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009 エアプレイスの巫女

「よく来た。レディー・ラマハイムよ」


 螺旋階段の先にあった通路、そこにいきなり現れた細面のおじいちゃんに声をかけられる。


 おじいちゃんはニンマリ笑う。それはまるで蛇が笑ったみたいで……


 どこかで見た覚えが…


「あ。お医者さん…」


 そうだ。私が生まれる時にいた老人だ。


「医者じゃと?」


 あ。でも、白衣じゃないわ。


 あの時は確か真っ白な服を着てて…だから産婦人科の先生か何かとばかり…


 今はなんか王冠をかぶってるし、貴族が着るような高そうなローブ着てるし、剣まで腰に帯びている……


「はて、赤子の時の記憶があるのか?」


 おじいちゃんが母さんに尋ねる。


「さあ。お父様の話はしたことが…」


「お父様? …ってのとは、私のおじいちゃんってこと!?」


「そうだ。ナターシャは我が娘。エィギル・リルデド・エアプレイス。ワシがお前の祖父だ」


 エィギル? それって…


「まさか王様? …このエアプレイスの? てことはお母さんは…」


 お母さんは悲しそうな顔で私を見る。


「なら、もしかしてお母さんは王族ってことなの!?」


 私は単なる中流家庭の娘じゃないの?


 確かに父さんは戦士長だったけど…それは仕事上の立場であって、別に貴族というわけじゃない。


 確か転生先には、贅沢できる身分にしないでって書いたハズだから……食っちゃ寝の百貫デヴになったら困るって……


 ダメだ。なんだか頭ん中がグルグルしてきた……


「なんで今まで黙って…」


「混乱するのは分かる。きちんと説明せねばならないが、今はそれどころではないのは気づいておろう。巨大な敵が目の前にまで迫って来ておる」


「敵って…?」


「進みながら説明しよう。さあ、奥へ…」



 薄暗い通路。不気味でヒンヤリとしていて、とてもそこは城の中とは思えなかった。


「本来、王族エアプレイスというのは権利ではない。“義務”なのだ」


「…義務?」


「そうだ。想像を遥かに越える責任が生じる。それを聞けば、誰も王などになりたいなど思わぬだろう。表向きにはその座を巡って権力闘争しておるが、あれは台本に書かれた茶番じゃ」


 そうだ。エィギル王は年齢が年齢だから、その跡目を継ぐ王子たちがもうすでに水面下で争いを……そんな話を聞いたことがある。


「王となった者は、例外なく後悔するはずだ。得た権力には見合わぬ、その責任の重さにな。そして秘密を知ったことで死ぬまで命まで握られる。まったくもって割に合わんじゃろ」


「まったく意味が…」


「どどのつまり、ワシは単なるお飾りということじゃ。跡を継ぐ王子も同じ未来を歩むじゃろう。真のエアプレイスを継げる者は女しかおらぬ」


 王様……帝王が飾りってどういうことなの?


「女が継ぐって…」


「そう決まっておるのだ。この空中城塞を制御できるのは、真の後継者たるエアプレイスの巫女しかおらぬ」


 おじいちゃんは、お母さんをチラリと見やる。


「もしかして、お母さんが……」


 お母さんは悲しそうに頷く。


「お父さんは…?」


「知っているわ。でも、周りには知られていない。隠す必要があったのよ」


「隠す? 何から?」


「それは……」


 ドガンッ! という物凄い音と共に通路が吹き飛び、私たちは瓦礫に押し倒される!


 肌を焼く強い熱風に煽られ、私は手足の感覚がなくなり、全身がバラバラになってしまったのではないかと思った。


「ううッ…。火の、球?」


 倒れた私の目の前にあったのは、激しく燃え盛る巨大な黄金の球だった……

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