私はもうすぐ15歳になろうとしていた。
幸いなことにデヴにはなってない。
だけれど剣の才能は相変わらずだ。
そして…胸も、お母さんと違い、こっちも成長が見込めない。
毎朝、塔の屋上でお父さんと剣の稽古をする。
「やッ! はッ!」
「そうだ! いいぞ!」
お父さんが褒めてくれる。
けれど私はそれがお世辞だと知っていた。
「レディー。もう少し手首のスナップを効かせてみろ」
お父さんは木剣を素振りして見せる。手首を返すだけで、その剣圧が私のシャツをはためかせる。
「えっと…こう? あ!」
手が滑って、剣を落としてしまう。
お父さんは笑ったけれど、一瞬だけ眉間にシワが寄ったのを私は見逃さなかった。
「……もう、そろそろ。お母さんと勉強するから」
「……ああ」
お母さんは元文官だった。主に歴史文献をまとめるような仕事をしていたらしい。
私も今はそれを目指すべく、剣の稽古の後は歴史の勉強をするようになっていた。
「なあ、レディー」
「…うん? なに、お父さん」
「お前は俺の愛する娘だよ」
胸の奥がギュッと痛む。
前世でそういえば同じようなことを言われたことがあった。
引きこもりの私に……かつてのお父さんが…でも……
「……もう行くね」
やっぱり、転生先のお父さんの顔もちゃんと見れなかった。
……ああ、男の人は肉親でもやっぱり苦手だよ。
──
「まあ、飽きもせずによくやるものだ」
フィーリーは尖塔の影で、親子の稽古を見やっていた。
「旦那、ちゃんと薬は効いてますぜ」
小柄なほっかむりが揉み手をしてニタニタ笑う。
「ああ。見ればすぐ分かる。…効果が見込めなきゃ、お前を斬り捨てていたところだ」
「へへへ。ご冗談を…」
フィーリーは返事をせずに、無表情のまま男を見やる。そのどこまでも氷のように冷徹な眼差しを見て、男はゴクリと息を呑んだ。
「ラマハイム…いや、エアプレイス家の女系血縁は弱めねばならん。剣も魔法も上達させるわけにはいかんのだ」
「へ、へえ…」
「引き続き食事に薬を混ぜろ。…バレた時には」
「…舌を噛んで死ね、ですね。分かっておりやす。それに絶対にバレませんて」
この男は自害する気は絶対にないだろう…フィーリーはそう確信していた。
「使用人が急に実家に戻って連絡がつかなくなる…まあ、よくある話だな」
「……」
「私に従えとはまでは言わん。お前の好きな金に忠誠を誓え」
フィーリーは金貨の詰まった小袋を放ると、男は慌ててそれをキャッチした。
その滑稽な姿を見て、ニヤリとフィーリーは笑う。
「そうだ。それが分相応というものだ。…あの親子にもそれを教えてやれ」