――また、この場所。
――また、この静寂。
ホログラムの青空は所々欠けて、パズルのピースが抜け落ちたように六角形の黒い影を映していた。
巨大なシェルター内にはかって何万人という人が住む街を抱えていたが、今は廃墟と化して動くものはどこにもいなかった。
静寂が支配する空間でルリはゆっくりと目を開けた。
クレードルの記録によると、今回は87年と3744時間ぶりの覚醒だった。
冷たく硬質な床を歩きながら、端末に指をかざす。空間に古代文字が赤く表示された。
「あら、120番ダンパーが破損していますわね……」
それ以外のシステムはいつも通り、何の問題もなく稼働していたようだ。
ルリは淡々とメンテナンス作業をこなしていく。
天井の裏にある耐圧ダンパーを交換し終えると、ふわりと一番高い塔の上に舞い降りて周囲を見た。そこには87年前と変わらない廃墟が広がっていた。
……そう、いつもと同じ。
ここにいる限り、何も変わらない。一万年同じ事の繰り返し。
誰にも褒められない。
誰にも話しかけられない。
誰も、私を見てくれない。
ただ、使命を果たすだけ。
そして、また長い眠りにつく。
……それが、何度繰り返されたのかも、もう覚えていない。
シェルターの警報が静かに鳴った。
また、小さなヌシが侵入したのだ。
ルリは機械的に対応し、短い戦闘の末にそれを排除する。
ヌシが黒い霧のように消えていくのを見届けながら、ルリは呟いた。
「……わたくしが倒しても、誰も褒めてくれませんのね。」
ぼんやりとした感傷に浸りながら、額に手を当てる。
その時、オーブがかすかに反応した。
「――ッ!」
……懐かしい感覚。
暖かく、優しく、包み込むような何か。
それは、遠い記憶の中で感じたもの。
……家族の気配。
カーラお姉さま。
――そんなはずはない。
でも、確かに「彼女」は目覚めた。
ならば、今度こそ。
私はもう、ここでただ待ち続けるだけの存在ではない。
ルリはシェルターの中央に向かうと、マザーオーブの保管されているホールに入った。
マザーオーブは高さだけでもルリの倍はあろうかという巨大なクリスタルだ。
マザーオーブの中では蒼く緩やかな光が点滅していた、ルリはマザーオーブに向き合うとうやうやしくお辞儀をして話しかけた。
「これから、しばらくここを空けますの。許してくださいましね。」
マザーオーブは一度だけ柔らかなそれでいて強い光をゆっくりと放って、また緩やかな点滅を繰り返した。
ルリは立ち上がり部屋を出ると、シェルターのエアロックを見つめた。
あの先には、長い間閉ざされていた世界が広がっている。
「お姉さま……。お待ちくださいませ。わたくし、必ずあなたのもとへ参りますわ!」
シェルターの扉が静かに開く。
ルリは、閉ざされた世界から初めて外へと踏み出した。