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第14話 古代都市

 陽の光が顔に差し込んでノーマンは目を覚ました、手には柔らかな感触と草の匂いがする。

体を起こしてみると、どうやら芝生の上で寝ていたようだ。


「ここは?」


 心臓が止まりそうになった。

 たしかに公園の芝生なのだが、公園の外には太陽光を反射する異様に細長い高層ビルが林立し、ガラスの表面には虹色の光が揺れて見たこともない文字が映し出されていた。

 空には宙に浮いた車が滑るように行き交い、地上では奇抜な形の服を着た人々が、軽やかに交差する。何語かわからない言葉があちこちで飛び交い、街の所々の空間では巨大なホログラムのような映像が浮かび上がっている。


「俺はアクパーラ号にいたはずだ……夢か? いや、夢はこんなにリアルな感触じゃない……。でも、これは……?」


 戸惑っているノーマンのすぐ横で「うお!なんだここは!」という女の声がした。


 見ると加藤がいた。

「すげー!これはあれか!異世界転生ってやつかあ!?」加藤がひとりでテンション高くはしゃいでいた。

「部屋に篭りっきりで退屈してたんだよ!魔王討伐ルートか? それともハーレムか!?」


 ノーマンは今にも踊り出しそうな加藤に話しかけた「君は加藤君だっけ?」加藤が振り向いた。


「お、あんた、あのロボットみたいな女といつも一緒にいるやつじゃん?」


「ロボットじゃありませんわ!」

 加藤の後ろでカーラと戦ったあの少女が不愉快そうに見ていた。


「カーラお姉さまもわたくしもロボットではなく『ルミノイド』といいますの!」


「あんた誰?」加藤が聞き返した。


 ノーマンはこの状態で自分のペースで喋れる加藤はすごいなと思ったが口には出さなかった。


「人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀ですわよ。」


「あ、わりー。あたしは『加藤沙耶香』っていうんだ!アクパーラ号で機関士をやっていたんだ。クビになったけどな。」

 悪びれずに挨拶をした。


「わたくしは『ルミノイド』の『ルリ』と申しますわ!」


 ルリはうやうやしく頭を下げて自己紹介をした。この光景、どこかの名作アニメで見たことがある。


「で?そちらの方は?」ノーマンを見てルリが話しかけた。


「俺は野間一樹、ノーマンと呼ばれている。考古学者だ」


「『こうこがくしゃ』ですの?」


「あたしも初めて知ったわ……」よくわからないけどノーマンはガッカリした。


「う、うーん……」ノーマンの横で寝ていたカーラが目を覚ました。


「お姉さま!目を覚ましましたのね!」ルリがノーマンをどかしてカーラのそばに駆け寄った。


「ここは、どこですか?」周りを見てギョッとして動きが止まった。


「え、……ここは……もしかして、私が生まれた場所……?……」


「本当か!?」ノーマンが身を乗り出して聞く。

「もしカーラの故郷だったとしたら、ここはあの神話の街なのか……」そういうとノーマンはもう一度周囲を見渡した。 


「え、ちょっと待て……。え、まさか」ノーマンは立ち上がると全身を震わせた。


「どうしたんですか?」カーラが心配して声をかけると、ノーマンはカーラの両肩を掴んで興奮して話し始めた。


「凄いぞ!カーラ!ここはあの絵本で見た神話の街なんだ!天に届く建物も!行き交う空行く車も!あの遠くに見える高い山も!歩いている人たちも!絵本と同じだ!まさかこの目で見れるとは思わなかった!」


「は、はい!?」カーラが驚いたような返事をした。


「いいかい!俺の予測していた古代遺跡文明の推定海域は海底地溝が広がっている部分だったんだ、あそこの高山が僕らの時代のロロ島である確率が非常に高い!今、太陽の位置から目測しても南西の方向に山があるから!そう!間違いない!僕の仮説は正しかったんだ!カーラ!ここは星降りの民が住んでいる街だ!」


 ノーマンは足を開き両手を上に上げると、天に向かい、「ついにきたぞ!……ここは……僕が夢にまで見た『楽園』なんだぁぁぁ!!」と叫んだ。


 ノーマンのテンションは最高潮に達していた。もう止まらない。


 ……と思ったら、いきなりテンションが急に下がり今度はしょんぼりしだした。


「でも……でもな……この都市は海に――」ノーマンが口を開いたその瞬間――


 バチンッ!


