さらに深くなるにつれて、通路はより狭くなり、まるで天然の洞窟の中にいるような感じになっていく…
そして辿り着いた先に、丸い噴水のある公園のような、場違いとも思える場所に出た。
地下なのに関わらず、部屋全体が白く光って明るい。
「不思議…浮いている…」
噴水の上にゆっくり回転しつつ浮かんでる1本の黒木…いや、それは直剣だった。
変わった紋様が刻まれていて、回転に合わせて七色に光っている。
「これが…魔剣?」
「やあ、こんにちは。お嬢さん」
「…え?」
誰かに呼びかけられ、私は周囲を見回す。
でも、おかしい。誰もいない。
「こっちだよ。こっち。ほら、目の前だ」
「……もしかして、剣から?」
「フフ。だいぶ顔が近いね。このままだとその可愛いお顔にキスしてしまいそうだよ」
「あ!」
確かに紋様をよく見ようとして近づきすぎていた。
私は慌てて距離を取る。
…でも、私を可愛いだなんて。
「…おや。久しぶりに“人”と会ったと思ったら、魂の形が奇妙だね。もしかして転生者とかいうアレかい?」
私はひどく驚く。
だって、どうして解るの?
「そんなに驚かないでくれ。元“神”だと色々視えてしまってね。ちょっと頑張れば服の中まで視えて…」
「えッ?!」
私は慌てて自分の胸元を抑える。
そりゃ小さいけれども…見られていいわけじゃない。
「フフ。冗談だとも。そんな透視能力まであるわけじゃないさ」
「でも、“神様”なの? なら、助けて!」
「助けて? 助けてほしいのはこちらの方で…」
「お願い! 父さんが…父さんまでも殺されてちゃう」
私が泣いているのを見て、魔剣はしばらく黙った。
「…神様でも、魔剣でもいい…お願いだよ…」
「ユーデスだ」
「…え?」
「私の名前は“闇の魔剣ユーデス”だよ」
ユーデス?
…なんだか神様とか剣っぽくない。
まるで人の名前みたいだ。
「だが、見ての通り何ができるわけでもない。ただの剣さ。喋れるだけのね」
「魔剣なんでしょ? …風を出したりできる」
「封印さえされてなきゃね」
「封印?」
「そうそう。それが私がこんなところへずっと居る理由だよ。たまに神官の老人が見に来るくらいで話もしないさ。…だから君みたいなお嬢さんが来てくれるのは大歓迎だよ」
「そんなこと言っている場合じゃない! だから…」
「うーん。その気持ちも解らないでもないが…」
「こんなノンビリ話していられないのよ!」
「あ! ちょ、ちょっと待って!」
私は手を伸ばし、剣の柄を掴む。
「…私を掴んだ?」
一刻も早く、父さんの元へ戻らなきゃ!
その一心で、私は剣を噴水から引っ張った。
「え? ふ、封印が…消えた? き、君、もしかしてエアプレイスの巫女…なのか?」
思ったより軽い。私の手の内でユーデスはなんだか驚いているようだった。
「知らない! 私もなんかその辺の話は少ししか聞いてないし!」
「正統な巫女じゃないの? 君は…いったい何者なんだい?」
「転生前は単なるデヴよ! 今はレディー・ラマハイム!」