得ないことだ」
「そうなの?」
「ああ。胸は確かに物足りなくはあるが、半球型で今後の成長が見込める。お尻は小振りだが、上向きで締まりがあっていい。若干、痩せ気味で小柄だが、バランスがよい肉付きをしていて、特に私が取り上げたいのは太腿だ。まるで石工人が全身全霊をかけ、大理石から少しずつ削りだしたかのような、滑らかな完璧の曲線美を…」
「ユーデス」
「だからこそ、おかしい。何がと言えば服装が地味だ! 露出が少なすぎる! なんだ、その上からスポッとかぶるだけのラクダ色のチュニックは! なんとも非個性的すぎる! その君の美しさを損なう、膝頭まで届く、ヨレヨレのサルエルパンツもいただけない! そんなん冥界のオボコな村娘がはいてもローティーンまでだ! ハイティーンに入る女の子はもっとだね…」
「ユーデス!」
「ん?」
「……私の神経が鈍い話」
「ああ。そうだったね」
油断しているとセクハラまがいな発言ばかり……
剣に美しいだなんて褒められても正直、反応に困る。
あんまり言われなれないけど、乙女ゲーのボイス付きの甘々セリフには耐性できてるし……
うん。ユーデスに言われても、その延長線上みたいな感じがする。
……いや、だいぶ違うか。
会社とかで、オジサンの意味わからない挨拶代わりのセクハラを言われるのに近いかな。
「普通、私を握るとね、魔路から自然と魔力が流れるんだよ。無意識にね。でも、君にはそれがまったくない」
「あの、そもそも“マロ”っていうのがよくわからないんだけど……貴族かなにか?」
「転生者は時々そういう不思議なことを言うね。…魔路っていうのは、魔力を流すために全身に走っている管みたいなもんさ」
「血管やリンパ管みたいなもの?」
「そういう理解で間違いない。それで、私はさっきから君とのリンクを試みているんだけれども……まあ、驚くほど魔力が流れない。例えるなら、石で堰き止められた川だ。岩の間からチョロチョロって感じ」
「……私、才能ないから」
「才能? いや、魔力の過多は個人差があるが、魔路が機能しないなんてことはない。血液がまったく流れてない人間がいないようにね。
それと、私を振り下ろしてみて」
私は言われたまま、剣を振り下ろす。
「……うーん。これも変だ」
「何が?」
「普通、剣を振り下ろす時には力が入るもんだ。君の場合は逆になっている」
「逆?」
「そう。振り下ろした瞬間に力が抜けちゃってる。だから剣筋がブレるし、打突の反動で手の内が保持できずに剣がすっぽ抜ける」
「……才能ないから」
「だから違うって。……なんか昔に怪我とかしたかい? 頭や首を傷つけたりするようなことは?」
「うーん? 記憶にはないな…。お父さんと稽古で怪我をしたことは何回もあるけど。それで神経っておかしくなるもん?」
「私とて医者とかではないからね。断言はできないんだが、神経系に何らか障害がでている可能性はあると思う」
「私……戦えないってこと?」
薄々気づいてはいたけれど…
私、お父さんとお母さんの仇をすら討てない…
転生してもやっぱり…
「諦める?」
「……」
そうした方がいいのかもしれない……
前世だって何ひとつ上手くいかなかった……
学校も家庭も恋愛も仕事も……
私自身のことも……
私なんてデヴじゃなくなっても根暗で…
誰にも期待されていないダメなヤツで……
「レディー。君を救えるのは、君しかいないんだよ」
「え?」
「私は君のために全力を尽くすつもりだ。だけれどもそのためには、君が選んでくれなければならない」
「……ユーデス」
「私は君の味方だとも。信じてくれていいよ」
「……うん。ありがとう。……私、変わりたい」
そうだ。このままじゃいけない。
「転生してもデヴじゃなくなっただけ。だから今度こそ変わる。変わらなきゃ!」
「フフ。まあ、魔路に関しては私に考えがあるんだ。任せてくれ」