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004 空中城塞エアプレイス

 『空中城塞エアプレイス』。


 通称、ここは“帝国”と呼ばれるところだ。文字通り城も城下町も魔法によって空に浮かんでいて、年に数回降りる以外は、ほぼ世界中の空を移動している。


 前の世界では異常な光景に感じたろうけど、異動…いや、転生した先ではごく当たり前の光景だった。



 私は戦士長グランバ・ラマハイムの娘として、すくすくと健康に成長していく。


 そしてもう太っちょにはならない。前世ではろくに運動もせずに食べてばかりいた。


 幸いなことに、現世では「子供はぽっちゃりしていた方がいい」と、やたらと御飯やお菓子を与えるような叔母や祖母はいない。


 むしろ、お父さんもお母さんも少し厳格な方で、甘やかされるとそれに乗ってしまう私にはちょうどよいくらいに思えた。



「剣の振り方と一口に言っても、様々な物がある。筋力で振る、魔力で振る…」


 お父さん…グランバは剣を振ってみせる。筋力で振ると普通に風斬り音だけだが、魔力で振ると光を纏ってキューンというようなモーター音のようなものが響く。


「そして、それを同時に使う!」


 風斬り音に光とモーター音が合わさり、某SFの騎士が持つ光の剣みたいになった。


「剣術もこの技術の差で、大きく“剛剣派”と“流剣派”に分かれている…ちなみにパパみたいに2つを同時に扱える剣士はそうはいないんだぞ!」


 お父さんの鼻が天狗のように高くなったように見えた。


「パパ、ちゅごいでちゅ!!」


「よしよし! レディーはお利口さんだねぇ〜」


 グランバは私を片手で抱きかかえると、頭をグシャグシャになでまわす。


 男性と話すのも、父親なら平気だ。色黒マッチョにも少し慣れてきた気がする。よしよし。


 それに私は前の陰気デヴじゃない。


 何か発言しても「なにデヴがイキってんだ」みたいには見られない。


 このエアプレイスに居る人々は皆が親切で優しく、私が何を言っても笑ってくれる(幼子が微笑ましいって理由もあるだろうけど)。


「ねえ。まだ剣を教えるのは早いんじゃないかしら?」


 お母さん…ナターシャが心配そうに見てくる。相変わらずの美人だ。


 今の私には同じ遺伝子がある。だからきっと将来は安泰のハズだ。問題ない。順調、順調。


「…そんなことはないさ。こんな時代だ。自分で自分を守れるようになるに早すぎることはない」


「…“魔王ブロゼブブ”」


 お母さんがそう言うと、お父さんの顔が険しいものになる。


 そう。この世界にはどうやら魔王という悪い存在もいるらしい。


「あの魔竜を復活させでもしたら、世界は……」


 なんか魔竜なんて代物もいるらしい。


「大丈夫だ。アナハイムのインペリオン家に勇者が生まれたらしい」


 勇者? 勇者までいるの?


「なら、その子供が成長した時には…」


 え? なんで父さんも母さんも悲しそうに私を見てるの?


「きっと大きな戦となる。このエアプレイスも例外じゃなく巻き込まれることになるだろう」


「……この城塞に“魔剣”がある限りはそうね」


 え? なに? 魔剣って…


 いや、なんか子供だから教えても仕方ないみたいなの止めてよ。気になるじゃないの。


「“まきぇん”?」


 質問したつもりだったんだけれど、まだ舌足らず過ぎる、私。


 お父さんとお母さんは少し驚いたように私を見ると、プッと吹き出した。


「ワッハッハッ! レディーは何も心配しなくていいんだぞぉ。これからパパと一緒に少しずつ強くなろーな!」


 え?


 ごまかさないでよ…


 なによ、魔剣って。気になる。教えてよ。


「……もう今日はおしまい。さあ、お昼寝の時間よ。ねんねしましょね」


 えー。


 お昼寝なんてしなくないのにー。


 魔剣のこと、もっと知りたいのに……

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