あ……
生きて……る?
私…なにがどうして……?
「……そも……だ」
?
なにか聴こえる……
「……立場の割に狭量……と思わな……い、神々…もさ」
え? え?
人の声? 誰……?
「ああ、だいたいだよ。自分たちが追放した“天使”…いや、そりゃさ、表向きは逃げ出したってことになってるけどさ」
だんだん意識がハッキリしてきたけど……
声の主は、いったい誰に向かって話しているの?
「でもさ、逃さないようにしようと思ったら簡単にできるだろ? だから、わざと追放したと僕は見ているんだけどね」
“僕”?
他の誰かと話している…の?
「それで行くあてがなさそうだったから、声をかけて冥界で保護しただけなのに。それでやっかまれてね。こんな身動きも取れない姿にさせられたわけさ」
ん。目が開きそう……
なんか森の中だ。
緑たくさん。
葉っぱが陽光に照らされてキレイ……
「僕の気持ちも分かるだろう、レディー?」
? あれ?
レディー……は、私だ。
もしかして、ずっと私に話しかけていたの?
「そりゃ多少カワイイから…まあ、少しはね。下心がなかったとまでは言わないよ。でも! 助けてあげたんだからさぁ、別に悪いことでもないだろう? レディー。君もそう思うよね?」
なんだろ。マンガによく出てくるチャラいダメ男みたいなこと言ってるんだけど……
「本当なら君のことだって抱きかかえて解放してあげたいさ。レディー」
え?
「川辺の側でハダカにして隅々まで洗ってあげたい。まだ成長期初段階のツボミだけれども、僕は嫌いじゃないとも」
……。
「あ! 別に久しぶりの女の子だからって何でもいいってわけじゃないよ! もちろん君だからさ! 君の褐色の肌はとっても美しいよ、レディー。初めて会った時からビビッと来てたんだよ」
…………。
「ああ、けどさ、この姿じゃ何もできやしない。君にこんなにも強く握りしめられているというのに。ああ、レディー。もどかしいったらないって……」
「……全部聞こえてるよ。ユーデス」
「……」
私は身を起こす。
痛みは……怪我をしているところはない。少し服が汚れている程度だ。
「……やあ、気がついたかい。良かったよ、レディー」
なんか咳払いしてる。
「……ずっと喋っていたの? 独りで?」
「……今までお喋りできる相手もいなかったからね」
「……ツボミとか言っていた」
「私が? いや、聞き違いじゃないかな」
「……“僕”って言っていたよね?」
「……そんな前から意識が戻ってたの?」
「“神々が”…云々から聞こえていた」
「……アー、ワタシ剣デス。ナニモシリマセン」
本当に変な剣だ。
「……ここは、どこ?」
「……ンンッ! えーと、たぶん、南方大陸の方だね。落ちていく時にセレムト山が見えたから。まあ、たぶん諸小国の島のひとつだと思う」
「……落ちた? あ! エアプレイス!」
そうだ。私は空中城塞から……
「お父さんは!? デモスソードは!?」
「……落ち着いて聞いて。レディー。あの浮かんでいた島には、“魂の光”は君以外に見当たらなかったんだ」
「どういう……意味?」
「つまり、言いにくいことだけれども、君以外は皆殺しにされたということだ。だからこそ、私もエアプレイスを落とすことを躊躇わなかった」
それって、みんな…死んじゃったってこと?
十年以上、私が生活してきた…あの場所も……
「あの気色悪いアンデッドは分が悪いと思って退いたんだと思う。私も脱出することで頭が一杯でさ。アイツがどうしたかまでは見ていない」
エアプレイスの皆、私に優しかった……
兵隊さんたちも…モンドもフィーリーも……
もう知ってる人はいない……
前世と同じ……独りぼっち……
「脱出には苦労したよ。私単体では魔力が使えないからね。でも、封印されていたあのエアプレイスは、私の魔力を利用するための機構があって、辛うじてまだ繋がりがあったから。それは君がエアプレイス家の血縁で、正式な封印解除の手続きをしなかったことが、逆に功を奏して…」
「……ゴメン。ユーデス」
「うん?」
「……しばらく静かにして。お願い」
「…………うん。分かった」
私はしばらく、自分の膝に顔を埋めて泣いたんだった。