エアプレイスの周囲を、無数の飛竜が飛び交う。
緊急事態が起きていることが誰の目にも明らかであった。
「内外竜巻陣形! 飛竜隊1番から3番は東から西に内円を旋回しつつ展開! 4番から6番は反対方向に外円に展開しろ!
長丁場になるぞ! 気流を上手く利用し、飛竜を疲れさせるな! 敵影が見えるまで、距離は一定に保て!
見張り塔の守りを厚くしろ! そこが要となる! 何があっても決して崩されるな!
残りは指示があるまで待機だ! いつでも飛び立てるようにしとけ!」
武装したグランバ自ら、飛竜に乗って細かく指示を出していく。
バラバラに飛んでいた飛竜兵たちが、指示される通りに陣形を組んでいった。
「戦士長!」
グランバの元に、2体の飛竜が近づく。
「モンド! フィーリー! 城の方は!?」
「問題ない! 陛下の避難は完了した!」
その言葉にグランバはホッと安堵した顔をする。
「しかし、敵の正体はなんなのですか?」
「知らん! つい先だって襲ってきた斥候の魔物を数匹倒しただけだ!」
「魔物…ということは、まさか魔王ブロセブブの?」
「違うと思う。あれは“アンデッド・バード”だった…」
「アンデッド?」
フィーリーが怪訝な顔をしたのも当然だった。魔王がアンデッド族を使役するという話は聞いたことがなかったからだ。
「アンデッドは死体が魔力を帯びて自然発生する魔物だろう?」
「ああ。だが、意味ありげな隊列を組んでいた。何か知性ある指揮者がいるに違いない」
モンドとフィーリーは顔を見合わせる。
「アンデッドを使役する者だなんて、そんなヤツがいたら…」
「ああ。人間にとっては驚異とな…」
グランバはそこまで言って、東の方から無数の何かが飛んで来るのにようやく気づいた。
燃え盛る球体が炎と煙を棚引かせ、エアプレイス目掛けて何十個も一斉に飛んで来ていたのだ。
「まさかあれは砲弾かッ!?」
「馬鹿な! そんなことが!」
空中城塞エアプレイスは地上から数千メートルの上空を浮かんでいる。地上からの大砲が届くはずがない。だからこそ、そんなあり得ない攻撃を前にして、飛竜隊は大混乱に陥る。
「陣形を崩すな! 立て直せ!!」
グランバの一喝で兵たちは平静を取り戻し、長槍を構えて対処に動き出す。
球体の何発かは当たり、城壁の方は何箇所か壊されたが、幸いなことに隊そのものには被害はなかった。
「よし! 次の攻撃に備えろ!」
グランバがさらに指示を出そうとした時、モンドが首を伸ばして目を見開いているのが視界の端に入った。
「戦士長! 違うぞ! あれは砲弾なんかじゃない! 着弾したところを見ろ!」
「なんだと?!」
「あそこからアンデッドが出てきてる!」
モンドが指差したのは、ひび割れた球体から白骨の腕が飛び出し、スケルトンたちがガシャガシャと這い出しているところだった。
スケルトンたちは真っ黒な眼窩で、飛竜隊を捉えるとまるで喜ぶかのようにカクカクと下顎を動かす。
「まさかあれは移動手段なんですか!?」
「無茶苦茶だ! 生物じゃないからやれることか! クソが!」
「待機兵! 至急、着弾地点に向かえ! 展開している飛竜隊は投げ槍で迎撃しろ! アンデッドどもをこれ以上、エアプレイスに着陸させるな!」
グランバが忙しく指示を出しつつも、モンドとフィーリーに目で合図した。
2人は頷いて、それぞれの持ち場へと戻って行く。
「……一体どこから攻撃してきている? しかし、命中率は高くない。落ち着いて対処すれば…」
射撃地点を叩くべきだとグランバが思案している最中、さっきとは比べ物にならない程に大きな火弾が豪速で飛来する! それは城の門ほどの大きさがある規格外の物であった。
「なんなんだアレは…!? ま、まずい! 城の方へ向かってるのか!?」
大きな火弾はたった1つだったが、延長線上にある飛竜隊を薙ぎ倒しつつ、勢いはまったく衰えない!
「クソッ!? レディー! ナターシャ!!」
グランバは飛竜の手綱を引き、火弾を追って城へと急行したのであった。