 加藤の平手がノーマンの後頭部を直撃した。

「おまっ!バカ!」加藤が目をつり上げて怒鳴る。


 ノーマンはハッとしてカーラの方を見た。

 カーラはきょとんとしている。

 だが、ほんの少し、不安そうな表情が見えた。


「……ごめん、やめとこう。」


 さすがのノーマンも、これ以上は言葉を飲み込んだ。


 落ち着いた4人は公園のベンチと思われるものに座っていた。ベンチの前は遊歩道のようになっており、樹々の隙間からは陽光が差し込んでいた。


「ところで、ルリはもう戦わなくていいのか?」

 ルリは『いまさら?』という顔をした。


「お姉さまがそばにいるのなら戦う理由はありませんわ。」


「私は、最初から戦うつもりなんてなかったのです。」

カーラは微笑むでもなく、ただ静かに言った。

「もし戦わずに済むなら、そのほうがいいに決まっています。」

ゆっくりと息を吐き、ルリに目線を合わせる。

「あなたも、そう思いませんか?」


「ごめんなさいですの……」ルリはしょぼんとして素直に謝った、どうやらカーラには弱いらしい。


「しかし、過去へ飛ばされたにしても、カーラとルリだけならまだわかる。エネルギーの目みたいな所にいたからね。わからないのは俺と……」

「あたしか?」加藤が自分を指差した。


「そうなんだ、2人とも古代遺跡文明と関わりを持っていない。まるで、何者かに引っ張ぱられるようにここに来た感じがする。」


「あたしの場合はコイツかな」加藤は胸元からオレンジ色の小さな石がついたペンダントを出した。


「こいつが光ったと思って、気がついたらここにいたんだ。」


「ちょっと見せてくださらないかしら。」ルリが加藤のペンダントに顔を近づけた。


「これ!オーブじゃありません事!」大きい声を出してしまい、「シッ!」と慌てて加藤にたしなめられた。


 ルリは声を出さないように両手を口にあてながら「これはわたくしやお姉さまの額に付いているオーブと同じものですわ。」と囁き声で言った。


「ふぉええ!」今度は加藤は声にならない大声をあげて、ルリが「シーッ」と加藤をたしなめた。


「どこで手に入れましたの?」ルリが聞くと加藤が言い淀んだ。


「安心なさって。取ったりはいたしませんわ。ただ、これひとつで発電所並のエネルギーが内封されていますの。」


「!」


 加藤はびっくりした。横でカーラも目を丸くして自分の額に触れて驚いていた。ルリは構わず話を続けた。


「お願いですわ、せめてどこから手に入れただけでも教えてくださいませんか?」


「祠……」加藤がぼそりと言った。


「え?」


「この石は、あたしの生まれた村でオマモリ様として古くから伝えられて、祀っていたものだったんだ……。でも、壊れた。家も人もぜんぶ壊されてこのかけらだけ残ったんだ。」


「そうでしたの……」ルリの顔が険しくなった。

「失礼を承知でお聞きしますわ。もしかしたら、赤い目をした化け物に襲われませんでした?」


「ああ、破滅の天使だろ、あたしの仇さ。」


「その破滅の天使は、わたくしたちはヌシと呼んでましたわ。ヌシは私たちをシェルターに閉じ込めましたの。私にとっても仇になりますのよ。」


「ヌシ……」カーラが呟いた。

「やっぱり、私は知っている……この世界……」

「お姉さま?」ルリが心配そうに顔を覗き込む。

「私は……ここで生まれた……。それは間違いない。でも……」


 カーラは街を見渡した。記憶の奥底に眠っていた光景が、目の前に広がっている。だが、それ以上のことは思い出せない。


「だったら、もっと調べればいいんじゃねえの?」加藤が腕を組んで言う。


「自分の過去を知るチャンスなんだろ?」


「そうですわ、お姉さま!」ルリが嬉しそうに頷いた。


「それに、わたくしたちがどうしてここに来たのかも、何か手がかりがあるかもしれませんわ」


「……そうですね」カーラは小さく微笑んだ。


「これは過去の世界だ。下手に関わると、歴史が変わってしまうかもしれない」


「歴史とか関係ねえだろ、もうこんな未来は消えてんだからよ」加藤が肩をすくめる。


「……いや、関係はあるはずだ」ノーマンは言葉を選びながら続けた。


「なぜなら、俺たちは過去を『見る』だけじゃなく、実際にこの世界に存在しているからだ」


「つまり?」ルリが首を傾げる。


「俺たちはただの観察者じゃないってことだ。何かの意図があって、ここに連れてこられた。もしかしたら、俺たちが過去に影響を与える存在なのかもしれない」


 その言葉に、カーラはハッとした。


「……もし、私たちがここにいることが、何かの引き金になるとしたら?」


「あり得るな」ノーマンは腕を組んだ。「だが、それを確かめるしかない」


 4人は意を決し、都市の奥へと歩みを進めた――。


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