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013 陥落する空中城塞

「待って。レディー」


「なんなの! 急いでるって言って…」


「いや、向こうから来る! 私の“兄弟”たちと一緒にね!」


 ユーデスがそう言った瞬間、狭かった階段が崩れてデモスソードが姿を現す。


「ほう! ワシの元へ魔剣ユーデスを届けてくれるとはな! 小娘! 褒めてつかわそう!」


「ふざけないで! お父さんは…お父さんはどうしたの!?」


「ククク、知れたこと! ほら、貴様の父だった物だ。返してやるぞ!」


 そう言って、デモスソードが何かを投げる。


 それは折れた剣だった。父の剣だ。


 でもただの剣じゃない。“手首”がついたままのだ。


 これを見ただけで、アタシには父がどうなったのか瞬時に理解した。


「デモスソードッ!!」


「おおっと! 無理だよ! 今の君じゃ…アレには勝てないって!」


「? なんだ? 魔剣が喋るだと? まさか、剣に魂が宿っておるのか?」


 デモスソードがなんか言ってるけど関係ない!


 アタシはがむしゃらで魔剣を振るう!


 型なんて半分も覚えてない! 


 真っ直ぐ斬ることだってまともにできない! 魔力だってない!


「これは酷い! 振り方も、魔力の流し方もメチャクチャだ! レディー! 落ち着いて!」


「分かってるよ! でも、アイツを倒したいんだ! 優しかったお父さんとお母さん! 新しい家族を奪ったアイツを許せないんだ!!」


「ヌハハッ! まさに宝の持ち腐れというヤツだな! やはりその魔剣はワシが持ってこそだ!」


 デモスソードが笑う!


 笑う余裕があるんだ! クソッ!


「悪いけど、君は趣味じゃないからね。名前もデモスソードなんてダサいし! 御免こうむるよ!」


「構わん! ワシのやり方は、無理やり力ずくで奪い取るだけだ!」


「無理やりは趣味じゃないよ!」


 なぜか、ユーデスとデモスソードが会話している。


「敵と話さないでよ!」


「頭を下げて!」


「うあッ!」


 ユーデスが教えてくれなきゃヤバかった。


 デモスソードの剣が、私の頭があったところを轟音を唸らせて通り過ぎていく。


「レディー! 勝つための方法を教える! 教えるから、一旦下がって!」


 アタシはデモスソードの突きをすれすれで避け、後ろにと退く。


 なんとか戦えている……というか、アタシが死なないでいられるのは、潰れた通路と階段のお陰だ。


「ぬう。ちょこまかと。鼠のようにはしっこ・・・・い小娘よな」


 デモスソードはかなりの巨体だ。それが動く度にどこかが崩壊する。


 アタシごとユーデスが潰されたら面倒だ。そういうふうに考えているに違いない。


「……なに? 勝つための方法って!?」


「何をしても無駄だ! 諦めてワシの物になれ!」


 デモスソードが大声を出す。


「男には言われたくないナンバーワンのセリフだよ。ましてや人外だし…変な名前だし」


「ユーデス!」


「あー、うん。単純な話さ。この城塞は空に浮かんでるんだろう? 地下にいる私には、いまが上空なのか、地上なのかすら解らなかったけれども!」


「ええ! それがなに!? 浮かんでるからなんだってのよ?」


「では、ここで問題です。この城塞はなんで空に浮かんでいるのでしょーか?」


「は? そんなこと今…」


 問答なんて後にしてと言おうとして、デモスソードが何やら周囲を見回している。


「これは! 貴様、まさか!?」


「はい。正解。答えは…“私の魔力を利用して浮かんでいる”でした!」


「うあっ?!」「ぬおっ!?」


 ガクン! と、地震でも来たかのように周囲が大きく揺れる!


「き、貴様ァ! まさか空中城塞への魔力の供給を切ったと言うのか!?」


 床が割れて崩れ、デモスソードは喚きながら後退する。


「フフ。封印から解放されれば、力のオンオフ切り替えくらいは容易いことだ!」


 でも、私だって危険だ。


 揺れてるし、今にも大きな割れ目に落ちそうになる。


「ユーデス!」


「レディー。大丈夫。君は私が守る。だから私をしっかりと握っているんだよ。しっかりとね!」


 ユーデスはそう言うけど……


 あ! 今いる床全部が抜けて──


「ヌオオオッ! ワシの魔剣が!!」


「キャアアアアッ!!」



 こうして、この日、空中城塞エアプレイスは地上へと墜落したのだった──

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