赤ん坊から人生をやり直す。
今度は絶対に失敗しない。
中学の時に、太っていることを理由にフラれたようなことが二度とないように…
それから自暴自棄になって不摂生なんてしない…
自分をお腹や太腿の贅肉を見る度に涙を流したりなんてしない…
100メートルすら走れない自分を罵ったりしない…
自分に自信を持てなくて、学校でも職場でも友達が作れなかったのはこれでオシマイ…
父さんにも申し訳ない顔をさせない。
母さんにも無視されたりしない。
弟……今回できるかは解んないけど、兄弟とだってちゃんと目を見て話す。
そう。家族とだって絶対にちゃんとコミュするんだ。
もう絶対に逃げ出したりしないもん。
こんな惨めな人生は二度とイヤ。
だから、この異動に後悔はない。
私は新しく……
──己が人生を否定するのか?──
え? 声? どこから?
──命は平等たり得ぬ。しかしても命は命──
誰なの?
──すべからくして生まれた命を粗末にするは罪──
粗末?
粗末だなんて…そんなつもり…
──命を嘲笑う者に、其れに等しき命は与えぬ──
なに? どういうこと?
──学ぶために命は与えられた。学ばない者は同じ轍を踏むだろう──
学ぶ? 何を……?
──愚者よ。お前には“冥界”こそが相応しい──
ひどい……ひどいよ……
なんでそんなことを言われなきゃいけないの?
あれ? 墜ちる?
わ、私は墜ちる…どこへ?
イヤ…イヤ……
イヤァアアア!!!
──こっちだよ。こっちにおいで──
──
「異動成功したんすか?」
「解らん。システムエラーが起きたって話だぞ」
「えー。データ…あー、全部ブッ飛んでるすよ」
「まずいな。サポート班に連絡は?」
「え? でもこの顧客、希望は“転生”すよね? だったら、この“ボディ”は破棄するんでしょ?」
「ああ。“異動交換”じゃないからな」
「そうだとすると、産まれたばっかの赤ちゃんだと追尾が難しいんじゃ…」
「事故として報告を……いや、やめとこう」
「え? いいんすか? 先輩」
「どうせもうこの世界にはもういないんだ。クレームつけるところもないだろう」
「ま、それもそうすね」
「白木博士には俺から連絡しておく」
「あー、はい。あれ? でも、オーナーに直接なんすか?」
「オーナーだが、現場責任者でもある」
「はあ。よくわかんねぇすね。そこんとこ」
「いいんだ。俺たちは知らなくて。…“異動”させられても知らんぞ」
「こっわ!」
「…本当にそう思ってるのか?」
「…しっかし、ブスな上にデヴすね。この女。せっかく全裸だってのにありがたみもねぇや」
「……おい。あんまり変なことはするなよ」
「あー。ヘイヘイ、この娘じゃ、大丈夫す。こっちから遠慮します」
「……そういうことじゃない」